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2月下旬の北朝鮮大使館襲撃事件は北朝鮮崩壊の予兆か

4/14(日) 20:00配信

産経新聞

 最近、北朝鮮ウオッチャーの間で注目されている動きがある。2月下旬に起きたスペイン・マドリードの北朝鮮大使館襲撃事件だ。そのおよそ1カ月後、北朝鮮の独裁体制打倒を掲げる反体制組織「自由朝鮮」が事件に関与したことを認めた。

 この組織の前身「千里馬民防衛」は2017年2月、北朝鮮の金正恩(キム・ジョンウン)朝鮮労働党委員長の異母兄、金正男(キム・ジョンナム)氏がマレーシアで殺害された後、息子のハンソル氏を救出し、世界の耳目を集めた。その後しばらくの間、動向が途絶えていたが、今年に入ってから頻繁にインターネット上で発信している。

 「自由朝鮮」のサイトをみると、3月1日に組織名を「千里馬民防衛」から「自由朝鮮」に改称し、臨時政府樹立を表明。3月下旬には大使館襲撃事件への関与と、その際に入手した情報を米連邦捜査局(FBI)と共有したことを明らかにした。

 「自由朝鮮」の構成メンバーや活動拠点、資金源など実体は不明だ。ただサイトをみると、自らの組織を「世界各国にいる同胞と結集した脱北者の組織」「金氏一族の世襲を断つ信念で結集された国内外の組織」と説明している。

 「体制崩壊」「瀬戸際外交」-。1990年代後半、産経新聞の北朝鮮報道でよく登場した2つのキーワードだ。当時の北朝鮮は、水害などの自然災害に見舞われ、食糧難から多くの餓死者を出した。この危機を乗り越えるため「苦難の行軍」というスローガンも登場した。

 この頃、「体制崩壊間近」と予測する北朝鮮専門家も少なくなかった。96年3月16日付の産経新聞夕刊は、在韓米軍司令官が米下院・国家安全保障歳出小委員会で、北朝鮮崩壊は「『もし』という仮定の問題ではなく、『いつ』という時間の問題になってきている-との見方を示した」と報じていた。

 さて「苦難の行軍」から20年ほどたつが、北朝鮮の独裁体制は続いている。相変わらず米国を相手に「瀬戸際外交」を続けている。金氏一族の3代目、金正恩氏が率いる体制は今のところ盤石にみえる。

 大方の予想に反し、体制が崩壊せずに持ちこたえられた要因の一つには、中国をはじめ韓国の金大中、盧武鉉両政権下で行われた対北支援もあるだろう。

 今回の大使館襲撃はいよいよ体制崩壊に向けた予兆なのだろうか。大使館襲撃の際、館内のコンピューターやUSBメモリー、携帯電話などが持ち去られたとされる。これらに収められていた情報は、体制崩壊につながるインパクトを持った重要な情報なのだろうか。

 「自由朝鮮」はサイト上で、「相互に合意した守秘義務の条件の下で、FBIとの間で非常に潜在的価値のある特定の情報を共有した」と明らかにしたが、情報の詳細については触れていない。

 韓国の情報機関「国家情報院」の元対北室長がニュース専門テレビYTNのインタビューの中で、「自由朝鮮」が奪った情報について言及している。元室長は、北朝鮮の非核化や麻薬・武器密売に関する内部資料のほか暗号解読プログラムが含まれていた可能性を指摘した。

 元室長によると、奪われた内部資料の中に「北朝鮮は核保有国として軍縮交渉をしており、決して非核化はしない」といった北朝鮮側のスタンスを示す内容も含まれており、こうした情報はFBIを通じて、ハノイ会談の前にトランプ大統領やポンペオ国務長官ら米国側に伝えられたのではないかとみている。

 2度目の米朝首脳会談で、事前に合意文書が用意されていたにもかかわらず、トランプ氏がそれに署名しなかった背景には、こうした情報が影響したことも考えられる。

 「自由朝鮮」について北朝鮮専門家はどうみているのか。韓国紙は「興味深い点は、脱北者の共同体から代替勢力が現れるときが来たのかということ」「北朝鮮内部への影響力がある場合、北朝鮮政権に実質的な脅威となる可能性がある」といった米国の北朝鮮専門家らの見方を紹介している。

 「自由朝鮮」は3月下旬、大使館襲撃事件に関連して「われわれの何人かはこの戦いの過程で投獄され、拷問され、または殺されるであろう」と表明した上で、構成メンバーを特定する行為は「北朝鮮の政権を支援することだ」と非難している。

 4月1日には、サイト上で「われわれは、いま大きなことを準備している。それまでは嵐の前の静けさを守る」と、次の行動を予告した。

 「苦難の行軍」にも耐え、対北経済制裁にも耐え、70年以上も続いてきた北朝鮮体制はそう簡単に崩壊しそうにもない。「自由朝鮮」が北朝鮮国内にどれだけ浸透し民衆の力を結集できるかが鍵となりそうだが、厳しい統制下にある中では至難の業だろう。(編集委員 水沼啓子)

最終更新:4/14(日) 20:00
産経新聞

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