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ゴーン事件の家宅捜索、日本司法の特異さ露呈

4/11(木) 16:21配信

ウォール・ストリート・ジャーナル日本版

 【東京】日産自動車のカルロス・ゴーン前会長の事件で、日本の司法制度の特異な部分がまたひとつあらわになった。検察当局が容疑者と弁護人の通信記録を押収して調べることができ、その行為がまず問題にならないことだ。

 ゴーン前会長の弁護団の弘中惇一郎弁護士によると、東京地検特捜部は前会長を4日に新たな容疑で再逮捕し、東京都内のマンションを家宅捜索した際、本人と海外の弁護士などとの通信記録を押収した。

 弘中氏は、押収されたのは「裁判のための資料ばかり」で、「これは明らかな防御権侵害であり、弁護権侵害」だと述べた。

 10日には、米国・フランス・レバノンにいるゴーン前会長の弁護士との共同書簡で検察の行為に抗議したと述べた。押収された資料の返還を裁判所に要請する予定だという。

 ゴーン前会長の妻キャロルさんは先週のインタビューで、家宅捜索が「地獄のように恐ろしかった」と述べ、検察からの任意聴取の要請に応じなかったと話した。翌日にはフランスに出国したが、日本に戻り、11日には証人尋問に応じるため東京地裁に出頭した。

「秘匿特権」の侵害

 日本の当局は、新たな容疑が重大なことから今回の再逮捕と家宅捜索が正当化されるとしているが、他国の司法制度では通信記録の押収は「秘匿特権」の侵害とみなされるだろう。

 米コロンビア大学ロースクールの講師で日本法研究プログラムの責任者を務める石塚信久氏によると、米国では「被告は開示される恐れなしに弁護人と全ての情報をやり取りする能力を通じてのみ、無実を十分に証明できると考えられている」。証拠収集の際に秘匿特権が侵害されたと判事がみなした場合、検察はそれを法廷で使えなくなるという。

 ゴーン前会長が昨年11月19日に初めて逮捕されて以来、日本と他の先進民主主義国における司法制度の違いが浮き彫りになっており、今回の家宅捜索はその最新の例だ。刑事事件でよくあるように、ゴーン前会長は最初の逮捕から数週間にわたって起訴されないまま勾留され、弁護士の立ち会いもなく検察の取り調べを受けた。起訴後は、暴力事件の容疑者でないにもかかわらず数カ月勾留された。

 ゴーン前会長は、私的な利益のために日産での地位を利用したなどの容疑を否定している。

 前会長の事件では秘匿特権の侵害が新たな問題として浮上している。司法の専門家によると、日本では被告が法廷で自身を防御する一般的な権利があり、弁護人の事務所を捜索することはできないものの、秘匿特権を広範に保護する法律はない。

 刑事事件を手掛ける今村核弁護士は、秘匿特権について「ここまで広く侵害している先進国はあるだろうか」と述べた。

米国のTV番組との違い

 検察はゴーン前会長の件について詳細を話すことを控えているが、法律に従い適切に処理していると話している。法務省のある当局者は米国人の日本批判を非難し、日本では召喚状や盗聴や覆面捜査による証拠収集が制限されていることを彼らは知らないと述べた。米国では、それらは全て一般的な手段だ。

 この当局者は「米国のテレビ番組で見るような方法での捜査は、私たちにはできない」「実際に使える捜査方法は、捜索と押収だけだ」と述べた。

 検察は4日、キャロルさんの目の前でゴーン前会長のマンションを家宅捜索した。弘中弁護士やキャロルさんによると、係官らは前会長が裁判のために用意していた書類のほか、夫妻の日記、キャロルさんの携帯電話およびレバノンのパスポートを押収したという。 

 検察は証拠差し押さえの令状を取得すると、広く解釈し、家族の所有物を含め裁判に関係し得る物なら何でも持っていくのが一般的だと司法専門家らは話している。

 検察は行き過ぎだと裁判所が後で判断したとしても、検察が不利益を被る可能性は低い。刑事事件を専門とする長井健一弁護士は「持って行った証拠が違法だからといって証拠から排除されることは、かなりハードルが高い。違法ではあるが証拠から排除するほどの重大な違法ではないと言って、採用されることが多々ある」と述べた。

 日本弁護士連合会は弁護士と依頼人のやり取りの秘密を守る権利を求めて法務省や国会議員に働きかけてきた。同連合会の通信秘密制度ワーキンググループで座長を務める片山達弁護士は「本来は自分に不利益なことも聞かないと弁護ができないが、情報が漏れる恐れがあるとなると都合の悪いことをしゃべらなくなってしまう」と述べた。

手紙押収は違法との判例も

 日本の検察にも限界があることを示唆する判例がある。大阪で起きた強盗事件に絡み、検察は2010年に被告の拘置所の居室を家宅捜索し、被告が弁護士に宛てた手紙を押収した。大阪の裁判所は後にその行為を違法と判断し、被告と弁護士への賠償金計110万円を支払うよう国に命じた。

 それにもかかわらず、被告は有罪判決を受けた。

 この被告の弁護を担当した宮下泰彦弁護士は、手紙の押収が依頼人に心理的影響を与え、裁判が依頼人に不利に傾いたと述べた。ゴーン前会長の件には関与していないが、「同じ性質のものだと思う」と話している。

By Megumi Fujikawa

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