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技術を守り、広めるため 大学発ベンチャーの知財対策

5/7(火) 6:00配信

アスキー

東北大学スタートアップガレージは3月7日、スタートアップや投資家向けの交流イベント『TUSG Gathering「スタートアップと知財戦略」』をT-Biz東北大学連携ビジネスインキュベータT-Bizで開催した。
 東北大学スタートアップガレージは3月7日、スタートアップや投資家向けの交流イベント『TUSG Gathering「スタートアップと知財戦略」』をT-Biz東北大学連携ビジネスインキュベータT-Bizで開催した。
 
 本イベントは、学生や起業家、大学関係者、投資家を対象に、知財に対する理解とネットワーキングを目的としたもの。セッションの第1部は、特許庁 総務部企画調査課 企画班長(スタートアップ支援チーム)菊地陽一氏による講演、第2部は、菊地氏、ボールウェーブ株式会社 取締役製造・技術部長 竹田宣生氏、株式会社JDSound 代表取締役 宮崎晃一郎氏、株式会社ZAICO 代表取締役 田村壽英氏の4名によるパネルディスカッションを実施した。モデレーターはASCII STARTUPの鈴木が務めた。
 

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 第1部の菊地氏による講演「スタートアップと知財戦略」では、スタートアップが抱えている知財に関する課題、スタートアップが最低限やっておくべき知財戦略を解説し、それらを支援する特許庁のスタートアップ施策を紹介した。
 
知財は、大企業との協業や資金調達にも必須のツール
 信用や資金、設備などのないスタートアップにとって、破壊的な技術やアイデア、行動力だけが強み。つまり技術系スタートアップにとって、企業価値≒知的財産といえる。これは米国ではすでに常識だが、日本のスタートアップは知財意識がまだまだ低いのが現状だ。
 
 新しい技術やプロダクトのブランドを自分のものだと証明するには、特許が必要だ。一般的に特許というと「独占」のイメージが強いが、「連携」や「信用」を生むツールにもなる。
 
 「独占」とは、自分のものだと証明すること。権利を侵害されたら訴訟を起こすことができるし、競合の参入障壁にもなる。新しい技術やアイデアでも、真似されてしまうと体力勝負になってしまう。資金力のないスタートアップにとって、知財が競合との差別化や参入障壁のためのツールになる。
 
 「連携」は、大企業との協業、同業種へのライセンス提供など、知財がアライアンスを組むためのツールになる。
 
 スタートアップにとって最も重要なのは「信用」だ。特許を取っていることで信用の裏付けになり、資金調達やM&Aの評価に威力を発揮する。ブランドの確立や宣伝効果も期待でき、スタートアップにとって知財は必須のツールであり、持っておくと何かと役に立つ。
 
スタートアップが最低限やっておきたい2つのこと
 とはいえ、やみくもに出願して特許を取ればいいわけではない。特許の取得や維持にはお金もかかるうえ、特許を取得することで技術情報が公開されるというデメリットもあるからだ。そこで、知財戦略が必要になる。
 
 知財戦略の例としては、1)参入障壁として使う、2)他社から侵害されたときに暴きやすいものはしっかり権利化し、暴くことが困難なものに関しては秘匿化する、3)戦略的なパテントマップをつくり、競合他社と自社の関係を把握する、といった使い方がある。
 
 スタートアップの知財に関するもうひとつの課題は、スタートアップに通じた知財専門家に出会えないことだ。スタートアップの多くは、相談する相手がおらず、知財に関心を持っても、何をすればいいのかわからないというのが実情ではなかろうか。そこで、スタートアップが最低限考えておきたいこととして、以下の2つを提案した。
 
 1つは、会社名・商品名を決めるときには、「商標」を調べて、他社の権利を踏んでいないかどうかを確認して、商標権を登録しておくこと。
 
 2つ目は、技術系のコア技術をどうやって守るかの方針を決めておくこと。ブラックボックスにして隠すか、特許出願するか。出願する場合、その権利をどう使うのか、海外展開する場合はどの国で権利を取るか。大学の場合は、単独/共同出願か、などを考える必要があるだろう。
 
特許庁の5つのスタートアップ施策
 特許庁では、スタートアップを支援するため、5つの施策を行なっている。1つは知財コンテンツの提供。国内10社、海外8社の事例を収録した「一歩先行く国内外ベンチャー企業の知的財産戦略事例集」、大・中企業との協業する際の知財の取り扱いを紹介した「オープンイノベーションのための知財ベストプラクティス集“IP Open Innovation”」、知財が必要になるケースをまとめた「知的財産デュー・デリジェンスの標準手順書 “SKIPDD”」「知的財産デュー・デリジェンス 標準手順書」の3つのコンテンツをセミナーやイベント等で配布している。
 
 2つ目は、知財アクセラレーションプログラム(IPAS)。知財とビジネスの専門家で構成する知財メンタリングチームをスタートアップへ3ヵ月派遣し、出口を見据えた知財戦略構築を支援している。2019年度は15社程度を採択する予定だ。4月に公募が始まるので、興味のあるスタートアップは要チェックだ。
 
 3つめは、スタートアップ向けの「スーパー早期審査」の実施。通常1次審査の結果が出るまで9.3ヵ月かかるところ、スーパー早期審査では、1ヵ月以内で結果がわかり、最短2.5ヵ月で権利化が可能だ。4つ目は、特許費用の減免。審査請求料や特許料のほか、調査などの手数料まで、すべての費用が3分の1に減免される。
 
 5つ目は、知財を活用した海外展開を支援する「ジェトロ・イノベーション・プログラム(JIP)」。海外のアクセラレーターと連携し、国内のブートキャンプ、現地メンターによるメンタリング、現地イベントの出展を提供するものだ。2018年度は、シリコンバレー、深セン、ベルリン、ASEAN(インドネシア・タイ・マレーシア)で実施。
 
 特許庁では、スタートアップ向けの知財コミュニティポータルサイト「IP BASE」を開設。知財戦略に関する基礎知識や支援策の最新情報を公開しているので、ぜひ参考にしてほしい。
 
起業家の特許戦略を公開メンタリング
 第2部のパネルディスカッション「起業家×知財戦略」は、特許庁の菊地氏と起業家3名がメンタリング形式で意見交換した。
 
 「クラウド在庫管理ソフトZAICO」を開発・販売している田村氏からの質問と、菊地氏の回答は以下のとおり。
 
Q.ソフトウェアのアルゴリズム特許に意味はあるのか?
 
A.アルゴリズムの特許は侵害されても暴くことが現実として難しい。ビジネスモデル特許のほうが親和性は高いだろう。ビジネスモデル特許は広い範囲で取れるので、検討してみては。
 
Q.ソフト上のユーザーインターフェースの特許は取れるのか?
 
A.特許権か、意匠権にするかの2つの選択肢がある。見た目のコピーを防ぐのであれば、意匠権でいい。機能面での特徴であれば、特許として取ることができる。特許の場合、それによってどんな効果があるかで進歩性を見る。一般的なユーザーインターフェースとすると、おそらく似た機能のものは存在するので、課題解決と結びつけるといい。ZAICOのケースでは、在庫管理の課題を解決するために特有のユーザーインターフェースとして申請すると、審査が通る可能性は十分にある。
 
Q.既存の機器の組み合わせ+ソフトで特許を取れるのか?
 
A.従来からある機器とソフトの組み合わせであっても、特定の課題を解決するためであれば特許が取れる可能性は十分にある。
 
Q.特許を出願するタイミングは? 製品を市場に出したあとで特許は取れない?
 
A.世間に公開する前に特許を出願するのが基本。出願前に学会発表や展示会などでお披露目すると特許が取れなくなってしまうので要注意。
 
 続いて、宮崎氏は2つのテーマを提示。
 
Q.アルゴリズム特許を取得するか、ブラックボックスにするかの選択について。JDSoundが2014年に開発したギター用ディレイ「Flight Time」は、空間に流れている音楽のBPMをリアルタイムに計算する世界初の製品。これに搭載されているBPMを検出するアルゴリズムは、非常に特殊なものであるが、特許を出願しなかった。この判断は合っているだろうか。
 
A.アルゴリズムは秘匿するのが正解。機器を分解しても他社は真似ができない。公開してしまうと、他社に真似をされても暴けないので、公開するのはあり得ない。
 
Q.デジタルスピーカー「OVO」の商標について。中国にはすでに「OVO」というスピーカーブランドがある。また、米国にはOVO SOUNDというレコードレーベルがある。これから米国のクラウドファンディング「indiegogo」と台湾の「ZecZec」に挑戦しようと考えているが、問題はないだろうか?
 
A.米国と台湾で商標権がとられているかどうかは調べておいたほうがいい。クラウドファンディングの最中に訴えられる可能性もゼロではない。また、クラウドファンディングは達成できたとしても、将来的に一般販売を考えているのであれば、権利をクリアにしておいたほうが安心。
 
 ボールウェーブ株式会社のCTO 竹田氏は、これまでの特許戦略を紹介してくれた。
 
 ボールウェーブは、東北大学未来科学技術共同研究センターの山中一司教授らが開発したボールSAWセンサーを活用し、製品化を目指す大学発ベンチャーだ。もともと文部科学省の大学発新産業創出プログラム (START)事業から始まったこともあり、特許の取得については非常にアグレッシブだったという。研究者にとって、自分たちの技術を守るとともに、発見した技術を世の中に知らしめるためには特許は最適だからだ。大学の予算だけでは特許の取得費用をまかなうのは厳しいが、幸い、共同研究企業が特許に理解があり、共同出願の特許費用は負担してくれたため、100を超える特許を取得していた。
 
 しかし、共同研究企業との共有特許が多くあったため、起業する際にはそこが問題になった。起業当初は金銭的にも厳しく共有特許のまま、独占実施権で進めていく方法でスタートしたが、大企業と連携する際には自分たちが持っていないと弱い。100%の権利を持てば、会社価値が上がり投資家との株価の交渉材料にも使える。そこで、少ない資金力ながらも他社が保有する所有権のすべてを権利者から買い取り単独所有する努力をし、その中でも特に重要な約30の特許群を維持することになったという。
 
 事業がスタートしてからは、海外出願はどうするか、新しい技術を特許にするのか、秘匿するのか、など悩みつつ、毎年いくつかの新しい特許を出願するように知財戦略を進めているそうだ。
 
 権利を押さえるべきか。それは事業にとって有効なのか。事業分野や予算規模などによって知財戦略の進め方はさまざまだ。先輩起業家の特許戦略の事例を聞くことは、何よりの参考になる。ネットワークを広げることで、スタートアップに理解のある知財の専門家との出会いのきっかけになるかもしれない。特許庁では、今後も知財に関心のあるスタートアップや知財専門家向けのイベントを実施していく予定だ。最新情報は、スタートアップ知財コミュニティポータルサイト「IP BASE」でチェックしよう。
 
 
文● 松下典子

最終更新:5/7(火) 6:00
アスキー

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