ここから本文です

日米交渉、デジタル貿易も対象 早期妥結見通せず

4/17(水) 21:48配信

毎日新聞

 日米両政府は16日(日本時間17日未明)、貿易協定締結に向けた交渉の初会合を終えた。農産物や自動車を中心とした物品の関税撤廃・削減交渉に着手し、インターネットで情報やサービスを取引する「デジタル貿易」分野も交渉対象とすることで合意した。農産物の市場開放は、日本が求める「TPP(環太平洋パートナーシップ協定)水準」を軸に交渉が進む見通しだが、貿易赤字削減に向けた米側のこだわりは強く、思惑通りに進むかは見通せない。【加藤明子、大久保渉、ワシントン中井正裕】

 初会合は、訪米中の茂木敏充経済再生担当相と米通商代表部(USTR)のライトハイザー代表との間で15日から2日間行われた。茂木氏は2日目の交渉終了後、記者団に「早期にいい成果を目指すことで一致した。よいスタートが切れた」と説明。USTRも声明で「昨年9月の日米(首脳会談時の)共同声明を進めるため、実質的な成果を得るという共通目標を再確認した」と表明した。

 初会合で、茂木、ライトハイザー両氏は通訳のみを交えた会談を含めて突っ込んだ協議を行った。当面の交渉範囲が焦点だったが、物品の関税撤廃・削減以外には、日米で対立のないデジタル貿易を追加するのみにとどまった。今後は閣僚間で農業の重要品目や自動車などの大枠を決め、個別の品目は事務レベルで詰める見通しだ。

 日本は交渉範囲を絞ることで米側の要求を極力退ける狙いだった。これに対し、米国もTPPの発効で農産物の対日輸出が不利になったうえ、中国の報復関税で打撃を受けた大豆農家の倒産が増えるなど焦りを強めていた。当面の交渉範囲がほぼ日本側の想定通りで決着したのは「トランプ氏は農業での失点を一刻も早く回復しようと躍起になっている」(交渉筋)状況が幸いしたためだ。

 日本にとっては農産物の市場開放を「TPP水準」に抑えるのが最重要課題だ。米側がさらなる市場開放よりも「早期妥結」に重心を移す中、「TPP水準」を維持できる可能性は高まった。しかし、閣僚間で合意したとしても、トランプ氏の意向は変化しやすく、再び強硬姿勢になる可能性は否定できない。自動車分野でも、米国が重視する米国内での生産・雇用増についての具体策はこれからだ。USTRは会合後の声明で「巨額の対日貿易赤字を取り上げた」と強調した。トランプ氏が日本に貿易不均衡是正を求める状況も変わっていない。

 ◇自動車輸出の数量規制など懸念

 日米両政府は来週、茂木、ライトハイザー両氏が再び会談し、今月下旬に予定される日米首脳会談の準備を進める方針だ。それ以降、5月、6月、9月と見込まれる首脳会談をにらみながら早期妥結に向けハイペースで交渉する見通しだが、日本が警戒する自動車輸出の数量規制や為替条項を米国が持ち出す懸念は消えていない。

 交渉筋によると、米側は今回の初会合で数量規制も為替条項も要求しなかった。しかし、米国内にこうした措置の支持者がいると日本側に伝え、選択肢として捨てていないことをうかがわせた。

 日本側が自動車輸出の数量規制に反対するのは、実施されれば、米国市場に頼る自動車メーカーの経営に重大な影響を与える恐れがあるのに加え、中国も将来「米国並み」の扱いを求めて同様の要求をしてくるリスクが出てくるからだ。「かつての貿易摩擦は米国の要求を受け入れて終わりだったが、今は米中の往復ビンタになる」(経済官庁幹部)。ライトハイザー氏はカナダ、メキシコとの北米自由貿易協定(NAFTA)改定交渉で、交渉が妥結間際の土壇場で数量制限を持ち出してのませた経緯があり、日本も警戒を解けない状況だ。

 また、日本側は為替を巡る問題を貿易交渉とは切り離し、両国の財務相間での議論に委ねるべきだとして、為替条項にも反対している。法的拘束力を持つ貿易協定に自国通貨安誘導を禁止する条項が盛り込まれれば、金融・通貨政策が制約されかねないからだ。

 仮に導入された場合、景気回復を支える日銀の金融緩和がやり玉にあげられたり、急激に円高が進んだ際の為替介入にクレームをつけられたりして経済運営に重大な支障が出る恐れがある。為替条項をちらつかせて自動車分野で譲歩を迫ってくる展開も否定できない情勢だ。

 ◇データの越境流通促進

 新たに交渉範囲に加わるデジタル分野は、日米両政府が過去にTPP交渉で合意した項目が中心になる見通しで、早期の決着が可能とみられている。具体的には、国境を越えたデータの自由な流通を促進するほか、国家が企業秘密の開示を迫ったり、データの国外移転を禁じたりするのを防ぐルールを整備する。

 関係者によると、デジタル分野の交渉は米側が提案。日米間に意見の対立がなく、全体の交渉を遅らせる恐れがないとして、日本側も即座に応じることにした。

 経済のデジタル化に伴い、データの利活用が今後の企業競争力を左右するとみられており、世界貿易機関(WTO)を舞台に各国が3月からデータ流通を巡る協議を始めた。データの国外持ち出しを禁じる中国への対応が課題になっており、デジタル分野を交渉するのは、日米が改めて結束を示す狙いもありそうだ。【清水憲司】

 ◇日米貿易交渉

 日米両国が農業や自動車などの関税引き下げ・撤廃、デジタル分野のルール作りを目指す貿易交渉。貿易赤字削減を公約したトランプ米政権が2017年1月に誕生。円安や対米自動車輸出への批判を緩和するため、日本側の提案で麻生太郎副総理兼財務相とペンス副大統領による「日米経済対話」が同4月に設置された。しかし、赤字削減の道筋が見えないことに対し、トランプ大統領が18年3月、安倍晋三首相を名指しして不満を表明。これを受け貿易問題を集中的に扱うため、茂木敏充経済再生担当相と米通商代表部(USTR)のライトハイザー代表による協議が同8月にスタートした。翌月の首脳会談で、日本はトランプ氏が求める2国間交渉開始を受け入れた。

最終更新:4/17(水) 22:27
毎日新聞

こんな記事も読まれています

あなたにおすすめの記事