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大城立裕「カクテル・パーティー」 日米親善の欺まんを暴く【あの名作その時代シリーズ】

5/17(金) 18:00配信 有料

西日本新聞

フェンスと鉄条網に守られた米軍住宅。広々とした芝生に並ぶ一戸建て住宅は老朽化し無人のものも多い=沖縄県宜野湾市

 「あの名作その時代」は、九州を舞台とした作品、または九州人が書いた著作で、次代に残すべき100冊を選び、著者像や時代背景、今日的な意味を考えながら紹介するシリーズです。西日本新聞で「九州の100冊」(2006~08年)として連載したもので、この記事は06年6月18日付のものです。

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 オオグスクからオオシロへ。「大和的」な読み方で呼ばれだしたのは、中学校に上がった昭和十三年前後のころだったろうか。「日本人らしくなれ」。学校の先生は、そう教育する一方で、「沖縄の言葉を忘れるな」と説いた。

 戦前、沖縄県最後の県費留学生として、中国・上海にあった東亜同文書院に学んだ。「日中の架け橋」になるはずだった。

 在学中、日本軍に服務したことがある。現地の農民から食糧を調達する「軍米収売」という現場で警備に就いた。銃剣を持って農家に入り、泣いて訴える農民からなけなしの食糧を巻き上げる兵隊たち。五族協和。八紘(はつこう)一宇…。美名の陰の現実を見た。

 終戦の報には開放感を感じた。敗戦の悔しさはなかった。

 終戦後間もなく、上海の映画館に行った。上映前、国民党(当時)の党歌がかかり、中国人の観客が全員起立して合唱した。その途端、全く突然に涙があふれ出した。

 自分は一体、何者なのか。

 常にアイデンティティーが揺れていた。

   ■   ■

 ―主人公の「私」は、米軍基地内でのパーティーに招かれる。本土復帰前の沖縄。基地に出入りできる特権的な沖縄人として「選ばれた楽しみを感じる私」。まさにその時間、事件が起きていた。娘が米軍人の男にレイプされるが、男に大けがを負わせ逆に逮捕されてしまう。

 アメリカと日本。日本と沖縄。戦勝国と、占領軍と、被占領民と…。個人のレベルをはるかに越えた重層の狭間(はざま)で、男を告訴しようと奔走する主人公は、自分が本当は何を告発しようとしているのかを意識する。

 物語は後半、突如、語り手が変わる。「娘はなんのためにお前の二十年前の罪をあがなって…」「お前は息をつめて、娘の全身の形をみつめ…」

 二人称の「お前」の発する言葉が、突き刺すように読者に放たれる。

   ■   ■

 「七、八年越しの作品だった」と大城立裕氏はいう。

 「米軍政下で虐げられる沖縄。頭の中に漠としたイメージはあったけど、そんな単純な、センチメンタルなテーマでは小説にならない、と思ったんです」「向こうから問い掛けられたらどうしようか。『お前たちだって中国でレイプしたじゃないか』と。主人公に『過去』を背負わせ、その『過去』とどう向き合うか。そのテーマがひらめいたことで、単純な抵抗文学にならずにすんだんです」 本文:2,266文字 写真:1枚

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西日本新聞

最終更新:5/17(金) 18:00
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