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鹿児島発 スタートアップが知財を活用する戦略とは

5/8(水) 6:00配信

アスキー

特許庁とアスキースタートアップが主催する「スタートアップ等のための知財戦略セミナー」が3月8日に鹿児島県で開催された。スタートアップ企業を中心にもっと知的財産権(知財)について知ってもらおうという趣旨のもと、多数の地元企業の人たちが参加。知財の話に耳を傾けていた。今回はその模様をお届けする。

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 特許庁とアスキースタートアップが主催する「スタートアップ等のための知財戦略セミナー」が2019年3月8日に鹿児島県でmark MEIZAN運営事務局共催のもと開催された。鹿児島市が運営するクリエイティブ産業創出拠点施設「mark MEIZAN」(マークメイザン)にて行なわれたセミナーは、スタートアップを中心にもっと知的財産権(知財)について知ってもらおうという趣旨のもと、多数の地元企業の人たちが参加。知財の話に耳を傾けていた。今回はその模様をお届けする。
 
知財はスタートアップにとって重要
 アスキー編集部のガチ鈴木進行で進められた当セミナーは、まず特許庁総務部企画調査課ベンチャー支援班の貝沼憲司氏がビデオ中継で特許庁のスタートアップ支援施策の紹介を行なった。
 
 特許庁では、2018年7月よりベンチャー支援班を発足。スタートアップに対する支援を強化している。これまでも中小企業支援の一部としてスタートアップも扱っていたが、スタートアップの場合は、信用もなければ設備もなく、従業員も少なく、資金もないという、中小企業とはまったく違う。スタートアップが持っているのは、破壊的な技術やアイデア、社長の熱意なので、そういったことはまさに知財にあたる。このため、ベンチャー支援班を作ってサポートすることにしたわけだ。
 
 知的財産権には特許権や実用新案権、意匠権、商標権、著作権などがあり、知的財産には、ブランドや営業秘密、ノウハウなどといった企業価値に関するものが含まれる。
 
 たとえばスマホの場合、特許権としては、スマホの筐体の加工や5G通信技術、アプリのサービス・UIなどといった発明に対して保護するもの。意匠権はデザインに対するもので、スマホの形状やスマホに記録された画像デザイン(ネットからダウンロードされるものも含まれるよう現在法改正中)などが挙げられる。
 
 もう1つ、商標権はブランドを保護するもので、スマホの名称、ブランド、アプリのサービスなどがそれにあたる。スタートアップにとって、まず考えなければならないものだ。「出願は早いもの勝ちなので、起ち上げの際、まずは確認だけでもしてほしい」(貝沼氏)と強く訴えた。
 
 日本のスタートアップは知財が重要だという認知度が非常に低く、アメリカと比べると特許の取得数が圧倒的に少ない。このため、特許庁は東京近郊だけでなく、こうした地方へも出張して知財の重要さを伝道しているのだ。
 
 スタートアップにとって知財が何に役立つかというと、まずは独占、つまり事業の差別化や模倣の防止だ。これはビジネスにとって非常に重要なことだが、貝沼氏は「覚えてほしいのが、連携のツールとして、信用のツールとして使えること」と語る。
 
 連携とは、最近は大手の企業がオープンイノベーションや事業提携などを行なっているが、必ず連携先の知財情報を確認している。そのときスタートアップ企業が知財を持っていないと、不安要素となりうまくいかないケースがある。知財を持っていることは重要な要素だ。
 
 一方で信用とは、資金調達やM&Aといった場合、第三者からの評価が非常に重要で、知財を持っていれば国からのお墨付きになるわけで、これをもとに交渉ができ資金調達につながるケースが多いという。
 
 貝沼氏は「ここで重要なのが、交渉でただ知財を持っていることを言うのではなく、知財がビジネスを進めていく上でどう役に立つのか、どう影響をもっているのかということをきちんと投資家へ説明できること。相手によって説明を変えることも大事なので、そのあたりの説明能力も身に付けてほしい」と語った。
 
 特許庁のサイトには事例集が用意されており、知財に対するスタートアップが取った行動が紹介されている。たとえば、知財を取らなかったばっかりに、競合他社に真似されてしまった経験から、サービスをローンチする際は必ず権利を取って参入障壁を築くようにした事例や、なんでも知財を取ればいいのではなく、特許情報はすべて公開されてしまうため、秘匿化するべきか否かをしっかり判断することが重要だという事例。さらに、競合他社の特許情報を調べることで、どういった技術開発をしているのか、どういった方向へ進んでいくのかがわかる。また、自社の特許状況を含めパテントマップを作ることで、進むべき道を見出す事例などがある。
 
 スタートアップにおける知財の課題は、専門家に相談してたくてもどこへ行けばいいのかわからないという話をよく聞く。特に地方の場合は専門家も少ないので東京へ行かなければならないといったこともある。知財を扱う弁理士に頼むとき、その分野の専門知識がないとなかなか難しいため、このあたりの人材については、特許庁としても課題として認識しているそうだ。
 
 特許庁が現在持っているプログラムとしては5つあり、まずは情報提供として先述の事例のような知財コンテンツを揃えていること。特に弁理士や弁護士とどう連携していくのかの事例もあるのでぜひ目を通してほしい。2つ目は、超早い特許審査。通常14ヵ月かかるところを「スーパー早期審査」だと2.5ヵ月で権利化できる。また、「面接活用早期審査」は、審査官と面接して審査しするため、ビジネスの方向性があっているか確認しながら進められるので、オススメだ。
 
 3つ目に知財戦略としてIPAS(IP Acceleration program for Startups)を用意している。これはビジネス側と知財側それぞれの専門家を派遣して、3ヵ月間のメンタリングを受けて成果を上げるプログラムで、今年度は10社が選ばれている。4つ目は海外展開のサポート。JIP(ジェトロ・イノベーション・プログラム)に委託しているプログラムで、海外の展示会やピッチイベントに参加してもらうのが目的。現地の企業と連携して海外展開を目指してもらう。5つ目は料金減免で、手数料が最大3分の1程度になる。4月からは手続きも簡素化されることで、かなり楽になるはずだ。
 
 特許庁のサイトでは、会員登録すると、プログラムなど情報をメールマガジンとして配信するので、ぜひ登録してほしい。また、将来的には弁理士を検索できる機能も作っていきたいとしている。
 
実際の企業の知財に関する実態があきらかに
 続いて、引き続き特許庁の貝沼氏と明倫国際法律事務所代表の弁護士、田中雅敏氏が企業の知財に関する悩みに応えるパネルディスカッションを行なった。
 
 まず、最初に質問したのは株式会社シナプス プラットフォームビジネス部 ICT企画課 課長 出口顕哉氏。シナプスは鹿児島でインタネットプロバイダー事業を中心に、通信サービス業や今回の会場となる「mark MEIZAN」の運営なども行なっている。出口氏は、プロバイダー以外の新しい事業やサービスの企画・開発を行なっていて、今後新サービスのローンチにあたって知財の取得を考えている。
 
出口氏(以下、敬称略):会社名を始めサービス名は商標を取得しているのですが、実は取得するルールが明確ではなく、アイデアレベルだと取得せず、先進的なものであれば先に申請するといった程度なんです。
 
田中氏(以下、敬称略):スタートアップ支援をやっていると、商標を出していない企業が多く、会社名やサービス名はもちろん、カタカナ表記やローマ字表記まで出しているのか、出すにしてもバラバラなのかセットなのかといったことが、先々影響してきます。シナプスのようなキャッチな名称だと、すでに取られているケースが多いため、事業展開する段階で気がつくと、そこから名称を変更したりしなければならず面倒になります。軌道に乗った時点で権利行使されるというケースもあるので注意が必要です。
 
出口:会社名を始めサービス名は商標を取得しているのですが、実は取得するルールが明確ではなく、アイデアレベルだと取得せず、先進的なものであれば先に申請するといった程度なんです。
 
田中:会社名は早めに出すべきですね。個々のサービス名は、費用対効果を考えなければなりませんが、本来ならサービス開始を知らせる前に取るべきです。しかし当たるかどうかはわからない時点でお金をかけるべきか悩むでしょう。その場合は、動き出したあとにお金が入りだしたタイミングでぜひ考えてほしいですね。まずは特許庁のサイトで商標調査ができるので、名称を考えた時点で調べて取られていないことを確認することをオススメします。
 
貝沼氏(以下、敬称略):何を守るのか、何の目的として商標取るのかを考えてください。サービス名の場合はすぐに変えられるのであれば、商標を取られても変えればすみます。ただブランドや信用をサービス名に盛り込みたいのであれば、取るか否かという基準を会社内でしっかりと設けるべきです。
 
出口:商標には有効期限で更新していかなければならないですが、通知は来るんですか?
 
田中:弁理士さんにお願いしていれば、切れるころに連絡がありますが、そうでなければ自分で管理しなければならないですね。
 
出口:自分で管理していると、担当が変わったときに引き継ぎで忘れるということもあるので弁理士に頼むべきなんでしょうね。
 
ガチ鈴木:ロゴを商標として登録するときの注意点はありますか。
 
田中:基本的には、ロゴと名称両方をセットで取ることが推奨されます。ただ実際には、ロゴだけ真似されて名称がまったく違う場合、セットで取ってしまうと非類似として権利行使できないこともある。このため、バラバラで取っておくことで、権利行使が可能になります。もちろん、複数取ることでその分お金はかかりますが、商標やブランドを守ることができます。海外展開を考えているなら、日本語表記だけでなくローマ字などの海外に合わせた表記も考えておくべきです。
 
出口:いまウェブサービスを計画中で、商標は取得するのですが、アプリやUIの特許を取るべきなのか、どうすればよいのでしょう。
 
田中:特許はアイデアなので取れるものは十分にあると思います。特に明らかに目で見てわかるものは特許を取るべきです。著作権はありますが、著作権は同じフローチャートで同じ機能でも別の人がコーディングしたら、著作権侵害にはあたりません。『いきなりステーキ』の例で言うと、グラムで注文すると何番の人が何グラムで注文したことを把握して、それを厨房に表示し、ラベルが出てきてそのとおり焼いて提供するということを特許として取っています。どこが特許なのかと思うかもしれませんが、こんなのでも取れるんです。特にIoTのような新しい技術はいろんな特許が出しやすいんです。トライしてみることが重要です。
 
 続いて質問したのは、株式会社現場サポートの事業推進室 室長 吉田竜二氏。創業から14年経っていてスタートアップとは言えないが、ITの会社で建設業に特化したソフトウェアを提供している。現在はSaaSのシステムを中心に手がけている。吉田氏は企画系のプロダクトマネージャーとして活躍している。
 
吉田氏(以下、敬称略):知財に関しては数年に1度新しいサービスを立ち上げるとき商標を取れるかは考えています。でも、やっていることといえばそこまでで、新しいアイデアを特許で守ることは、作って売ることに集中していて考えられていません。今回聞きたいのはWebのシステムなのでほかとどうしても似てきてしまう。自分たちのアイデアを守るより、逆に侵害しているのではと心配で、サービスが軌道に乗った段階で権利行使されてポシャるほうが怖いですね。どういった防衛をすべきか、気をつけるべき点を知りたいです。
 
田中:特許も商標もそうですが、真似する気ではないのに誰かの権利を踏んでしまうことはよくあります。できればパテントマップを作って、自社のサービスにかぶりそうな技術をスクリーニングして、分析し勝負点を決めるのが一つの手です。知財活用の専門家支援があるので、相談すれば作ってもらえます。あとは特許を出願される前から使っている証拠があれば、仮に踏んでも使えることになっています。ただ、立証するのは難しいので、開発経緯を公証役場に行って確定日付を取り、この時点でこういうことをしていたという証拠を残すといいかもしれません。
 
吉田:ウェブの表現は似たり寄ったりで、どこまで確認して作るべきなのでしょうか。
 
田中:UIの場合、まったく同じでなければ侵害とは言われにくいので、そこまでセンシティブになる必要はないと思います。ただ、アイコンとかキャラクターが同じとか、個々のデザインで似たようなものがないかという点は気をつけるべきですね。
 
貝沼:やはり特許取れるものであれば出願することが大事。取れればその分野については侵害することはありません。また、特許のクレームを見ることである程度回避できる分野はあるはずなので、弁理士などと相談することをオススメします。
 
吉田:そうすると、企画段階で弁理士さんと相談して気になるところは抑えておいたほうがリスクを低減できると。
 
貝沼:その分野にくわしい弁理士さんなら、すでに権利化されているものが多いから外すべきというような助言ができるので、そういった意見も聞きながら特許を取るか否かは最終的に会社の判断になります。
 
吉田:特許を見てみると、当たり前のようなことまで取られていることがあります。実際そういったことで突っつかれることはあるのでしょうか?
 
田中:特許に関しては売れたら突っつかれます。商標の場合はブランドを毀損されるので、売れようが売れまいが権利行使される場合があります。家電業界ではお互い権利を踏み合っていて権利行使できない状態なんですが、新規参入してきたところには集中攻撃します。なのでしっかり権利を取っていくことは、そういう意味での防衛策にもつながります。
 
貝沼:新しい分野の特許は、誰が考えてもこうなるのではというものが多いですね。審査官も新しい分野は文献が少ないので、当たり前だと思うことでも証拠がないので拒絶ができません。進歩性がないとして誰でも容易に発明できるということで拒絶するのも難しい。
 
田中:いまクラウドによりデータの価値は大きいと言われていますが、データそのものは著作権の対象になりません。不正競争防止法があるので営業機密として守ることはできますが、AIやビッグデータなどのデータ活用という分野に足を踏み入れるときは、権利で守られていないので契約のスキームをどうするかしっかりビジネスモデルを構築したほうがいいと思います。
 
貝沼:特許も非常にいろんなところが権利になってきていて、最近だとアプリを使ってスマホとサーバーとのやり取りの情報交換も権利になっているのをよくみます。どんなものでも権利になるケースがあるということは覚えていておいてほしいですね。弁理士さんに相談するときも、人によっては特許取れるか否かの判断が分かれるときがあります。1人の意見だけでなくセカンドオピニオンを聞きながら判断してほしいと思います。
 
 特許なり商標なりを取得するには、やはりその分野に長けた弁理士に相談して判断することが大切である。どこまで取るのかという線引きは、費用対効果を踏まえて会社としてしっかりと考えておく必要があり、スタートアップだけでなく企業にとって知財が重要な役割を果たしていることがわかったセミナーだった。地方で専門的な弁理士さんを探すのは大変かもしれないが、「九州なら口コミでも結構いけるはずなので、まずは聞いてみることが重要」(田中氏)というように、まだいい弁理士さんと巡り合っていないなら、とにかく知り合いや相談窓口で聞いてみることから始めるのがよさそうだ。
 
 
文● 飯島範久

最終更新:5/8(水) 6:00
アスキー

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