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うんことの戦いは続いていた 排泄予知デバイスDFree

4/16(火) 9:00配信

アスキー

排泄予知デバイス「DFree」開発から4年が経った。排便予知は難しかったという。

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DFree Personal
5万3870円
トリプル・ダブリュー・ジャパン
 
 おなかに貼るだけで膀胱に尿がこれくらい貯まっているという情報をアプリに通知する排泄予知デバイス「DFree(ディー・フリー)」。超音波センサーで膀胱の変化をとらえることで排泄のタイミングを通知するヘルスケア製品だ。
 
 開発元のトリプル・ダブリュー・ジャパン中西敦士代表自身がうんこをもらした体験から開発をはじめた。2015年に排尿・排便予知デバイス開発のためクラウドファンディングを実施すると1200万円の開発資金が集まった。
 
 だがその後、DFreeは排尿・排便予知ではなく排尿予知デバイスとして、介護施設向け、また一般消費者向けに展開することになった。なぜうんこは消えたのか。中西代表にふたたび話を聞いた。
 
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●うんこの壁は高かった
── READYFORのクラウドファンディングでは1200万円が集まった。
 
 当時としては大きかった。調達額は日本のクラウドファンディング市場トップ10に入っていたのではないか。ただ、クラウドファンディング以外で既に7700万円を調達していたので、お金というより利用者との接点ができたことがよかった。
 
── どんな利用者が集まったか。
 
 想定よりニーズが大きかったのは介護事業者だった。それから介護施設におじゃまさせていただくようになった。介護現場でどんなことが困りごとがあって、何があれば助かるのか、夜通しいろいろな話を聞いた。介護資格や排泄の相談員の資格を取ったりもした。
 
── だがその後、DFreeは排便・排尿予知ではなく排尿予知デバイスとして展開した。当初のプロジェクトとしては失敗している。
 
 排便に期待していた方にはがっかりさせてしまう結果となった。はじめに一回リターンを延期していた。そのあと排尿予知だけできたところで「さらに延期するか」を検討し、全額返金した。「来年まで待ってくれ」といっても、介護現場では一年経ったら状況は大きく変わる可能性がある。場合によっては亡くなる人も出てくる。「しっかりしたものを作るので一回お金はお返します」という形にした。
 
── なぜうんこは消えたのか。
 
 実際に介護施設を見てまわると、困っている人数は排便より排尿のほうが多かったからだ。そして技術的にも排尿のほうが“取れ高”が多かった。
 
── 困っている人数が多いとはどういうことか。
 
 調査によれば、60歳以上では78%が何らか排尿の問題を抱えているという※。また排泄介助については要介護3以上の人が対象だが、排便で悩んでいる人は、ほぼ100%が尿漏れでも悩んでいる。そして漏れた人からすれば、うんこでもおしっこでも嫌なのは同じだ。「尿ならいい」という人はいない。
 
※日本排尿機能学会による下部尿路症状に関する疫学調査(2002年)
 
── 技術的な取れ高が多いとはどういうことか。
 
 尿は便に比べてデータがとれる頻度が多い。また、膀胱は手前の方にあるが、便の予知で見る必要のある腸はその奥にあり、超音波で変化を捉える難易度も膀胱より高かった。当初は超音波センサーで直腸のふくらみを捉える方法を考えていたが、便が直腸にある段階だと「もうすぐに出てしまう」というレベルだった。
 
── 絶望しかない。
 
 介護施設では排便サポートのために下剤を投与することもあり、がまんするのも難しい。介護現場からは「本当は5分欲しいが、少なくとも1分は欲しい」といわれた。
 
── うんこの壁が高かったわけか。
 
 高かった。排尿については膀胱の大きさをはかる医療機器「ブラッダースキャン」があったが、便については前例がなかった。医療現場でも聴診器でおなかの音を拾って便秘症かどうか診断するとか、内視鏡を肛門に入れて腸が動いているかどうか確かめる方法しかないということだった。一から作らないといけなかった。開発も一度迷走した。「体に電気を通してデータを拾えないか」などの方法も試したがうまくいかなかった。「やはり超音波では?」と原点に戻り、昨年10月に「これならできそうだ」という、腸の動きを可視化する方法にたどりついた。
 
●うんこへのこだわり
── 腸の動きとはどういうものか。
 
 うんこが大腸の中を運ばれ、直腸がふくらみ、便意を感じてうんこが出るという仕組みだ。そのときの動きをとらえて、アラートを出すようなデバイスを考えている。腸の中の便の移動は一般的には蠕動(ぜんどう)運動といわれる。そのときの動きをとらえるものだ。昨年の国際福祉機器展(H.C.R.)でコンセプトモデルを発表した。今月から社内と介護施設で排便のデータ取りを開始していて、早ければ来年には、排便予知対応版を販売したい。
 
── うんこをあきらめたのかと思っていた。
 
 うんこへのこだわりは常に持っていた。会社で毎年「今年の1文字」を発表しているがすべてうんこにまつわるものだ。2017年は「便」、2018年は「大」、2019年は「金」。「うんこで金メダルだ」くらいの気持ちだ。
 
── それはいいが、排尿予知デバイスとしては施設で受け入れられたのか。
 
 10~20ヵ所くらいの介護施設で試験をしたあと、2017年4月に施設向けに提供開始した。もっと一気に広がるかと期待していたが、理想と現実の差が大きかった。理事長など決裁者は「いい」というが、現場は「それどころではない、新しいものを試す余裕なんてない」と受け入れが難しいこともあった。スタッフに余裕がある施設でなければ難しかった。施設にWi-Fiがなかったり、タブレットが1台しかなかったり、インフラ面で利用が難しいケースもあった。そんな中でも「いい介護をしてきたい」「最後までトイレに連れていきたい」と思って活動している施設に、じわじわ広がっていっている形だ。有料の導入で200施設の実績があり、継続率も高い。理念に合う施設にていねいに導入すれば必ず満足してもらえると信じている。
 
── 現場の壁も高かったわけか。
 
 結局オペレーション全体を変えるくらいのことをやっていかないと難しい。他のセンサーやナースコールと組み合わせるなど、医療・介護系テクノロジーの大きな流れに乗っていかなければならない。われわれだけ独走しても仕方ない。そういった改善もすでに一部取り組んでいる。
 
── 個人向けにも販売している。
 
 昨年7月にネットで販売開始した。うまく使えなかった場合を想定して2週間の返金保証を付けたが、返金率は高くなかった。それならもっと広く使ってもらおうと、今年3月にビックカメラ・コジマで販売を開始した。家電量販店での取り扱いは初めてだ。
 
── 海外法人も展開していると聞いた。
 
 フランスとアメリカだ。フランスは8万床もあるようなヨーロッパ最大の介護チェーンから「導入したい」という話があった。現在トライアルを進めている。言葉が違ってもニーズは同じだ。アメリカでは、お子さんに障害があり「まさにこれがほしかった」という元ソニーの人がこの仕事を手伝いたいと言ってくれて、今アメリカ支社長として活動してくれている。
 
●実直にやるしかない
── どんな人に使われているのか。
 
 色々だ。生まれて初めてトイレに行けた障害児がいた。脊椎損傷の人で、普段は時間を決めて定期的にトイレに行っているが、DFreeがあることで外でビールを飲んだり、バーベキューをするなど楽しめるようになったという人がいた。一般の方でも、心因性の頻尿で30分に1回トイレに行かないと不安で仕方ないという状態だったが、目盛りが見えることで「これくらいならもう少しはガマンできるな」というのがわかるようになったという人もいた。介護施設に入居している方で、脳梗塞の後、ずっとおむつをつけていたが、1年半ぶりにトイレに行けて「また人生楽しめる」と喜んでくれた人もいた。本当に、話せばいくらでもいる。
 
── 今後はどう展開していくか。
 
 将来的には膀胱・大腸以外の部位もモニタリングできるようにしたい。そうすると予後管理やリハビリに使えるようになる。たとえばがんで内蔵の一部をとったあと、内蔵がきちんと動いているかどうかのモニタリングに使えるなどのイメージ。これから入院期間が短縮されて、家庭に戻って経過観察をするという場面も増えてくるはずだ。あとは介護現場でQOLを高めたケアを受けるための参考データも提供できるはずだ。ライフステージに応じて深く浸透していくところまで踏み込めればと思っている。
 
── スタートアップというと爆発的な成長を期待するが、フタをあけてみると活動はとても地道なものだった。この4年間、どう感じていたか。
 
 ニーズがあることは確信していたので、正直もっとスムーズに広がるかなと期待していた。周囲も「これはいい!」と言ってくれる人が多かった。だが、結局は地道にやるしかなかった。世の中にないものを、プロダクトもマーケットも一から作っていくわけで、すべて徐々にしか進まない。ハードウェアという制限の中、ユーザーの満足度を最大化するにはどうすればいいかと考え続ける地道な話だ。ただ実直にやっていくしかない。うんこをするたびそう思っている。
 
 
文● 盛田 諒(Ryo Morita)

最終更新:4/22(月) 10:16
アスキー

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