ここから本文です

のら猫カンボジアをゆく~従軍記者カメラマンの足跡をたどって~(中)

4/19(金) 17:42配信

47NEWS

 

 金色の朝日に照らされて参道を歩くひとびとや西塔門を見ている時だった。

 背中が猛烈に暖かく感じてくるりと振り向くと、私の顔めがけて金色の光を放つ太陽があった。

 

 「あ……」

 私はただ茫然と、その光を浴びるままにしていた。

 

 なんと気持ちのよいこと。

 とても懐かしいような暖かさ。

 生まれたばかりの赤子が感じるような、この世で初めての光。

 いやまさか、そんな記憶などあるはずがない。

 

 生まれた瞬間から、ずっとそんな宇宙の旅をしているような。

 そして今、初めて宇宙に触れたような実感。

 私は、母親のお腹の中にいる胎児になった気分だった。

  

 第3回廊を降り、西塔門のあたりまで戻ると、背景には太陽が真ん中の塔の上にぽっかり昇っていた。

 やや右側ではあるものの、それは確かに真ん中だった。

 アンコールの建築物は全て正面が東向きなのに、アンコールワットだけは西向きなのだ。

 つまり、最も神聖な太陽が昇る春分と秋分の日のときに、塔の真後ろから真上に昇る太陽を拝むことができる構造になっている。

 

 私はアンコールの建築が緻密な宇宙観とともにあることを理屈ではなく、体で実感させられたのだった。

 まるで、生きたまま死後の世界を垣間見たような不思議な感覚。

 ギリシャやローマの芸術もかなわないようなその美しさ、自然の壮大さに、ただただ涙した。

 

 まさにパワースポット。時折何かを祈ったりヨガをしているひともいる。

 『花様年華』(2000年ウォン・カーワァイ監督)のラストで、トニー・レオン扮するジャーナリストのチャウが突如アンコール遺跡にやってきて、遺跡の穴に口寄せて何かを喋り、その穴を土で埋めている場面がある。

 チャウは忘れられぬ女との秘密を埋めにきたのだった。

 

 私も重なった石の隙間に、そっと秘密を埋めてみた。

 思えば、幼い頃から秘密を穴に埋めてきた私。ここに埋めることができるなら、本当に永遠の秘密になるかもしれない。

4/6ページ

最終更新:4/19(金) 18:02
47NEWS

こんな記事も読まれています

あなたにおすすめの記事