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「モノ消費からコト消費へ、東京オリンピック後の需要喚起策を明確に」、森トラスト、伊達美和子社長 独占インタビュー(後編)

4/16(火) 14:34配信

東京商工リサーチ

-ホテル業界、足もとの市場動向は?
 インバウンドが好調で、良い方向にある。ここ4、5年で訪日客の増加も影響し、インバウンドは平均20%ぐらいの成長率だった。最近の伸びは、分母も大きくなっており鈍化傾向にあるが、それでもポジティブに捉えている。地方の(インバウンド)成長率も期待できる状況だ。一方、(訪日客の)単価は変化がほぼない。逆に、数千円単位で下がっている。客数が増加していることを踏まえると、彼らに付加価値の高いものを提供できる状態にはなっていないと考えられるだろう。

-単価が上がらない原因は?
 インバウンドの増加に合わせてホテルの供給も進んでいるが、その約8割はバジェット(低価格帯)型だ。宿泊費と食費の予算は連動し、比例する。そのため、バジェット型に宿泊した場合、滞在する施設で使う金額の上昇は期待しにくい。国の投資戦略も、まず民泊など低価格帯に向いた。そうなると宿泊施設数は順調に増えるが、一人当たりの単価は安い方に動く。
 もう一点は、クルージングが挙げられる。国は港、埠頭の投資を積極的に進めるが、クルーズ船が寄港しても、船の上であらゆるサービスが提供されているため、乗船するお客様が日本にお金を落としてくれるわけではない。これも単価の伸び悩みを招く要因だ。

-日本は海外に比べ、富裕層向けの高級ホテルが少ないのでは?
 東京はお客様が(高級ホテルを)選べる状況になってきた。大阪も増えてきた。その一方で京都は不足しているし、北海道でもニセコは増えているが、札幌はまだ足りない。
 例えば、海外からの(富裕層)観光客が国内各地を回りたい場合、東京で豪華なホテルに宿泊し、地方へ向かおうと思っても「泊まりたい」施設がなければ、せっかく魅力的な地域であっても、宿泊施設がないためにそこを選択しない可能性もある。街にとっても機会を逸することになる。

-2020年に開業する奈良の「J.W.マリオット」は高級ホテル需要への対応か?
 奈良は将来性を考えての進出になる。これまで、奈良に外資系の高級ホテルはなかった。他社の前例がなく、成功を決定づける明確なデータが今のところ存在しない。だが、外国人観光客の潜在的なニーズを鑑みると、奈良で受け皿(ホテル)は今後必要になるだろう。

-進出発表後、他社も後乗りしているが影響は?
 実際、当社が開業を決めてから県内10カ所ほどで進出の計画があると聞く。それはむしろ良い影響を及ぼすだろう。一人勝ちではなく、何カ所か同じランクのホテルがあることによって、市場からの注目は高まっていく。 
 どこに滞在するかは、顧客側のニーズで決まる。各社が努力することで、さらに良いサービスが提供される。

-日本初上陸の高級ライフスタイルホテル「EDITION」を2020年に虎ノ門で、2021年に銀座で開業する
 世界のブティックホテルを手掛けるイアンシュレーガー氏とマリオットが手掛けていることもあり、オープン前でありながら大変注目して頂いている。EDITIONはニューヨークやロンドンですでに高い評価を得ており、上海、バルセロナ、ドバイもオープンしたばかり。ライフスタイル系のホテルでありながらラグジュアリーで、感度の高い富裕層を中心に人気を集めているようだ。世界的に先駆け的なものを早々に東京に持ってきた、ということが私たちの強みでもある。

-来年は東京五輪が開催されるが、景気減速も予測されている
 五輪時は、宿泊業で特需は起きる。一方、翌年(21年)は通常の稼働に戻ったとしても、反動で前年比マイナスとなるだろう。なので、あまり悲観的には捉えていない。ただ、五輪開催に合わせ、日本で大規模な国際会議が来年上半期にかけて多く開かれる。この波が(五輪)開催後であればありがたいのに、と思うことはよくある(笑い)。
 問題はこういった会議需要が五輪後、パタリと途絶えてしまうことだ。ロンドンは唯一、五輪後に需要が伸びた。その状態にどうやったら持っていけるのか。業界だけでなく、国でもしっかりプロモーション等の方策を講じるべきだと思っている。

-具体的に懸念していることは?
 開催前から五輪の“レガシー(遺産)”に期待しすぎるきらいがある。ロンドンの場合は、五輪開催年に、観光客数が一旦減少した。その後、盛り返したと聞いている。それはしっかりしたプロモーション策が奏功したからではないだろうか。
 だが、日本の場合、まだ何がどのように有効であるかを示さないまま“レガシー”ばかりを強調している。「五輪会場の“どこどこ”を見に行こう」というマーケティングで、本当に五輪後の観光需要を喚起できるのか。時間は限られている。開催年は滞りなく実行するための時期と考えると、(マーケティング)期限は1年もない。

-五輪後の戦略は? 
 五輪開催までは奈良、そして都内でEDITIONの開業を予定する。私たちがターゲットとするのは、買い物などの“モノ消費”の重視でなく、“コト消費”に重点を置くお客様である。彼らは日本ならではの“美しさ”に触れる 知的好奇心や非日常性を求めている。わざわざ時間とお金を掛けて海外に行く、だから何を味わおうか、と。ライバルは世界の各主要都市だ。五輪後、彼らが日本の中で魅力的に感じられる地域はどこだろうか―と、今はニーズを講じている最中だ。

-沖縄でのホテル開発も話題になっている
 沖縄本島から陸路で行ける瀬底島(名護市の北東に位置)にヒルトンホテルの誘致、および、ヒルトン・グランド・バケーションズという会員制のタイムシェアリゾートの誘致に向け、開発を推進している。ヒルトン・グランド・バケーションズは、「アジアだったら最初は日本」と考えていたようだ。彼らにとって沖縄はハワイと同等レベルに魅力のある地域であると捉えている。開業予定の瀬底島も以前から積極的に目をつけ、(進出の)時機を待っていたと聞いている。

-沖縄でのホテル誘致で懸念要素は?
 沖縄の場合は、インフラが持つかどうかだけだ。(空港の)滑走路は増えており飛行機の受け入れはできる。後は回し方をうまくやらないとそんなに(観光客は)増えない。
 次に問題なのは交通渋滞だ。瀬底島は恩納村も近く、往来の多い地域。美ら海水族館に向かう車も多く、道路が大変混雑する。渋滞解消には高速道路の延伸整備や代替の交通手段を造るなどの都市計画を進めるべきだ。でないと、高まり続ける観光需要に応えられないのではないか。

-近年、ニセコ(北海道)の人気も過熱している
 新幹線が通った際には、今の比ではないほど爆発的な盛り上がりを見せるだろう。本州からも非常に短時間で向かうことが可能となる。
 スノーリゾートで見れば、世界の中で比較すると交通アクセスは良い方だ。(新千歳)空港に着いて、快速などを乗り継いで2時間と少しで行けるというのも悪くない。パウダースノーも外国からのお客様にとって大変魅力的。スキーに飽きたら札幌に買い物に出かけることもできる、という意味では強い。
 (富裕層向けの)プライベートジェットやヘリの発着環境を整えれば、世界に勝ててしまう観光地だ。ただ、京都同様、過熱感がとても高いので、投資をするかと聞かれるとそこは予定にしていない。

-コミュニケーションに重点を置く宿泊施設が増えている印象がある
 ホテルをリサーチしていく中で、それは顕著に感じる。アメリカでは特にそうだ。でも、それはホテルだけの流れではなく、オフィスビルでも同様だ。備えるべきアメニティ施設やソフト面、それをテナントや建物単体で捉えるのではなく地域でも捉えていく。現地では異業種間での出会いも活発だ。一方で日本は、職務的なことをどうしても好むため、“緩やか”に知り合い、コミュニケーションする機会は少ない傾向にあった。
 だが、日本でも開放的なロビーやスペースを設けるオフィスやホテルが広がりつつあるのは、コミュニケーションを考慮していることに繋がる。

 明るく笑顔をみせつつも歯に衣着せぬ物言いで、現状の過熱する不動産需要、五輪開催後の市況を語る伊達社長。その理知的で明快な独自分析には、業界内外でファンも多い。
 多くの業界で懸念する五輪後の景気見通しは、「前年比マイナスは避けられない」とドライに受け止めている。
 不透明感の強い2020年以降の景気対策には、「五輪後のビジョンを明確に」と提言する。観光の側面では、五輪のレガシーを最大限に生かしたい国・東京都の考えに同意を示すが、一方で「どのようなプロモーションを打つことで魅力ある観光資源をPRできるのか、“レガシーとは何か”をもっと議論を尽くすべき」と指摘する。
 現状を悲観的に捉えるのでなく、その先の道を冷静に見据える伊達社長。その姿勢や考え方に多くの社員が共感し、学んでいることだろう。

(東京商工リサーチ発行「TSR情報全国版」2019年4月17日号掲載予定「Weekly Topics」を再編集)

最終更新:4/16(火) 14:34
東京商工リサーチ

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