ここから本文です

認知されにくい読み書き障害 UDフォントを使うと 

5/11(土) 10:00配信

産経新聞

 「ディスレクシア」という言葉をご存じだろうか。文字の読み書きに困難を伴う学習障害の一種で、米映画監督のスティーブン・スピルバーグ氏も自身がディスレクシアであると公表している。徐々に認知されつつあるとはいえ、見た目では普通と変わらないため認知されにくく、支援体制の確立が急がれている。そこで注目されているのが、弱視者やディスレクシアでも読みやすいとされる書体「ユニバーサルデザイン(UD)フォント」だ。明朝体やゴシック体など通常の書体と何が違うのか。今年度、全国に先駆けてUDフォントが導入された奈良県の教育現場をのぞいた。(石橋明日佳)

【写真で見る】明朝体で書かれた配布プリントとUDフォントで書かれた配布プリント

■ハリウッド俳優も

 ディスレクシアは読字障害とも呼ばれ、文字がゆがむ▽文字が反転して見える▽文字と発音が一致しない-などさまざまな症状がある。現在のところ、医学的な治療法は確立されておらず、個人に合わせた学習支援が効果的とされる。

 ディスレクシアの啓発や支援を行うNPO法人「エッジ」(東京都港区)によると、英語圏に多く、米国では全人口の10~15%、日本では5~8%と報告されている。スピルバーグ監督のほか、ハリウッド俳優のトム・クルーズやジム・キャリーも公表しており、その存在が徐々に浸透しつつある。

 エッジの藤堂栄子会長は「近年、英語圏では身近な存在になり、支援の種類も格段に増えているが、日本では認知が進んでいないのが現状。潜在的に多くのディスレクシアがいることを知ってほしい」と話す。

■線の太さを均一に

 日本で支援が進まないのはどうしてか。藤堂会長は「『発見の遅れ』が挙げられる」と指摘する。音が1つに限定される日本語と違い、アルファベットは単語によって音が多様に変化するため、文字と音を結びつけて理解するのが難しい。英語圏でディスレクシアの発症が表面化しやすい大きな理由だ。

 藤堂会長は「小学校高学年から中学にかけて英語を学んだときに、初めてディスレクシアだと分かる子供が多い。だが、教師や保護者から『努力が足りない』と片付けられることが少なくない」と話す。

 藤堂会長によると、「読みにくさ」は書体によって左右され、わずかな変化で劇的に改善されるケースがあるという。そこで考案されたのがUDフォントだ。奈良県教委と同県生駒市が今年度導入したUDフォントは、印刷媒体向けデジタル文字フォント(書体)を製作するモリサワ(大阪市浪速区)が考案した。

 UDフォントは、明朝体やゴシック体などの一般的な書体と比べ、文字そのものの形を認識しやすい。たとえば明朝体では「とめ」「はね」「はらい」が表現され、線の太さが均一ではないが、UDフォントではそれが一定の太さに保たれている。また、濁点や半濁点を大きくする工夫が施され、より手書きに近いのが特徴だ。さらにアルファベットでは「bとd」「pとq」など鏡文字になりやすいものを、左右非対称の形状にしているという。

 同社の担当者は「誰もが読みやすい書体を模索して作成した。今後、情報通信技術(ICT)を活用した教育が進む中、ニーズを実感している」と話す。

■正答率66%→81%に上昇

 奈良県教委では今年度、県立学校教員に貸与しているパソコン約2700台をアップデート。43種類ものUDフォントが使えるようになった。今後はテスト問題や授業の資料、保護者に配布するプリントなどが新たな書体で作成される。

 奈良県立教育研究所研究開発部の小崎誠二ICT教育係長は「正確で分かりやすい資料を作成すれば、結果的には学力向上にもつながるのではないか」と期待する。

 生駒市教委は今年2月、小学生116人を対象にUDフォントを使った実験を実施。文章を読んで正誤を判断する問題を、UDフォントと一般的な教科書体で36問ずつ解いてもらったところ、教科書体で66%だった正答率は、UDフォントでは81%に跳ね上がった。

 「読みやすかった」「わかりやすかった」と生徒にも好評だったといい、市教委の担当者は「フォントを変えるだけで効果が得られるとは驚いた。学習障害がある子供だけでなく、すべての子供たちが集中して取り組み、学習意欲が向上するきっかけになれば」と期待を寄せる。

 生駒市では、UDフォントを導入するかどうかは各学校の裁量に委ねられているが、市立生駒小学校の松本和也教頭は「学習をする以前に、『読めない』という壁を書体によって改善できるのであれば、価値があると思った」と導入を決めた理由を明かす。今後は保護者向けのプリントからUDフォントを使い始め、ゆくゆくは学習教材にも取り入れていく方針だ。

最終更新:5/11(土) 10:00
産経新聞

こんな記事も読まれています

あなたにおすすめの記事