ここから本文です

妻に先立たれた高齢独居男性はやはり弱りやすいのか

4/14(日) 9:30配信

毎日新聞

 夫に先立たれた妻は身軽になり、女友だちとの交遊を深めてむしろ元気になると言われます。それに比べて、妻に先立たれた男性は孤立して弱りがち。外出が減り、料理が苦手な人は食生活が貧しくなります。お酒におぼれ、健康を害する人もいます。高齢独居男性の健康リスクと孤立回避のコツを、大阪大学招へい教授で、中高年男性のメンタルケアに詳しい石蔵文信医師が解説します。【毎日新聞医療プレミア】

 先ごろ、ロックミュージシャンの内田裕也さんが肺炎で亡くなった。妻の樹木希林さんが亡くなって半年後のこと、79歳だった。

 悪性腫瘍や脳梗塞(こうそく)などの重い病で闘病していたわけではなかったが、親族の話では延命治療を拒否されていたようだ。

 昨年4月には、俳優の津川雅彦さんが亡くなっている。妻で女優の朝丘雪路さんが亡くなった4カ月後だった。死因は心不全だったという。

 ◇高齢者の多くはがん、心不全、肺炎で亡くなる

 高齢になると肺炎や心不全という病名が死因になることが多い。高齢者の死亡原因としては悪性新生物(がん)がトップだが、90歳以上になると心疾患や老衰がトップになる。そして3位が肺炎。実は肺炎で亡くなる人の97.5%は65歳以上の高齢者である。つまり、がんを除けば高齢者は心疾患や肺炎で亡くなる確率が高いということだ。

 心疾患にもいろいろあって、はっきりした原因がない場合に「心不全」という病名や死因がつけられることが多い。当たり前のことだが、心臓が機能を停止しないと死亡とは認められないので、「心不全」はある意味便利な病名と言える。ただ、心不全だったかどうかを厳密に判定するには、直前まで医師の診察を受け、それなりの検査をする必要がある。

 肺炎に関しては発熱やせきの様子、レントゲン撮影でおおむね正しく診断できるが、高齢者の死因は肺炎そのものというより、細菌やウイルスに対する抵抗力が落ちて重症化することによるものだ。

 心不全や肺炎は、高齢者が肉体的にも精神的にも弱り、さらに抵抗力も低下したことで発症、重症化する病と考えてもよいのではないか。つまり、生きがいや楽しみを失い、人と会わなくなり、次第に外出しなくなり、ついには床から起き上がれなくなって発症するような病気、と言えるかもしれない。

 朝丘雪路さんと仲の良かった津川さんや、樹木希林さんと別居していた内田さんも、妻に先立たれた寂しさから気力と体力が衰え、後を追うように旅立ったのではないだろうか。

 ◇独居の寂しさからアルコール依存になる恐れも

 いろいろな研究から、高齢女性は夫がいると早く亡くなり、男性は逆に妻に先立たれると早く亡くなる、といわれている。

 2015年の国勢調査によると、妻に先立たれた65歳以上の男性は約144万人。妻に先立たれた寂しさだけではなく、日常生活の多くを妻に依存していたため、1人でどう暮らせばよいのかわからなくなり、生活が乱れて短命になることは容易に想像できる。

 寂しさをまぎらわすために酒量が増え、アルコール依存や肝硬変になって寿命を縮めるケースも珍しくないだろう。05年の人口統計資料集によると、配偶者がいる男性の平均寿命が79.06歳なのに対し、1人暮らしの男性は約9歳近くも短い。

 最近は配偶者に先立たれた人を「ボツイチ」と呼ぶらしい。核家族化が進んだ現在、「ボツイチ」になるとほぼ独居高齢者となる。14年のデータで独居高齢者は約596万人と推定されている。もちろんその数は年々増えている。

 国立社会保障・人口問題研究所の「生活と支え合いに関する調査」では、65歳以上の独居男性のおよそ7人に1人は、誰かと会話する頻度が2週間に1回以下であり、日ごろのちょっとした手助けについて「頼れる人がいない」と答えた人も30.3%にのぼるという。どちらの割合も同年代の独居女性の3倍の深刻度である。

 一方、妻に先立たれた男性に比べて女性は元気だ。第一生命経済研究所の小谷みどり主席研究員の調査「配偶者と死別した一人暮らし高齢者の幸福感」(17年) によれば、配偶者の死後、女性は「外出時間が増えた」人が多く、男性は「外出時間が減った」人が多かったという。

 ◇妻が元気なうちに孤立回避の練習を

 いろいろなデータや現実の報道を見るにつけ、やはり妻に先立たれた男性は弱りやすい。生活力がないまま自立できず、妻の後を追うのもそれはそれで人生かもしれないが、子どもに迷惑をかける恐れはある。

 高齢独居男性がなるべく周囲に迷惑をかけない老後を過ごすためには、妻が生きているうちに料理、買い物などの家事全般を身に着け、近所付き合いも広げて孤立回避を進めておいた方がよい。

 私は仲間と一緒に60歳以上の男性向け料理教室を近畿地方で開いている。年々参加者が増え、毎回抽選をするほど盛況だ。生活自立が必要と感じる男性が増えているのだとすれば、救いはある。

最終更新:4/14(日) 9:30
毎日新聞

こんな記事も読まれています

あなたにおすすめの記事