ここから本文です

「生活保護バッシング」繰り返される理由「ゲスの勘繰り」行き着く先は……平成に浸透した「二つのカオス」

4/18(木) 7:00配信

withnews

ネット上の「生活保護バッシング」は、なぜ繰り返されるのか。平成は「個人による個人監視」という異様な世界を生み出した。2012年、あるお笑い芸人の母親が生活保護を受けていることが発端となり、国会議員を巻き込む騒動となった。その後もやまないバッシングの連鎖。「ゲスの勘繰り」が行き着く先とは……。(評論家、著述家・真鍋厚)

【画像】これがリアル貧困家庭で育った若者たち 服は?カバンは?スマホは?

2012年に起きた「あの騒動」

「誰かが得をしている」=「自分が損をしている」という短絡的な思考で、特定の他者に敵意を向ける感受性が今ほど先鋭化している時代はないだろう。

昭和の終わり頃にすでに種がまかれていたとはいえ、数多の「炎上」を引き起こす不安の芽は、平成に入って社会全体を覆い尽くすほどに成長した。

2012年にある週刊誌の記事がきっかけとなって、お笑い芸人の河本準一の母親が生活保護受給者であることが報じられ、参議院議員の片山さつきが不正受給疑惑の問題へと発展させた。

これが呼び水となり、ネットではソーシャルメディアなどで河本個人に対する攻撃的な言動を行なうユーザーが拡大し、テレビを中心に「誤報」を交えた扇情的な報道がなされたことも手伝って、「生活保護バッシング」と称されるものが吹き荒れることになった。

以後、生活保護にまつわる問題は、ガソリン級の炎上を誘発しやすい、燃焼性の高い案件として現在に至っている。

「損得勘定」に異常なほど敏感

わたしたちがまず確認しておかなければならないのは、わたしたちが置かれている経済的または心理的な状況だ。

先進国の多くで国民が「損得勘定」に異常なほど敏感になっており、富裕層や貧困層などの階層をターゲットに怒りを爆発させることが日常茶飯事になっている。

これは「自分のライフスタイル」と「他人のライフスタイル」を比較することが大きな関心事となり、そのずれに不満や欠乏の感情を抱きやすくなっているからだ。しかも、比較の対象範囲は上下左右を問わず全方位に拡大している。

報酬とアイデンティティのカオス

社会学者のジョック・ヤングはこのことについて、「報酬のカオス」と「アイデンティティのカオス」が背景にあると説明する。

報酬が個人の能力に応じて公正に配分されているという原則が侵害されることが「報酬のカオス」であり、アイデンティティと社会的価値を保持している感覚が他者に尊重されることが危うくなることが「アイデンティティのカオス」である。

この2つのカオスにわたしたちは直面しているという。

     ◇

勤勉な大多数の市民は、報酬が支離滅裂な方法で配分されている気配を察知している。こうした報酬配分があまりにも広がったために、社会全体の道理がかなっているとの了解するのは困難である。このような報酬のカオスに対する怒りの矛先は、階級構造の最上部の大金持ちか最底辺層に、つまり労働の対価が明らかに多すぎる人と、働かずに報酬を得ている人に向けられる傾向がある。言い換えれば、あからさまに能力主義の原理を攪乱する者たち、すなわち大金持ちとアンダークラスに敵意が集中するのである。――ジョック・ヤング『後期近代の眩暈―排除から過剰包摂へ』(青土社)

1/3ページ

最終更新:4/18(木) 7:00
withnews

こんな記事も読まれています

あなたにおすすめの記事