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ラジオから生み出される20年代の流行歌【世界音楽放浪記vol.44】

4/22(月) 10:35配信

Billboard Japan

この春、『イチ押し 歌のパラダイス』(NHKラジオ第一)という音楽番組を立ち上げた。「演歌・歌謡曲」というと、その言葉を聞いただけで「昭和」と感じる方も多いのではと拝察する。私自身、クラシックと洋楽、それらの周辺の音楽を聴いて育ったので、人生との重なりは、ほぼ、ない。

前身の番組は、今年の3月に、34年間に渡る歴史にピリオドを打つことになったスタジオライブ番組だ。一世一代のような気概で臨む出演者、何万という生演奏を繰り返してきたバンド、大物の放送作家、、、その番組を担当することになった時、武者震いした。私もプロだ。当然の礼儀として、全てのゲストの経歴や代表曲を調べ上げ、半年余りで、少なくとも1000曲以上は聴いた。人生と重なっていないからこそ、分かること、見えてくるものもあった。

新番組は、基本的に「新曲限定」というコンセプトを明確にした。もちろん、数々のヒット曲を聴きたいという要望が多いことは理解している。しかし、新しい歌にのみ宿っている成長力や生命力はかけがえのないチャームポイントであり、「現在進行形」の最先端だ。

そのような価値観を共有できるDJとして、真っ先に思い浮かんだのが、作詞家の売野雅勇さんだ。白状してしまうと、中森明菜も、チェッカーズも、実は、リアルタイムでは聴いていなかった。大人になってから知った売野さんのエレガントな「詞」の世界観は、言葉の革命だと感じた。売野さんには、このようにお願いした。「この番組は、ベテランも新人も『新しい歌』だけを世に送り出すようにしたい。『演歌・歌謡曲』というカテゴリーではなく、新しい『流行歌』が生まれる場にしたい」、と。そしてもう1人、唐橋ユミさんにも、お力添えを頂いた。売野さんと唐橋さんは、まるで10年来のコンビのように、温かい雰囲気を作り出している。

未来を予見するだけでなく、過去の再評価も行いたい。そこで、時代を超えた名曲を紹介する「スゴうた」というコーナーも設けた。解説してくれるのは、演歌・歌謡曲研究の第一人者である、大阪大准教授の輪島裕介さんだ。懐古趣味的な既成概念を払拭すべく、テーマ曲のデモは、ブロードウェイのミュージカルのオープニングをイメージして私がデモを作り、nishi-kenさんが素晴らしい作品に仕上げた。番組の題名は、メロディにのせることで、口ずさまれると考えた。ボーカルは、奄美大島出身の可憐なデュオ「ひめまり」に依頼した。

先日、21歳の演歌歌手、辰巳ゆうとさんを、明治大学の講義に招いた。ほとんどの学生は、演歌を聴いたことがない。それが現実だ。しかし、彼の歌声を聴いた途端、学生の目が輝いた。ほとんど接触したことがないという現実に対して、私は逆に、developingの可能性しか感じなかった。

20年代の流行歌を生み出すなら、ラジオより有効なメディアはあるだろう。だが、ラジオに関わることになったのも天命だ。radikoやらじる☆らじるなどの機能を活かすことはもちろんだが、もっと「個」に寄り添い、心に残る方法はないかと、世界で得た知見を集積しながら、思案を重ねている。そして、「演歌・歌謡曲」に留まらず、さまざまな音楽番組を、立ち上げていきたい。そのためには、「ファン以外」の方々が気軽に接触し、アクセスし、入り込める空気感を作ることが第一だ。「個」の時代に、窮屈な音楽鑑賞の押し付けなど、時代遅れも甚だしい。音楽は、心の自由を与えてくれる、最高のサプリなのだから。Text:原田悦志


◎番組情報『イチ押し 歌のパラダイス』
NHKラジオ第一 毎週水曜20:05~20:55


原田悦志:NHK放送総局ラジオセンター チーフ・ディレクター、明治大学講師、慶大アートセンター訪問研究員。2018年5月まで日本の音楽を世界に伝える『J-MELO』(NHKワールドJAPAN)のプロデューサーを務めるなど、多数の音楽番組の制作に携わるかたわら、国内外で行われているイベントやフェスを通じ、多種多様な音楽に触れる機会多数。

最終更新:4/22(月) 10:35
Billboard Japan

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