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茨城県の倉庫で見つかったマセラティ・メキシコ│38年ぶりに公道へ

4/23(火) 17:37配信

octane.jp

倉庫の中のメキシコ

本記事の主人公である1968年製メキシコは、2017年になって茨城県内の倉庫から引き出された。メキシコは当時のマセラティ総代理店であった新東洋企業によって、1968年に1台が正規輸入されていることがわかっているが(この車は現存)、新車で輸入されたのはこれ1台だけだ。これ以外に何台かが個人輸入され、現オーナーの調査によれば、一時期には4台があったことが分かっているが、現在確認できているのは2台だけだという。

このメキシコ(シャシーナンバー:AM112 276)は、メーカーの公式記録から、1968年2月13日に完成した“4200”モデルで、完成後、イタリアのヴァレーゼで登録されたことが明らかになっている。日本にやってきたのが1973年であることは、愛知県で職権打刻を受けた記録簿から判明した。これ以降のヒストリーは調査中で現在のところ不明だが、群馬県内での整備記録が残っていることから判断して、その周辺地域で使われていたと思われる。1979年にナンバーを返納し、その後、茨城県の倉庫に仕舞い込まれた。このメキシコの存在を知っていたのは、所有者を除けばごく少ない数の人たちだけであった。現オーナーとは旧知の仲であるこの私も、マセラティ・ミストラル4000を所有していたときに、マセラティ好きの仲間から聞いた記憶がある。

2017年1月に現オーナーが所有者から譲り受けることに成功した。私が所有していたミストラルはその後、巡り巡って彼の所有となり、暫く堪能されたあと、新たなチャレンジの対象にメキシコを選び、なんとか復活させたいと考え、周到に準備を進めていたという。

薄暗い倉庫の中から太陽の下に引き出されたメキシコは、素人目にも保存状態がよかったことが想像できる状態にあった。適度の湿度に保たれていたのだろうか、錆の発生は殆ど目視できず、ボディの表面を覆っていた埃を拭うと塗面の劣化によるヒビ割れが明らかになったが、幸いにしてどれも深いものではなかった。室内には欠品がなく、革装にうっすらと黴が生えている状態であった。

彼は、内・外装については現在の状態を可能な限り残したまま(手を付けずに)、可動状態に戻すことを目標に掲げた。全塗装など無粋なことはせずに、このメキシコが辿ってきたヒストリーを大切に残すことにしたのだ。修理を依頼したのは、現オーナーや私が懇意にしている宇都宮の(株)ブレシアだが、同社の森社長も、氏のポリシーに諸手を挙げて賛同し、私たちはあえてレストアという言葉を使わずに“整備”と呼んでこの作業に当たることになった。言い忘れたが、ニスの艶が保たれたままのウッドパネルに配された速度計内のオドメーターは6万2000kmを示しているにすぎず、エンジンは分解してOHしたことがない“未開封”の状態だった。

森さんからは、経験上からエンジンなどメカニズムについても保存状態は極めて良好と思われるとの判断を得た。通常のドライブができるように消耗品は交換するが、可能な限り純正部品で賄うことに決め、世界中から探そうとの意欲を持ってあたることにした。装着されていたボラーニ製のワイアホイールは目視では異常は認められず、表面がうっすらと錆びていた程度だったが、将来、オーバーホールに出すことを前提に温存し、ボラーニ社からまったく同一のものを購入して、純正サイズのミシュランXWXを履かせた。

エンジンについての大まかな作業手順は、工業用内視鏡で内部を目視点検するとともに、プラグを外してプラグホールからエンジンオイルを注入してしばらく放置し、その後、手でゆっくりとクランキングするという手順を繰り返しながら、オイルをシリンダーやクランクなどの摺動部分に行き渡らせることから着手した。並行して、ディストリビューターの分解清掃や、キャブレターのオーバーホール、タンク内や燃料配管内の掃除など、燃料・点火系の整備を行い、トランスミッション、デフはもちろん、回転部分のグリスなどすべての油脂類を交換した。

各シリンダーの圧縮を測定して、8気筒がどれも基準値内で揃っていることを確認した後、イグニッションに通電してところ、4.2リッターのツインカムV8エンジンは、あっけないほど静粛に、長い惰眠から目覚めた。その後も何度か始動して異常がないことを確認。2017年末にクローズドサーキットでの有志走行会に持ち込んで徐々に速度を上げて確認テストを行い、2018年1月にめでたく車検を取得することができた。

長いあいだ消息不明だったに違いない“AM112 276”は、すべての“整備”を終えたあと『Maserati Mexico Registre』に登録された。レジスターで確認できている現存数は約250台だが、世界で実動しているものは200台程度だという。

サイドのスタイリングは端正でクリーン。過度に目立たぬことは、この手のVIPカーの作法なのだろう。レジストリーによれば工場出荷時の塗色はシルバーであったという。だれが、いつ、このダークなカラーに化粧直ししたのだろうか。それもまたこの車のヒストリーの一部だ。

Octane Japan 編集部

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最終更新:4/24(水) 12:41
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