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“2兆円”の水素市場、日本が欧州の牙城に風穴か

5/4(土) 16:10配信

ニュースイッチ

 水素を冷やして液化する。水素をエネルギーキャリアや燃料として使う水素社会では不可欠になる技術だ。だが30年近く、液化の原理は変わっていなかった。この原理が覆ろうとしている。強力な磁力を用いる磁気冷凍技術が実用レベルに上がってきたためだ。欧州2社がほぼ独占してきた液化装置市場に風穴を開けるかもしれない。液化技術のブレークスルーの背景には日本の材料研究がある。

 「2030年に900億円、50年に2兆円の水素流通が掲げられている。この水素市場を日本がリードするためには液化技術が欠かせない」と日本大学の西宮伸幸特任教授は強調する。政府の「水素基本戦略」では30年に水素1ノルマル立方メートル当たり30円で30万トン、50年を視野に入れて将来は1ノルマル立方メートル当たり20円で1000万トンの供給が目標として掲げられている。それぞれ国内だけで9000億円と2兆円の水素市場ができる計算になる。この巨大市場の獲得のため開発競争が進んでいる。

 水素をエネルギーキャリアとして使うため、有機ハイドライドとアンモニア、液化水素の三つの技術が開発されている。中でも液化水素は摩擦や熱損失などを無視した理論的な最大効率が98%と試算されている。他の2種は化学反応を介して液体を作るが、液化水素は液化と気化の物理現象を利用する。名久井恒司東京理科大特任教授は「物理プロセスはエネルギーを機械的に回収しやすい」と説明する。液化の排熱を回収し、気化する際の膨張を利用できれば飛躍的に効率が上がる。

 ただ現状は液化水素の効率は3技術の中では3番目だ。水素の沸点は20ケルビン(マイナス253度C)と低く、装置を作る上で厳しい制約がある。水素の液化装置は欧州2社が独占し、プラントの液化効率は25―35%に留まる。技術開発は効率化よりも、システムの信頼性を上げる方向に投資が振り向けられ、劇的な改善は見込みにくい。川崎重工業水素チェーン開発センターの森本勝哉理事は「液化は水素チェーンのコストの多くを占める。基礎的なブレークスルーが起きれば、民間で開発競争が起きる」と期待する。

 物質・材料研究機構は磁気冷凍技術でブレークスルーを起こそうとしている。物材機構の沼澤健則液体水素材料研究センターNIMS特別研究員らは液化効率40%を実現した。この磁気冷凍技術をもとに科学技術振興機構の未来社会創造事業として10年間で33億円を投じる大型プロジェクトが動きだした。目標は冷凍効率50%の液化装置の開発だ。沼澤特別研究員は「既存技術は欧州2社が特許を固めてしまった。だが基本原理は30年前のものを使い続けている。磁気冷凍は新しい技術。日本で知財を囲い込む」と意気込む。

 磁気冷凍は磁性体に強力な磁場をかけて磁気モーメントを強制的にそろえる。磁場がなければモーメントはバラバラな方向を向く。強制的にモーメントをそろえる過程で磁性体から熱が排出され、磁場から解放されてモーメントがバラバラな方向を向く過程で周囲から熱を吸う。この発熱と吸熱を繰り返して水素ガスから熱を移す。

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最終更新:5/9(木) 10:09
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