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<毎日野球部>達川光男さんが子どもたちに「捕手」の技術を伝授する理由

4/18(木) 15:15配信

センバツLIVE!

 広島弁の軽快なトークでおなじみの野球解説者、達川光男さん(63)。昨季までの2年間、ソフトバンクのヘッドコーチを務め、日本一を置き土産に退任した後、子どもたちに「捕手」の技術を伝授しようと、日本全国を駆け回っている。【聞き手・中村有花】

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 ――2015年に中日を退任した後、学生の指導ができる資格回復を申請した。研修会を受け、16年2月に資格が認定された。プロに戻ると、再申請する必要があり、ソフトバンクを辞めた後にすぐ手続きを取った。

 ◆何人かから「(資格が)あった方がいいよ」とアドバイスを受けた。持っていないと活動が制限される。もっと言うと、自分の息子が高校生、大学生の場合、野球を教えることができない。「プロに入るから、プロの練習を教えてほしい」というケースでも教えられない。(資格を回復して)自宅近くの高校や母校(広島商高)でお手伝いができればいいかなと。今は呉市立、広島新庄、広陵などの各高校で教えている。先日も午前10時ごろから午後3時半ごろまで広島商で教えていたよ。

 ――資格回復研修会は3日間、朝から夕方まで講義がある。

 ◆まじめなじゃろ。びっくりするじゃろ。指導者の資格は、運転免許みたいなもの。免許がないと車に乗れないのと一緒。野球しとるもんが、なんで野球を教えたらいけんのじゃ、って思うだろうけれど、そういうとらえ方をしてもらえたら、一般の人はわかりやすいと思うんじゃけど。

 ――なぜ、捕手の指導をしようと考えた?

 ◆母校は甲子園にしばらく出ていない。ただ、甲子園に出るとかじゃなくって、一番大きな理由は、捕手を教えられる指導者の絶対数が少ない。広島県内でも捕手出身の指導者って数名しかいない。

 ――達川さんが教えに行くと、高校生らは驚くでしょう。

 ◆最初はそういう感じだけど、広島商高では、今は「普通のおじさん」いう感じ。面白いことがあったんじゃけど、生徒が「チェンジアップとフォークの投げ方を教えてくれ」と言うわけよ。「ちょっと待ってくれえ」と。ワシ、受けたことはあるけど、投げたことはない。「聞いてくる」と言うて、OBでフォークのいい投手に教えてもらってきたんよ。資格回復していないから直接指導できないし、動画もだめだから、ワシが教わって、実践して「なるほど、こんな感じなんかな」と。直球は指先で投げるけど、フォークは指の腹で投げる感じ。それを伝授したんよ。ワシは全然、知らんかった。大発見じゃった。

 ――その高校生はなぜ、捕手の達川さんに変化球の投げ方を聞いたのか。

 ◆たまたま投手に「こういう球があったら、打者は抑えやすい」という捕手目線からの話をした。それで「落ちる球があったらやっぱりいいぞ。持っているか?」と聞いたら、「持っていない」と答えた。そして、逆に「どうやって投げるんですか?」と質問された。ワシの盲点というか、何というか……。

 ――いつから捕手をやるようになった?

 ◆高校1年の秋、ちょっと捕手に挑戦させてもらって、1年もたたないうちにクビになった。その後、3年春のセンバツに合わせて捕手に戻った。センバツのベンチ入りメンバーは当時14人。捕手じゃなかったらメンバーから外されるところじゃった。今は18人? ええなあ。

 ――高校時代、捕手で「こういう指導をしてもらったらよかった」という点があるか?

 ◆ワンバウンドの捕り方なんて知らなかったもん。必死に我流で止めるだけよ。後ろに行かさんことだけ考えとった。今のように両膝をついて(落ちる球を)捕るとかいう基本動作は全然、知らない。大学(東洋大)でも知らなかった。プロに入って、初めて教えてもらったわけだから。

 高校時代、うちのエースは左腕だったから、一番捕球が難しいのは(右打者の内角低めに)落ちるボールなんよ。球を捕る時、手首を返してミットを下に向けないといけない。左投手のスライダー、カーブを捕る方法と、両膝のつき方を教えてもらっていたら随分、近道になっていた。非合理的な練習をしていたから、ちょっと時間がかかった。でも、結局はそれが違うトレーニングになったかもしれないけど。

 ◇「動画、こんな便利なものはない」

 ――指導している中で達川さんの時代とは「変わったな」と感じることは?

 ◆ワシらの時には指導者に対しては「ハイ」しかなかった。「投げるとき、肘が下がっとるぞー」と言われたら、「ハイ」言うて。今の子は「肘が下がっとるぞ」と言ったら、「いやー、上げてますよ、大丈夫ですよ」と言う。だから、今は動画を見せる。見せると、「ホントですね、下がってますね」と納得する。ビデオは文明を進化させたと思うよ。

 ――映像を使った指導をいつから始めたのか。

 ◆03年の阪神のバッテリーコーチのころから、そういう指導がいるんじゃろうなと思っていたけど、その後、少年野球や野球教室で指導した時に、やっぱりそうじゃなと思った。(見学していた)お母さんに動画を撮ってもらって子どもに見せたら、納得する。これが一番いいんだなと思って、14年に中日に行った時、それが確信に変わった。ワシも選手時代から、スコアラーが撮ってくれていたんよ。VHSのテープでくれていた。でも、ビデオが1台しかなかったから、全員のプレーを撮ることができなかったから。今の子のハートをつかむためにはそういうのも大事よのう。「(スマートフォンで)テレビゲームばっかりせずに、違うことに生かしてみいと。動画、撮っちゃるけえ、自分の動画を見い、と。何回も何回も見とけえ」と。使い方さえ、間違えんかったら、こんな便利なものはない。

 ――1月の指導者向けの講習会では、軽快なトークとともに正確なキャッチングを披露して会場を沸かせた。

 ◆03年のころ、ワシも40代だったから、本塁から二塁まで送球が届いていた。山本五十六の「やってみせ、言って聞かせて、させてみせ、褒めてやらねば、人は動かじ」でやっていた。今でも見本は見せるけど、「走る、投げる」は衰える。でも、捕ることは忘れていない。うまかったろう、この前の講習会。ポンポン(球を)捕れて……。目は衰えるし、それなりのスピードある投球は捕れないけど、捕り方は忘れん。箸の持ち方だって、一回覚えたら、年とったからって忘れんじゃろ。字の書き方だって。ワシは自転車だって乗れる。速くこげないけどさ。ただ、技を覚えるときに、悪い癖がつかんようにした方がええよ。そのためには早めに矯正した方がエエ。小学生は、まだ楽しくやる時代じゃけど、中学、高校ぐらいからは。プロに行く、行かないは別として、プロに行ける練習を全員にさせてあげたい。

 ――元プロの選手が教えるメリットは?

 ◆プロとアマチュアの違いはスピード、パワー、正確性。その3要素が一般の人より優れている。それは、練習量の違いで、練習量というのは経験値が違ってくるいうこと。そういうふうに、アマチュアの子たちには繰り返し練習の大事さを教えてやらなきゃいけない。こうしたら上手になるよと。

 ――達川さんには、指導要請が多く来るのではないか。

 ◆まだ遠慮してこないんよ。ワシは特定のチームに所属しない。よそに行けなくなるから。ワシはいろんな所で、教えてほしい人に教えてあげたい。捕手について教えるならどこでも行こうと思っている。それぞれの個性があるからワシも勉強になるよ。

 プレーのやり方にハヤリもある。今は(捕る前に)左足を前に踏み出す選手が増えている。(ソフトバンクの)甲斐の影響。やっぱり王(貞治=ソフトバンク球団会長)さんが出てきた時に一本足打法がはやったように、長嶋(茂雄=巨人終身名誉監督)さんが出てきた時に、長嶋さんのまねをして守ったりさ。甲斐があれだけ盗塁を刺したら、皆、甲斐の動画をずっと見るんよ。あの左足の踏み出し方はワシも甲斐に聞いたけど、難しいのよ。ものすごい足腰がいるのよ。

 ――捕手の指導者が少ないのはなぜでしょう。

 ◆捕手の絶対数が少ないから。ドラフトで獲得していない球団もあるでしょう。(アマチュアで)捕手はどこのチームも課題。少年野球で自分から捕手になりたいというのはほとんどいないよな。ずっと投手の球を受けて座っているのが嫌とか、そんな暇があったら打ちたいとか、投げたいとか。

 ――そんな子どもに捕手をやらせるための誘い文句は?

 ◆ない、ない。試合に出やすいとか何か言わなきゃいけないんだろうけどさ。サッカーのゴールキーパーになりたい選手が少ないのと同じ。点を取りたいよな。野球でも、受けるより、投手で投げたいわな。

 ――話は変わるが、達川さんは「ささやき」で有名だった。

 ◆高校生は打者にささやきはしちゃあいけないよね。高校の時は投手にしゃべりよった。頑張れよとか、低く来いよとか。投手に指示をする。

 ――マウンドで、投手へのアドバイスの仕方のポイントは?

 ◆相手の性格を知って、気合入れた方がいい人には気合を入れるし、バックがいるから打たれても大丈夫と、優しく言った方がいい場合もあるし。いろいろよ。それは自分で学ぶしかない。恋の仕方がこうだよ、なんて習ったか? 自分で経験して。例えば、デートするんでも、手をつないで歩くのっていいなと思って手をつなぐ。肩を組んだ方がいいなと思って肩を組んだり、いろいろするわけじゃけ。野球でも自分で見よう見まね。ワシらでも野球を見て、あのキャッチングがいいなとか、打ち方がいいなとか勉強する。

 ――最後の質問。今年のプロ野球の注目点は?

 ◆セ・リーグはカープが4連覇できるかどうか。他の5球団からしてみたら、3年連続でやられているわけで、どう阻止するか。今年は2人が新監督でしょう。原(辰徳=巨人監督)君がどう巻き返してくるのかにも注目したい。パ・リーグはどうかなあ。ソフトバンクは強いよ、やっぱり。今年も強いと思う。「甲斐キャノン」は相当、成長しているよ。バットを持たせたら、まだまだ平凡な選手だけど、ミットを持たせたら世界一だよ。ホンマに。それから、今年、去年と高卒の若い選手がたくさん出てきている。清宮、吉田輝(日本ハム)、安田、藤原(ロッテ)、村上(ヤクルト)、根尾(中日)。それに、今年の新人は東洋大の三羽ガラス(上茶谷=DeNA、甲斐野=ソフトバンク、梅津=ヤクルト)をはじめ、即戦力が多い。世代交代の時が来たのかなと思うね。

 ◇たつかわ・みつお

 1955年7月13日、広島県出身。広島商で73年のセンバツで準優勝、同年夏の甲子園で全国制覇を果たした。東洋大から77年のドラフト4位で広島に入団。現役時代はプロ15年間で1334試合に出場。北別府学、川口和久、大野豊らを擁した「投手王国」を捕手として支え、ベストナインとゴールデングラブ賞をそれぞれ3度受賞した。

 引退後は広島2軍監督などを経て、99~2000年に1軍監督。15年に中日のコーチを退任後、学生の指導ができる資格を回復した。17年からソフトバンクのヘッドコーチを務め、昨秋の退団後に資格を再申請。現在は高校野球の臨時コーチなどを務めている。

 今年3月に初めての著書「広島力」(講談社、税別1000円)を出版した。

最終更新:4/18(木) 15:15
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