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トヨタ ハイブリッド特許公開の真実

4/16(火) 9:58配信

ITmedia ビジネスオンライン

 4月3日。トヨタ自動車はプリウスなどで長年培ってきたハイブリッド(HV)技術の特許(2万3740件)を無償で提供することを発表した。

車両電動化技術に関する特許の無償提供(トヨタ発表資料より)

 実はトヨタはこれに先立ち2015年1月に、燃料電池車(FCV)の特許1970件と水素タンクの特許(290件)を公開し、17年9月にはマツダ、デンソーとともに設立したEV C.A. Spiritを通じて、EV(電気自動車)の標準規格を策定。他の自動車メーカーやサプライヤーも参画が可能な枠組みづくりをスタートしている。

 つまりこれで、HV、FCV、EVというこれからの環境戦略の軸となる全てのジャンルについて、何らかの形で技術供与を行うということになる。

 さて、これを聞いて、普通に考えるとふに落ちない点は多分3つある。まずは「トヨタはいったい何のために競争領域の技術をオープンにするのか?」。そして「どうやって実現していくのか?」。さらには「なぜそんな大事な技術を公開することが可能なのか?」ということだろう。

ハイブリッドは賞味期限切れ?

 ネットの反応を見ていると「今更時代遅れのHV技術を開放してもなぁ」とか「それで競合他社のモチベーションを削ごうというつもりか?」とか、斜に構えた意見を目にする。筆者はどちらも違うと思う。

 筆者は先月、トヨタ自動車技術部のトップである寺師茂樹副社長へのインタビュー取材を行った。その際に得た情報の多くが、今にして思うと今回のHV特許公開の謎に対する回答になっていた。今回はそれを中心に書いていきたい。

 最初に誤解を解いておきたい。HVは時代遅れな技術という認識はよく耳にするが、それは日本人がHVに慣れすぎているからだ。もはや路上でHVを見かけて「おっ!? HVだ」などと思う人はいない。交通量のある幹線道路で5分間流れを見ていて、EVやFCVに出くわす確率は低い。一方でHVはそれだけの間に1台も見ないなんてことは絶対に起こらない。

 確かにEVもFCVも走行中はゼロエミッションだ。だが残念ながら普及はまだまだ。現実世界での環境保護を考えれば、普及しないと意味をなさない。トヨタ1社の現在までのHV累計生産台数は1300万台を超えている。対して、EVの累計は世界の全メーカーですら300万台。それはそのまま現実の環境貢献につながる。つまり環境対策車は「売れて、普及してなんぼ」なのだ。そして電動化車両が日本ほど普及している国は世界中どこにもない。この連載ではしつこく書き続けているが、英語ではElectrification VehicleとElectric Vehicleははっきり別のものだと認識されているが、日本では前者の訳語である「電動化車両」、つまり「モーターが付加されるクルマ」と、後者の「電気自動車」の区別がメディア側ですら付いていない。電動化に関していえば、わが国は出遅れどころではない。圧倒的な先進国である。

 そして売れるか売れないかを決めるのは、自由経済下では消費者である。中国のように「EV以外は買わせない」というルールで縛って、消費者の選択の自由を阻害すれば別だが、消費者が自由選択できる国では、現実にEVは選ばれていない。自由経済圏での例外はノルウェーだけだ。ノルウェーでは発電のほぼ全てが水力で賄われており、極端なEV優遇政策が行われている。充電電気代は無料、車両価格は車種によるとはいうものの、補助金でガソリン車よりEVの方が安くなる。さらに高速料金などもEVのみ無料化され、さらにラッシュ時にEV優先レーンが使える。それだけ特典まみれで、ようやく新車販売の4割程度の普及という現実を見れば、EVはまだ消費者の厳しい目をクリアしていないと言わざるを得ないだろう。

 ガラケーとスマホの話に置き換えて考える人が後を絶たないが、スマホに補助金を付けても売れなくて困ったという史実が過去にあったのかどうかをよく考えて欲しい。スマホがガラケーを駆逐したのは、市場に絶大な支持を受けたからだということを忘れてはいけない。対してEVは、世界各国で例外なく補助金をもらい税の免除を受けての現状である。どう考えても前例として不適切である。

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最終更新:4/16(火) 17:29
ITmedia ビジネスオンライン

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