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当事者が語る意味 つまづいた人に優しい社会を目指して

4/23(火) 11:03配信

BuzzFeed Japan

世田谷一家殺害事件で妹一家を失ってから、様々な喪失体験を持つ人たちとつながって、生と死を考え抜いている入江杏さん(61)。

毎年事件の起きた12月にグリーフケア(悲嘆のケア)の集い「ミシュカの森」を開き、世田谷区の委員としてグリーフサポートを広めたり、全国で喪失体験を分かち合う集まりを開いたりして、講演や執筆活動も熱心に続ける。

「喪失の悲しみを語ることは、亡き人を愛(かな)しみ、出会い直すこと」

そう語る入江さんが、喪失体験を伝えることの意味をどう考えているのか、そして、聞き手に伝わるためにどのような工夫をしているのか。さらに掘り下げたい。
【BuzzFeed Japan Medical / 岩永直子】

語ることは快感? 聞く側との距離感は縮められるか

殺人事件の被害者遺族として活動していると、犯罪被害者以外の人ともつながりを広げている入江さんは、聞き手に疑問を投げかけられることがある。

「なぜ障害者やスティグマについて語るんですか?と聞かれることがあるんです。事件の起きた12月のイベントとして語ることとしてはふさわしくないのではないか、もっと犯罪被害の悲惨さを語った方が焦点が絞られ、共感を得られるのではないかと言われることもあります」

一番、ショックだったのは、「被害者遺族は少し気持ち良さそうに語っている」と言われたことだ。

「大きなメディアの編集委員だったのですが、『加害者は口を閉ざすが、被害者は話すことで快感を得ているんじゃないか』と言われたんです。加害者が語れないのは、加害の記憶を否定し、忘れ、操作をしようとするから。積極的に隠蔽する場合もあるから語らないんです。それは違うと思ってショックを受けました」

「被害者は亡き人との出会い直しの場として癒される時間、ケアされる時間として自分の物語を伝えています。聞き手に差し出したり、受け取ったりして交流の癒しはあるかもしれない。それが『気持ちよく語っている』と受け取られてしまうのかもしれませんが、むしろとても疲れますし、受け入れられるように語るのにとても苦労しています」

自分は遺族としての経験を話していて意味はあるのか? 人の役に立っているのか? 

聞き手の反応を見て、そんな迷いを感じ続けてきたが、東京大学先端科学技術研究センター当事者研究分野准教授の熊谷晋一郎さんが「スティグマ(負の烙印)」について語った講演を聞いて光が差し込んだ。

「熊谷先生も身体障害の当事者ですが、いわゆる車いすの一日体験や、目が見えない人などの疑似体験をするだけでは、むしろ『大変ですね』『立派ですね』と言われながら、至近距離に近づくと拒まれて、社会的な距離を広げてしまうと話しています。その距離を縮めるためには、当事者の語りに触れることが大切だという先生の言葉に励まされました」

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最終更新:4/23(火) 11:03
BuzzFeed Japan

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