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日韓の大学生交流 「違い」を受け入れる若い世代に希望

4/18(木) 0:46配信

毎日新聞

 元徴用工を巡る訴訟、韓国海軍駆逐艦によるレーダー照射問題などが連日報道された昨年末から、日韓関係は急速に悪化していると言われる。しかし、ソウル・明洞(ミョンドン)をはじめとする観光地では、日本人客を以前より多く目にする。知人の韓国人には、近々日本に旅行に行くからと、日本での観光スポットやお土産について聞かれる。日本を昨年訪れた韓国人は750万人を突破し、韓国を訪れた日本人も前年比27.6%増えて300万人に迫った。両国間の往来はむしろ活発化しているのだ。日韓関係を巡る政治と市井の人々の肌感覚との違いに、韓国にいる私は違和感をぬぐえないでいる。

 そんな中、3月に日韓文化交流基金の主催で日本の「大学生訪韓団」が韓国各地を回った。日本全国から集まった大学生が、韓国の大学生と交流すると聞き、取材に出かけた。先入観のない若い世代がどんなことを考え、何を感じたのか、知りたいと思ったからだ。

 3月15日、ソウル市南部にあるソウル大のキャンパスに、日本の大学生30人が到着した。彼らは7日にまず釜山に上陸。大邱(テグ)、安東(アンドン)、全州(チョンジュ)、ソウルを巡りながら、釜山大、全北大などで現地の大学生との討論会や交流会に参加してきた。ソウル大でも、日本の大学生と交流したいと集まった24人の学生が出迎えた。

 この日は、同志社大学でも教壇に立っていた洪宗郁(ホン・ジョンウク)ソウル大副教授がディスカッションのテーマを提供した。六つのグループに分かれた学生は、大衆文化▽環境問題▽北朝鮮問題▽歴史問題▽MeToo問題のうち、一つないし二つのテーマを選んで約1時間、意見交換した後、議論の内容を発表した。

 北朝鮮問題、歴史問題、MeToo問題を選んだグループが多く、学生が日韓の違いを冷静に分析し、受け入れていたのが印象的だった。

 北朝鮮問題では、日韓間で北朝鮮に対するイメージの違いが大きいことが指摘された。拉致問題を抱える日本にとって北朝鮮は「テロ国家」であり、脅威を感じる人が多いのに対し、韓国の学生は北朝鮮を「同じ文化、言語を共有する同じ民族の国」として「家族のように」とらえているとの説明があった。正直に「学校でそう教えられたから」と答える韓国人学生もいたのが印象的だった。

 歴史問題では、たとえ同じ事実があっても見方によって捉え方が変わることを指摘する学生がいた。植民地時代の朝鮮半島での鉄道敷設を例に、韓国では日本政府が朝鮮半島の発展に寄与したことよりも、朝鮮人が強制労働させられた事実に焦点が当たることが指摘された。また、日韓両国とも政治家が歴史問題を利用している側面があるという指摘もあった。

 両国が似た問題点を抱えるであろうMeTooについても、むしろ相違点への指摘が相次いだ。社会的に大きな盛り上がりを見せたとは言いづらい日本とは違い、韓国では昨年、女性検事が男性検事によるセクハラ被害を告発して以降、韓国を代表する演出家や詩人、次期大統領候補と目されていた政治家などが次々と告発され、大きな注目を集めた。厳しい受験戦争、就職難に苦しむ若い世代にとって、「公平性」が重要な指標となっていることも影響し、性差別や性犯罪に対する問題意識が高まっている。

 MeTooを討論したグループの代表として発表した学生は、東京大学で女子学生の比率が低いことについて、日本では差別ではなく、差異だと認識されていることを紹介。別の韓国人学生は、東京医科大が女性などに不利な得点操作をしていた不正入試問題も取り上げ「同じことが韓国で起きたら、暴動が起きる」とコメントしていた。

 終了後、参加した日本人学生の話を聞いてみた。九州大文学部4年 の田坂真希さんは元々、東方神起や防弾少年団(BTS)などのK―POP好き。中学生だった2012年8月、韓国の李明博大統領(当時)が竹島に上陸した。直後の給食の時間にK―POPが流れると、同級生がふざけて「もういいわ、K―POP」と発言するのを聞いて、肩身の狭い思いをしたことがあるという。「(韓国の大学生と)話してみると、お互いに誤解をしていることが多いとよく分かった。文化は好き、政治では嫌いというねじれをどう解消したらいいのか。歴史認識など、お互いずれていることをまず理解した上で、解消していけたらいいと思う」と話した。今回の訪韓で、交流会が終わったあとに大学周辺を案内してくれた全北大の学生が、「また来てね」と心から別れを惜しんでくれた姿が一番印象に残ったという。

 一方、静岡県立大国際関係学部2年の河村祥真さん(20)は、在日コリアン4世だが初めて韓国を訪問した。「釜山に到着した時、日本とあまり違いはないな、と親近感を感じた」という。大学に入ってから韓国語も勉強し始めた。自身について「日本人のようではあるけど、日本人ではない。でも、韓国人かと聞かれたら、明らかに違う」と分析。「日本人でも韓国人でもない第3の視点から、両国を見られるのが自分の利点ではないかと思う。その強みを生かして、これから日韓関係に関わっていきたい」と話した。

 今回、訪韓団として韓国を訪れた日本の大学生は、必ずしも大学で韓国を専門に勉強している学生ではない。この日受け入れた韓国側も同じだ。意見交換中に、軍人である父親とは考え方が違うと説明していたのが印象的だったソウル大3年のチョン・ヒヨンさん(20)は美術専攻だ。チョンさんは、昨年夏に東京芸術大学に行ったことをきっかけに日本に興味を持った。「同じ東洋の国として、世界的なブランドを輩出する日本は誇らしい」と語り、「歴史も大切だが、私たちは過去を経験していないからこそ、より未来を見るようになる。友好的な立場を取れるし、争っていてはだめだと考えられる」と語った。

 大学生訪韓団を率いた東京大学名誉教授の吉田光男団長は、若い世代の交流の必要性をこう分析する。

 「私が研究を始めた頃、『だって(韓国が)好きだから』と話すと、問題意識がないと駄目だとしかられた。しかし、相互理解のためには、あるがままに見て、感覚で受け取ることは重要だ。今の若い世代はニュースを見ず、ネットで直の情報に触れる。歴史とか暗い部分からではなく、お互いを肯定的に受け止めた上で、問題にアプローチできることが、若い世代ならではの利点だ」

 日韓関係を巡る先行きは決して明るくはない。ただ、相互理解は、違いを認めるところから始まる。今後も若い世代の直接交流が続いていけば、いつかは両国間に横たわる深刻な問題も解決の方向に導ける可能性があるのではないか、との希望を抱いた。【渋江千春】

最終更新:4/18(木) 0:46
毎日新聞

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