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【平成の事件】「書かない特ダネもある、将来考えろ」神奈川県警不祥事めぐり幹部から圧力 記者の苦悩

4/22(月) 10:00配信

カナロコ by 神奈川新聞

 平成に入って10年余り過ぎた1999(平成11)年。社会の信頼が根本から崩壊しかねない事件の発覚、発生が相次いだ。深刻な問題を引き起こしたのは、神奈川県警。現職の警察官が殺人、収賄、窃盗、強制わいせつなどの罪を犯し、県警は組織ぐるみで警官の覚醒剤使用事件を握りつぶしていた。未曽有の不祥事は、なぜ起き、何を残したのか。不祥事を隠そうとする県警上層部と記者の間では、どんなせめぎ合いがあったのか。組織と個人、キャリアとノンキャリア、捜査当局とマスコミ… 一連の不祥事を取材した記者が今、あの時を振り返る。(神奈川新聞記者・渋谷文彦)

 「取材に行っても、2人とも否定しますよ。一体何のことかと言われるかもしれない。裏は取れませんよ」

 1999年9月4日、神奈川県警察本部。ある県警幹部が発した言葉に、思わず息をのんだ。

 2人とは、相模原南署の元巡査長と女子大生。県警が隠していた元巡査長による不祥事の実態をつかんで当てたところ、冒頭の発言が返ってきたのだ。

 同月、県警は異様な雰囲気に包まれ始めた。時事通信が2日から独自ダネを連発。第1弾は厚木署集団警ら隊内の集団暴行、第2弾が元巡査長の不祥事だった。ただ、時事の配信は小出しで、全容をつかんでいないような印象もあった。さらに、県警の説明が極めて不自然で、肝となる部分を隠しているとの疑念が募った。勢い、実情を探る報道各社の鼻息は荒くなっていった。

 県警は当初、元巡査長が押収品のネガを勝手に持ち出して懲戒免職となったことまでは認めたが、何のネガだったのかを明かさなかったのをはじめ、「捜査目的で持ち出した」「実害はなかった」と強調。「実害がないのに懲戒免職とは厳し過ぎるのではないか」との追及にも、「厳格な証拠品の管理に逸脱する。実害がないからといって、見過ごすわけにはいかない」と言い張った。

 だが、真実は違った。ネガに写っていたのは、室内で親しげにする暴力団組員と女子大生の姿。元巡査長はこのネガを材料に女子大生をゆすり、男女関係を迫ったり、買い取りを要求したりしていた。

 県警担当で私の上司であるキャップがこの概略をつかみ2人で取材を進める中、ある県警幹部から浴びせられたのが冒頭の言葉だった。さらに、「(元巡査長と女性の間で)示談が成立し、なかったことになっている。だから、そんな事実は、もう存在しないんです」と畳み掛けてきた。

 警察は犯罪事実の解明を図る際、絶大な権力を行使する。その権力が一丸となって真実を覆い隠そうとしたとき、一報道機関がどう対抗できるのか。本紙が報道しても、否定するのではないか。そんな思いが頭をよぎり、7年前の記憶がよみがえった。

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最終更新:4/22(月) 10:59
カナロコ by 神奈川新聞

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