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肉じゃが、みそ汁……嗚呼、思い出す「おふくろの味」! 東京の下町人情描く『しあわせのひなた食堂』

5/13(月) 7:00配信

アーバン ライフ メトロ

家族で食卓を囲むことが当たり前ではなくなった

 仕事や学校が終わって家に帰ると、あったかくていい匂いがするご飯があって、家族みんなでそれを食べる。今日あったことをそれぞれしゃべったり、テレビを見たり、その場面はそれぞれの家庭によって違いますが、この「晩ごはんの風景」はきっと少し昔はどこにでもあった幸せな時間だったのだと思います。

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 そんなどこにでもあったはずの幸せな時間ですが、最近はあまり見られなくなったと聞きます。ごはんは家族別々にひとりで食べる。それが当たり前の時代になってきているようです。

 そんな今の時代に、「ごはんを食べること」を中心とした幸せを描き続ける一人の漫画家います。彼の漫画は多くの人に求められいくつもの雑誌などで連載されています。

 その漫画家の名前は魚乃目三太(うおのめ・さんた)。名前は知らなくても絵を見れば「あっ? 知ってる」という方は多いのではないでしょうか。

『戦争めし』(秋田書店)、『車窓のグルメ』(日本文芸社)、『しあわせゴハン』(集英社)などなど本当に多くの人気作があるのですが、今回はその中で2015年~2016年に女性週刊誌「女性セブン」で連載された『しあわせのひなた食堂』(小学館)をご紹介したいと思います。

 物語の舞台となるのは、東京下町の曳船(ひきふね。墨田区東向島付近の通称地域名)にある小さな食堂「ひなた食堂」。

 メニューは日替わりの定食のみという少し変わったお店です。このお店の日替わり定食は、5歳の長男と1歳の赤ちゃんの面倒を見ながらお店に立つ照子さんが毎日作る「どこにでもあったはずの家庭料理」なのです。

 しょうが焼き、肉じゃが、みそ汁、カレーライス、たけのこごはん、お好み焼き……。
 ひなた食堂に来るお客さんはそんな日替わり定食を食べてお腹と心を満たされてみんなほんの少しだけ心を救われて普段の生活に帰っていきます。

「ひなた食堂」が教えてくれること

 あるとき、小さな娘を連れたお母さんがひなた食堂に来店しました。

「お母さん! このおみそ汁おいしいね」。娘がとてもおいしそうにみそ汁を食べる姿を見たお母さんはその様子を気にしていました。

 後日、そのお母さんが一人でひなた食堂に来て思いつめたように料理を作る照子さんにこう言うのです。

「みそ汁の作り方を教えていただけませんか!」

 お母さんは自分の両親が共働きで、母の手料理というのをほとんど食べたことが無く、「おふくろの味」というものが自分には作れていないことで悩んでいました。

 そこで娘がおいしいと言っていたひなた食堂のみそ汁の作り方を教わりたいとい店に来たのです。

 その申し出に、照子さんは快くみそ汁の作り方をお母さんに教えてあげます。煮干の出汁のとり方から丁寧に、そして最後に子どもが食べやすくなるようにレンコンを擦って入れる隠し味まで。これがひなた食堂のおふくろの味の秘訣でした。

 その翌日、早速おうちで娘にひなた食堂で習ったみそ汁を作るお母さん。そのみそ汁を食べた娘の反応は、思っていたものとは真逆のものでした……。娘は「いつものみそ汁がいいの!」と味が違うことに怒り出してしまったのです。

 実は小さいころに甘いものが大好きだった娘のために、お母さんはみそ汁にみりんを少し入れるようにしていました。これが娘さんにとってはおうちのみそ汁、「おふくろの味」になっていたのです。

 お母さんは自分では気づいていなかったのですが、実は彼女の作るみそ汁は娘にとってちゃんとおふくろの味になっていたのです。

新時代に入った今こそ懐かしさあふれる作品を

 私も子どものころ竜田揚げの揚げ方が大好きで、「うちの母親が作るから、揚げはいつも竜田揚げの揚げ方だったなぁ」と、から揚げを食べるたびにおふくろの味を思い出します。

 家庭料理は食べる家族が喜んでくれるように、お母さんが考えて作った料理です。子どものことを誰よりもよく知っている母親だからこそできる、子どものための最高の料理が、実はおふくろの味なんだと、このエピソードは教えてくれるのです。

 新年号「令和」元年の今だからこそ、懐かしさあふれる作品に触れてみるのはいかがでしょうか。懐かしさとあたたかさは、きっとあなたを少しだけホッとさせてくれると思います。

マロン正紀(漫画評論家、書店員)

最終更新:5/13(月) 7:00
アーバン ライフ メトロ

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