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「差別意識はないけれど偏見はあった…」 映画監督・豪田トモさんが『オネエ産婦人科』に込めた ”生” と ”性”

4/19(金) 9:28配信

ハフポスト日本版

『オネエ産婦人科』


こんなタイトルの小説がある。カラフルな装丁に、ピンク色の帯。表紙には赤ちゃんを抱っこした「オネエ」の助産師が描かれている。

設定からぶっ飛んでいる。


主人公は、「胎児の声が聴こえる」という特殊能力を持つ産婦人科医・橘継生(32)。担当患者が産後うつで自殺してしまい、ドロップアウトした継生は、地方の小さなクリニックで働き始める。

そこには、強烈なキャラクターの”オネエ”助産師、おっさんギャグを連発するゲイの院長。他にもトランスジェンダーの男女、レズビアン……いわゆる”セクシュアル・マイノリティー”のスタッフが大勢いて、地元では「オネエ産婦人科」と呼ばれていたーー。

偏見まみれのトンデモ小説だったらどうしよう……と思いながらも手に取らずにいられなかったのは、これが映画監督・豪田トモさんの初小説だったからだ。

豪田監督のドキュメンタリー映画『うまれる』(ナレーション・つるの剛士)と、次作『ずっと、いっしょ。』(ナレーション・樹木希林)は、驚くほどの緻密な取材をもとに「いのち」と「家族」を描いた傑作だった。

豪田さんの小説なら、絶対に間違いはないはず……

読み終えて、ギャップにやられた。「参りました」と大声で降参したい気分だった。

「本当にオネエ産婦人科があったらよかったのに」と、いうのが真っ先に浮かんだ感想。「普通ってなんだろう」と深く深く考えさせられた。

こんなに個性豊かで温かいスタッフに囲まれて、新しい命を迎えることができたら、どんなに素敵だろう。



作者の豪田トモさんに『オネエ産婦人科』誕生のワケを聞いた。(中村かさね/ハフポスト日本版)

「自分らしく生きるって何だろう」と考えた時、”オネエ”が浮かんだ

ーーそもそも、なぜこのテーマを取り上げようと思ったんですか?



少し遡るんですが、最初の映画『うまれる』を作っていた時、僕は両親と仲が悪かったんです。でも、この「命と家族」というテーマを追いかけたら、親と仲直りできるんじゃないかって。

『うまれる』の取材では、10回くらい出産の撮影をさせていただきました。たくさんの命が生まれる姿、親になっていく姿を見て、無条件に僕自身の親への感謝が生まれて……。

それまでの僕って、人に認められたいから映画作りをやってきたところが多分あったんですよ。

これは「愛着」に由来するんですよね。親に愛されてない、認められてない。でも愛情とか信頼って、酸素みたいなもので、ないと生きられない。だから、誰かに僕を認めて欲しいというのが、制作の原動力だったんです。いま振り返ってみて、初めて言語化できるんですけど。

でも、『うまれる』を通して、僕自身が親に「産んでくれてありがとう」と言えるようになり、親も僕を認めてくれるようになった。たくさんの人が作品を受け入れてくれた。もちろん、妻や子どもも僕を認めてくれている。そうすると、僕の中の「愛着」のトラウマがかなり癒されたんです。

それまでは「認められたいから頑張ってきた」というのが僕の「自分らしい生き方」だったんです。それが、いざ自分の居場所ができたら、気持ちがすごく落ち着いて、「認めてほしい!」というエネルギーがなくなってきちゃったんですよ。

じゃあ、これからどんな生き方をしたらいいんだろう。自分らしく生きるってどうすればいいんだろうって。そこが、この作品の出発点になりました。


ーー分かる気がします。でも、無気力状態から生まれたとは思えないほど振り切った設定です。



自分らしく生きてる人って誰だろうって考えた時に、「オネエ」の人って、すごく自分に素直に、自分らしく生きているような気がしたんです。マツコデラックスさんとかね。

もちろん人によって違うと思いますが、あの格好、あのしゃべり方ができるのは、本当に自分と対話して自分らしく生きているからじゃないかと思ったんです。

僕が生涯追いかけると決めている「命と家族」というテーマと、「オネエ」をうまくミックスできないかと考えた時、オネエから一番遠い世界である産婦人科を舞台にしたら、ギャップがあって面白いんじゃないかな、と。



――では、もともと性的マイノリティーをめぐるテーマに関心があったわけではないんですか?



正直に言うと、全く知らない領域でした。だから、かなりの人数の方に取材させてもらいました。LGBT当事者の方、40~50人くらい。



――物語の前半で、よくあるLGBTに対するスティグマ(偏見)と、それに対するアンサーがキャラクターたちの会話を通して提示されています。悪気はないけれどLGBTに対する偏見を持っている主人公の継生は、トモさん自身なんですね。



そうですね、その部分に関しては、僕が反映されています。胎児の声は聴こえませんけど(笑)。

僕も知らないことが多すぎて、差別意識はないんだけど、偏見らしきものはいっぱいあったんだろうと思います。当事者に話を聞きながら、それに気づきました。主人公と同じように。

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最終更新:4/19(金) 9:28
ハフポスト日本版

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