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都会のフードコートに集う常連たち「くたびれたスーツ」を着たおじさんの正体は?

4/25(木) 15:26配信

DANRO

「フードコートって面白いよね」

おじさんの存在を知ってから5日ほどたったある日、そのときはやってきました。おじさんの「定位置」の隣の席が空いていたのです。おじさんは、テーブルにスポーツ新聞を置いたまま、席を外していましたが、弁当を食べながら帰りを待つことにしました。

しばらくすると、これまで見たことのないおじさんが隣の席にやってきました。このおじさんBは、あたりを見渡すと、すぐに去っていきました。おじさんBは、例の「怪しげな風貌」のおじさんなのでしょう。

やがて、いつものおじさんAが席に戻ってきました。思い切って話しかけてみます。「おじさん。別のおじさんが、おじさんのことを探しているようでしたよ」。短い一文のなかに「おじさん」を3回も使ってしまいました。

おじさんAは「ああ、そうでしたか」と、腰を下ろします。聞けば、おじさんAとBは学生時代の友人とのこと。では、おじさんAは毎日ここで何をしているのですかと聞いてみると……。「フードコートって面白いよね。いろんな人がいるから」と、笑います。

おじさん、実は雑誌などで執筆するライター。まさかの同業者だったのです。「このあたりの休憩所やフードコートで最近、悪徳商法の勧誘が行われていると聞いて、取材しているんですよ」とのこと。おじさんによれば、実態のない会社でも、そこにあるように見せられるため、オフィスビルの休憩スペースは、そうした勧誘に使われることがあるといいます。

何度も席をはずすのは、あちこちで繰り広げられる「やりとり」を見にいくためだそうです。となると、あの怪しげなおじさんBは、情報提供者かなにか? 「いやいや。彼は場外馬券売り場に向かう途中で、暇つぶしに寄っていくだけ」。一気に拍子抜けしてしまいました。

「あの人は何をしているんだろう?」。そう思って話しかけた相手もまた、「あの人は何をしているのだろう?」と別の人を追っていたわけです。ということは当然、連日ひとりフードコートで過ごす筆者を見て、「あの人は何をしているのだろう?」と思っている人も、どこかにいるのでしょう。

「深淵をのぞくとき、深淵もまたこちらをのぞくのだ」という有名な言葉を思い起こさずにはいられない昼下がりでした。

(著者プロフィール)
土井大輔(どい・だいすけ)
ライター。小さな出版社を経て、ゲームメーカーに勤務。海外出張の日に寝坊し、飛行機に乗り遅れる(帰国後、始末書を提出)。丸7年間働いたところで、ようやく自分が会社勤めに向いていないことに気づき、独立した。趣味は、ひとり飲み歩きとノラ猫の写真を撮ること。好きなものは年老いた女将のいる居酒屋。

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最終更新:4/25(木) 16:56
DANRO

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