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計画相次ぐ「国立大統合」、それぞれの事情

5/7(火) 16:10配信

ニュースイッチ

「1法人複数大学制度」を活用

 一つの国立大学法人を設立して複数の大学を経営する「1法人複数大学制度」(アンブレラ方式)を活用した経営統合の計画が次々と具体化してきた。トップバッターとして2020年度の実現を目指す名古屋大学・岐阜大学の動きが公になったのは、わずか1年前だ。これを可能にする法改正が、今国会中で議論中だ。分野を融合する医工連携で地元産業界を引きつける静岡、3単科大学で文理融合を図る北海道、工学人材の育成を模索する奈良と、各地域案件の状況を見る。

 04年度の国立大法人化は「大学の教育研究をだめにする」という現場の声が小さくなかったが、15年の月日は重い。運営費交付金の削減が続く中、改革を求める社会の声も受けて「反対一辺倒では乗り越えられない」ことを多くの関係者が実感するようになった。

 各大学が覚悟を決めて向き合うようになった転機は、「地域」「特色」「世界」の3類型から主な方向性を各大学が選択する制度の導入だ。

 86の国立大はもはや横並びではない。その方が自らの魅力を発揮できる―。地域の事情や規模、分野に合った教育・研究・社会貢献を、各大学が主体的に考えるという意識が浸透した。

 さらに政府は、切り詰めて緊縮財政に対応する大学“運営”ではなく、外部資金獲得などを組み合わせた“経営”という言葉で、次の改革を促す。その最もドラスチックなものが「統合」だ。

 大学の統合は一般に「地味だが地域を支えてきた中小規模大学が、大規模大学に飲み込まれる」との危惧が強い。しかし1法人複数大学制度ならば、各大学の自主性を保ちつつ合理化ができる。文部科学省は「大学のブランドや地域との関係、同窓会などを残しつつ、リソースを最大限に活用できる。

 現在、この方式での統合を表明しているのは4地域・グループの9大学。全国立大の1割だ。別の大学の追加参加を歓迎するグループも多い。文科省に在り方の見直しを求められている教員養成系の大学・学部など、気にならないはずがない。公私立大や研究開発法人などとの別の形式の議論もある。次の再編に向けた環境が整いつつある。

 一般社会の関心は「次の統合案件はどこか」に向きがちだが、大学改革は“統合ありき”ではない。統合という手段を使い、何をしたいのか。社会に意味ある存在として何ができるのか―。それが強く問われる。

<名大・岐阜大 「強み」と「特徴」相互補完>
 名古屋大学と岐阜大学は法人統合して東海国立大学機構を設立する。設立時期は法改正次第のため未定だが、2020年4月からの新入生受け入れを目指す。両大学の強みと特徴を生かして相互補完し、国際競争力強化と地域創生への貢献を目指す。強みに応じた研究拠点を形成して教育研究機能を強化、公的資金や外部資金の獲得増加につなげる。

 少子化社会では「縮小均衡で生き延びる発想は捨てる」(松尾清一名大総長)と判断、同機構の傘下に両大学が入るアンブレラ方式で統合する。中心となる同機構本部に両大学がぶら下がり、同機構経営協議会やアドバイザリーボード、同機構事務局がそれぞれ運営に関わる「マルチ・キャンパスシステム」を形成する。両大学の自律性を尊重しながらも、地域の国立大学間の壁を取り払う。

 国の教育予算が減り、大学のプレゼンスが落ちる中、高等教育機関が持続的に発展し、人類や社会に貢献するには現状のままでは厳しいという危機感を持つ。名大は世界との競争、岐阜大は地域貢献を目指す中で補完し合い、組織的、戦略的に目標に向かうことで地域産業発展に貢献する考え。

 名古屋と岐阜がある中京圏はモノづくり産業の集積地。航空宇宙や炭素繊維、農学などの研究を強化、産業構造の変革につなげる。航空工学では名大は設計やシミュレーションに強く、岐阜大は部品加工に強いため補完しやすい。農学では基礎分野中心の名大と全般教育が得意な岐阜大で補完する。

 英語教育や数理データサイエンス、専門領域をまたいだ研究、リベラルアーツなどへの対応には個別の大学のリソースでは限界がある。両大学の特徴を組み合わせて強化し、教育のやり方を変えて地域にも世界にも通用する人材を育成する。

 統合のシンボルとして両大学の研究の柱の一つである糖鎖研究の拠点「糖鎖生命コア研究拠点」を岐阜大学に20年に開設する。同機構の大型研究拠点の一つで、免疫など細胞間の相互作用に重要な役割を持つ糖鎖の機能解明などを目指す。

 名大と岐阜大では規模や体力差があり、岐阜大は名大に吸収されるのではという懸念があるが「強みを持ってとがらせるチャンス」(岐阜大森脇久隆学長)と意気込む。

 同機構に賛同するほかの大学があれば受け入れる方針。松尾清一名大総長は「新しい試みとして従来の大学のイメージを捨て、他大学が参考になる形を目指す」と強調、統合のプロトタイプとしての役割を果たす考え。

<静岡大・浜松医大 地方創生担う“知の拠点”に>
 静岡大学と浜松医科大学。静岡県内の二つの国立大学が大きな転換点を迎えた。両大学の国立大学法人を統合し、2021年4月をめどに「国立大学法人静岡国立大学機構」を設立。地方創生を担う“知の拠点”として社会課題の解決などに取り組む構えだ。

 「介護などの分野で地域貢献が可能になる」―。静岡大の石井潔学長は統合のメリットについてこのように語る。静岡大はこれまで、複数の学部にまたがるプログラム「地域創造学環」で中山間地域の地域創生などに取り組んできた。しかし今後は高齢化の中で、介護や医療過疎などの課題解決ニーズが高まると読む。「医学的知見が入ることで活動により厚みが出る」と期待を見せる。

 一方の浜松医科大は、教育での効果について言及した。「一般教養の修学内容が充実し、医師としてのコミュニケーション能力育成の体制がより充実するのでは」と今野弘之学長は語る。研究面でも「人文系の情報と医療を組み合わせることで、独創的研究や新分野開拓ができるのでは」と前向きだ。

 しかし統合に際しては壁もあった。静岡大では人文系学部を中心に懸念の声があり「(再編について)かなり詰めた議論をした」(石井学長)と明かす。今後も丁寧な説明を継続し、理解につなげるという。

 統合後初の入学者受け入れ予定は22年4月。「今はまだ、競争社会で戦うためのスタートラインにつくことができた段階」と今野学長。両大学の“二人三脚”はまだ始まったばかりだ。

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最終更新:5/7(火) 16:56
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