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【木内前日銀政策委員の経済コラム(39)】 日銀短観は悪化だが、日銀は追加緩和を温存

4/12(金) 12:35配信

ニュースソクラ

催促相場回避へ、日銀が明るい材料を強調する展開

 日銀・短観(3月調査 4月1日発表)では、大企業製造業の業況判断DIは2四半期ぶりに悪化した。貿易統計、鉱工業生産統計等で既に確認されている、昨年末から年初にかけての外需悪化による景気減速を裏付けるものだ。

 しかし、今回の調査結果は、日本が本格的な景気後退に陥ったことを決定づける内容とは言えない。また、日銀の追加緩和実施に直結するものではないだろう。

 大企業製造業の業況判断DIは、現状で前回比7ポイントの下落と、6年3ヶ月振りの悪化幅を記録した。また、先行き判断も4ポイントの下落と、景気は当面、調整局面が続くことが示唆された。

 一方、大企業非製造業の業況判断DIは、現状で前回比3ポイントの低下と、比較的小幅な下落にとどまった。また、非製造業の中堅・中小企業では、小幅に改善している。これらは、足もとでの外需の悪化が、内需の本格的な悪化へと未だ波及していないことを示している。

 ちなみに、2008年の本格的な景気後退入りの前には、製造業の業況判断DIと並んで非製造業の業況判断DIも顕著に下落していた。

▼企業の収益環境は厳しい

 内需が比較的安定を維持している点は、設備投資計画にも表れている。今回初めて示された2019年度の全規模全産業設備投資計画は、前年度比-2.8%とマイナスからのスタートとなったが、過去(2000~2017年度)の平均値(3月調査)を依然上回っている。

 さらに、外需悪化によって景況感が顕著に低下した大企業製造業でも、2019年度の設備投資計画は前年度比6.2%と、過去の平均を大幅に上回っている状況だ。

 年末以降急速に悪化した外需の先行きの見通しについても、企業はそれほど悲観的にはなっていない。大企業の2019年度輸出計画では、年度下期に増加率を高める姿となっている。企業は、現時点では年度後半の外需持ち直しを期待しているのだろう。

 ただし、足もとでの外需悪化が、企業の経営環境、マクロ経済環境に与えた影響が軽微であるとは言えない。それは、製品需給判断DIの大幅悪化と価格判断DIの低下に表れている。企業にとっては、値上げがより難しい状況になったのである。

 他方で、雇用人員判断DIは労働需給が極めて逼迫した状況にあることを引き続き示しており、人件費の増加が企業の収益見通しを厳しくしている。その結果、2019年度の経常利益見通し(全規模全産業)は-0.7%と、前年度の-1.5%に続き、2年連続のマイナスとなった。こうした収益環境の悪化が、今後設備投資の下振れに繋がるリスクは未だ残されていよう。

▼日銀は追加緩和策をできるだけ温存する

 製品需給判断DIの大幅悪化や価格判断DIの低下は、基調的な物価の上昇には逆風であり、日銀が掲げる2%の物価安定目標の達成をより困難にするだろう。

 しかしながら、今回の短観が、日本銀行の追加緩和実施に直結する可能性は低い(筆者はあらゆる追加緩和措置は副作用が効果を上回ることから、その実施に反対である)。もはや、2%の物価安定目標の達成の是非など、物価環境が日銀の金融政策を決める重要な要素ではなくなっている。

 日銀は、効果が期待できない一方で副作用が懸念される追加緩和策を、できるだけ実施したくないと考えているだろう。また、追加緩和余地が限られる中、追加緩和の実施をできるだけ温存する戦略だ。

 最終的に、日銀が追加緩和の実施を余儀なくされる条件としては、(1)内外景気の本格的な後退局面入り、(2)1ドル100円を超えるような円高進行、(3)政府の巨額な景気対策実施(日銀が協調策としての追加緩和実施を余儀なくされる)、の3つが考えられる。現状では、この3つの条件とも満たされていない。

 日銀は、今回の短観の調査結果が、市場での追加緩和観測を強め、いわば追加緩和の催促相場へと発展することを警戒しているだろう。それを避けるため、日銀は、調査結果の中でポジティブな側面をことさら強調するような情報発信に今後努めるのではないか。

■木内 登英(前日銀政策委員、野村総研エグゼクティブ・エコノミスト)
1987年野村総研入社、ドイツ、米国勤務を経て、野村證券経済調査部長兼チーフエコノミスト。2012年日銀政策委員会審議委員。2017年7月現職。

最終更新:4/12(金) 12:35
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