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「言葉を話さない、芝の気持ちを考える」あるグリーンキーパーの哲学【ゴルフ】

4/20(土) 11:31配信

みんなのゴルフダイジェスト

2019年1月からルールが大幅に改正され、グリーン上のスパイク跡が直せるようになったもそのひとつだ。ゴルフマナー研究家・鈴木康之はあるグリーンキーパーの方からグリーン上におけるマナーを学んだという。そのエピソードをご紹介。

「芝の気持ち、それは『嫌だ!』だと思います」

グリーンについて静かに、しかし、確信をもって話すAさんの口からメンという言葉とツラという言葉が出てくるので、私の頭の中がハテナだらけになったことがあります。漢字で書けばどちらも面ではありませんか。

お話を伺ったころ、Aさんはとあるクラブのスーパーインテンデントでした。絶えず「ワンランクアップ」を求める真摯な研究心と長年の経験は沢山のお弟子さんたちに植えつけられました。

グリーン面にはカップ周辺に集中する踏圧やボールマークなどによる大小様々な凹みができます。砂地としてのメンに凹みがあると、芝のツラをいくら平らに刈っても刈り高にムラができます。短く刈った芝は真っ直ぐ立ちますが、メンの凹んだところの芝は長くなるぶん寝ます。それが見た目どおり転がらない要素になります。メンとツラはそういう技術者言葉でした。

メンをムラなく平らにすればツラは均一に短く刈れます。芝の抵抗が少なく、ボールが打たれたままに、傾斜のままに転がる高速グリーン。毎年天候のご機嫌を窺いながらAさんたちが目指しているのがそういうフェアなツラの高速グリーンです。

私もそうでしたが、クラブの古いメンバーたちは「富士山から順目」を合言葉にパッティングをしてきました。それは昔の話。いまのコースには「富士山からの目」はありません。あるのは富士山からの傾斜と錯覚です。

高速グリーンを設えながら、Aさんが思いを馳せるのは、それによってチャレンジ精神を駆り立てられるプレーヤーたちのことだけではありません。目砂をし、短く刈りこみながら、芝の気持ちを思います。

「芝の気持ち、それは『嫌だ!』だと思います」とAさんはブログに書いています。

「短く刈り込まれるのも、踏まれるのも、砂をまかれるのも、ゴルフをされるのも......。できることなら、日当たりと水はけと風通しの良い場所で思う存分伸び、花を咲かせ、種をつけて、子孫を残したい。芝はそうに思っているのではないでしょうか。しかし、スポーツターフとして芝を維持するためには芝が嫌がることもしなければなりません。だからなるべく芝に負担がかからないように、なおかつプレーヤーの迷惑にならないように、砂の量を調整したり、まくタイミングを考えたりします。芝の葉が埋まるほど多量にまくと、光合成できなくなるし、砂は細かい石なので暑い日は芝がヤケ ドをしてしまうからです。いつも、言葉を話さない芝の気持ちを考えながら、メンテナンスをしています」

思慮深くて細心。芝と付きあう資格のある人です。プレーヤーもこうでなければ。ですから、私は、ボールを拾うときカップのすぐ近くに踏み込んでスパイク跡をつける行為やツマ先とカカトで二つの凹み傷をつける跨いで行く行為が気になります。それを思慮なくやるプロが少なくないから、アマチュアも真似します。自分たちのために磨き上げてくれたステージに不必要に傷をつけていくプロの頭を、モグラ叩きのハンマーでポカリとやりたくなります。

「脱俗のゴルフ 続・ゴルファーのスピリット」(ゴルフダイジェスト新書)より

写真/小林司

みんなのゴルフダイジェスト編集部

最終更新:4/20(土) 11:31
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