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穏やかな最期を迎えるために 「いかに生き抜くか」を考えよう

4/26(金) 16:06配信

熊本日日新聞

 医学部卒業後の研修を終えた直後、開業医だった父が亡くなった。1989(平成元)年にいきなり病院を継ぎ、今年で31年目になる。

 父は私の結婚式への出席もできなかった。私は式前、ウエディングドレス姿の妻を伴い病室へ押し掛け、記念撮影をした。入院先に迷惑をかけたかもしれないが、皆温かく迎えてくれた。

 当時はまだ、在宅医療は少なかった。今では一般的な鎮痛剤のモルヒネは注射しかなく、現在のように貼り薬や座薬など在宅で使えるものはない。在宅患者の多くは、痛みや苦しみを睡眠剤でごまかしていた。介護スタッフもほとんどおらず、世話するのは家族。疲弊し在宅を続けることは難しかった。

 これまで病院や在宅での看取[みと]りを合わせ、約3000人の方と最期の時を過ごしてきた。平成が終わろうとしている今、在宅医療の進歩により、多くの方が穏やかで自然な死を迎えられるようになった。

 しかし1人で誰にも看取られず、亡くなる方も増えている。県内で1人で亡くなる人々は年間2000人を超えている。警察が発表する「孤独死」の数は、原則として1人暮らしを前提とするので、この数値よりはるかに少ない。

 同居者がいても2世帯住宅だったり、家族が外出したりする間に死は起きる。本人や家族、介護職らがいくつか、気を付ける点を知っていれば、“孤独死”は減るかもしれない。病状が急変する時、前兆が分かる時があるからだ。

 例えば血液中の酸素が減り、指先が紫色になるチアノーゼ。すぐに病院に行けば、助かる可能性がある。孤独死の多くを占める入浴時のヒートショックは、食後2時間以上あけ、41度以上のお湯に入らなければ、危険度は下がる。そもそも1人での入浴は避けてほしい。

 人は病気であろうとなかろうと、毎日死に近づく。人生の最後をいい時間にするため、「いかに死ぬか」ではなく、「いかに生き抜くか」を考えてはどうだろう。新たな令和の時代、皆が一日一日を大切に生き、穏やかな最期を迎えられるようになればと思う。(本庄内科病院長)

(2019年4月26日付 熊本日日新聞朝刊掲載)

最終更新:4/26(金) 16:06
熊本日日新聞

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