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ケイト・ブッシュの革新性が示された傑作『魔物語』の色褪せない魅力

4/21(日) 18:01配信

OKMusic

OKMusicで好評連載中の『これだけはおさえたい洋楽名盤列伝!』のアーカイブス。今回は英国を代表する女性アーティスト、ケイト・ブッシュの1980年の作品、『Never For Ever (邦題:魔物語)』を取り上げる。70年代末、音楽界に現れた彼女は前例のないほどの独自の個性、表現力で立て続けに名作を世に送り、今なお音楽シーンに大きな影響を及ぼし、特にビョークやマドンナをはじめ90年代以降の女性アーティストの指針となるような足跡を残してきたと言える彼女。今なお輝きを失うことのない傑作『魔物語』を掘り下げたい。
※本稿は2015年に掲載

英国女性アーティストとして初となる英チャートで1位を獲得

CD時代となっては関係ない話だが、アナログ時代、前2作『The Kick Inside(邦題:天使と小悪魔)』『Lionheart』のアルバムはシングルスリーブだったが、本作ではダブルジャケットとなり、豪華な作りになった。英国の有名な絵本画家、ニック・プライスの手なるイラストレーションがフロントカバー、中面に描かれている。鳥や魚、蝙蝠や怪物、白鳥、猫や蝶などさまざまな生物と一緒に描き込まれているケイト・ブッシュはもはや魔女のようだ。

イラストの図案から察するに、描かれている生物や怪物は、ケイトの子宮から飛び出してきているというようなシチュエーションとなっており、何ともすごい。裏面はズバリ、コウモリに変身したケイトが宙を飛んでいる。アルバム中を探しても、もはや英国美女らしきものを感じさせる写真など皆無。ライナーノーツもなく、歌詞だけが訳されていた。日本盤に付けられた帯には「20ヶ月の時間が彼女に与えたものは…?」「英国最優秀女性ヴォーカリストに輝くケイト・ブッシュが自ら初のプロデュースで描くシュールリアリスティックな音と幻想の世界。今、その扉は開かれる!」と仰々しくある。最初の20カ月というのは、本作が前作から約2年のインターバルを置いて制作されたことを意味している。もっとも、その間を新譜の制作に費やしていたのかと言えばそうではなく、この間には自身初となる大規模な英・ヨーロッパツアーがあったり、ピーター・ゲイブリエルの要請でアルバム『ピーター・ゲイブリエル III』('80)のセッションに参加し、「Game Without Frontiers」でゲイブリエルとデュエットするなどの仕事もこなしていた。この曲は大ヒットを記録している。ゲイブリエルとはこの後、彼の大ヒット作『So』('86)にもケイトは招かれ、シングル「Don't Give Up」で再びデュエットし、これも世界的な大ヒットになっている。

内容も過去の作品から大きく変化している。ここには女性シンガーソングライターというよりは“アーティスト”とシンプルに呼んだほうが良さそうなケイト・ブッシュがいる。本人が後に語ったのでは、過去におけるレコード会社主体のアルバム制作や自らをシンガーソングライターとして置かれているスタンスには不満だったという。彼女はデビュー時からあくまで自分をアーティスティックな表現を試みる者としてアピールしたかったようだ。さすがに最初からセルフプロデュースをするには経験値もなく、そのあたりは恩師デイブ・ギルモア(ピンク・フロイド)の手に委ねるのもやむなしとしていたようだが、多少の経験も積み、レコード会社に対しても充分な成績を示したとなれば、そろそろ自分流を貫き通したくなる。レコード会社側もケイトがこれほど主張の強いアーティストであるとは、思っても見なかったのかもしれない。最初はギルモアがやたら推薦するから、まぁ彼を信用してやらせてみるか、というぐらいだったのだろう。ところが、思いもよらずケイトは大物だったというか、言い方は悪いが、彼女は化け物だったのである。

やれるものならやってみろと静観するつもりで、それでもさすがにレコード会社はクリス・レアとの仕事で実績のあるプロデューサー、ジョン・ケリーとの共同というかたちでケイト自身の制作指揮を承諾したのだが、英EMIのお膝元とも言うべきエアー、アビーロード・スタジオを使ってレコーディングされた本作の出来映えには、これまた会社もリスナーも、ミュージシャンを含む多くの音楽関係者もぶったまげるほどのものだった。

アルバムは1980年9月8日に発売されると、チャートを駆け上り英チャートでついに1位を獲得してしまった。これは英国女性アーティストとしては初となる快挙だったそうだ。日本でもオリコンチャート40位を記録している。これは洋楽アルバムとしては大ヒットと言っても差し支えないのではないだろうか。ミュージシャンは前2作から継続して参加しているものも多いが、ジェフ・ベックとの仕事で知られるキーボードのマックス・ミドルトンの参加や「Violin」という曲ではアイリッシュ・トラッド系のフィドラー、ケヴィン・バーク、「Breathing」という曲ではバッキング・ヴォーカルで英国の燻し銀のシンガー、ロイ・ハーパーの参加が目をひく。

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最終更新:4/21(日) 18:01
OKMusic

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