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『チコちゃんに叱られる!』キョエが歌う「大好きって意味だよ」は現代のマウント合戦に一石を投じている

5/17(金) 20:45配信

エキサイトミュージック

「ボーっと生きてんじゃねーよ!」。2018年の流行語大賞(ユーキャン新語・流行語大賞)にもノミネートされた、この啖呵(たんか)をあなたも一度は誰かに向けて切ったことがあるのではないだろうか? 私は何度もある。ただし口には出せず、心の中だけであったが……。

この流行語の発信源こそ、NHK総合テレビで放送中のバラエティ番組『チコちゃんに叱られる!』の決めゼリフ。最新技術で誕生したバーチャルでリアルなMC少女チコちゃん(5歳)が問いかける素朴な疑問を、各回違ったゲスト陣が回答するも、不正解の際に烈火のごとく激怒したチコちゃんからこの言葉で一蹴されてしまう。しかし、不思議と毎度この叱咤の登場をみんな心待ちにしていたりもする(笑)。

『チコちゃんに叱られる!』魅力は“素朴な疑問”を徹底追及
『チコちゃんに叱られる!』は、いまやお年寄りから子どもまで老若男女に人気を博す国民的人気バラエティ番組。2017年に特番的なパイロットにてスタートしつつ好評を博し、2018年春からは毎週レギュラー放送化。毎回高い視聴率を誇っているNHKの看板番組のひとつだ。

チコちゃんや回答陣のキャラクターと、「なるほど」とかゆいところに手が届く、日常の当たり前の風景の中に溶け込んでいた素朴な起源を解き明かしてくれる明解さが魅力の同番組。その高い人気の秘密は内容もさることながら、そのチコちゃんの仕草や佇まいだったりもする。5歳児らしからぬ知識や切り返し、言動や応答をしつつ、時折、年齢相応の仕草や愛くるしさ、純さが使い分けられ、それが視聴者たちの心をくすぐっている。

いまや『チコちゃんに叱られる!』は、大人から子どもまで幅広い人気を博し、毎度概ね2桁の視聴率を誇るなど、クイズ番組としてはある種驚異的な数値をたたき出している。作品性や芸術性としても評価は高く、冒頭の流行語大賞のノミネートならず、2018年7月度ギャラクシー賞 月間賞、2018年度CGWORLD AWARDS大賞、2019年文化庁メディア芸術祭 エンターテインメント部門 大賞など、数々の賞も受賞してきた。

槇原敬之&本間昭光の強力タッグで「キョエ」がCDデビュー

そんな同番組の末頃に、毎回ちょっとほっこりするコーナーがある。視聴者からのお便りを紹介するコーナー「ひだまりの縁側で…」だ。毎回全国の“自称5歳”から送られてくる番組の感想や素朴な疑問を、チコちゃんとレギュラー回答者の岡村隆史(ナインティナイン)が答えるものなのだが、その際に物干し竿に止まっている一羽の黒い鳥がいる。視聴者からの手紙をくわえた、通称「江戸川の黒い鳥」ことキョエだ。手紙を受け取る岡村に放たれる「バカー!」が口癖で、当初こそ、この「バカー!」のみだったが、回を重ねる毎に多くの言葉を喋ったり、歌も歌えるようになっており、人気も上昇。ついには2019年4・5月放送の「みんなのうた」においては、このキョエが歌う『大好きって意味だよ』も放送された。

『大好きって意味だよ』は、作詞と作曲を槇原敬之が担い、編曲を著名/大物ミュージシャンの楽曲などで人気の高い本間昭光によりアレンジされたもの。そんな同曲が5月22日にCDリリースされる。このCD『大好きって意味だよ』は2タイプ、4バージョンを収録。タイプはフルと「みんなのうた」サイズ、そしてそれぞれのカラオケが入ったもの。

槇原の作る楽曲と、キョエの物干し竿の上から心の内面まで全て見通しているかのような鳥瞰(ちょうかん)性に親近感を抱かせる同シングル。この曲で注目したいのが、槇原独特の鳥瞰性を持った歌詞と三拍子を基調とした素朴でノスタルジック性を擁したメロディ、対して本間の名から想起されるワークスとはまた違った素朴さや牧歌性だったりする。

「鳥瞰」とは字のごとく鳥から見た全体像。俯瞰ほど上空でもなく、いわば鳥が電線の上に留まりこちらを見ているような類のことだ。しかし、その鳥の目はなんでもお見通し。表面だけでなく、心の中までも見透かされているような気になる。そして、まさしく同楽曲のリリックも鳥瞰を大いに感じさせるもの。恐らく、チコちゃんぐらいの年齢を映る主人公に想定しているのだろう。その子どもながらの意固地や本心、そして曲が進むにつれて、誰もが身に覚えのある真理が聴く者をピュア化させていく。三拍子で繰り返されるシンプルな、あえてあまり高低差を付けない音程の上、彼独特の安堵感やアットホームさを感じさせる鳥瞰性のリリックが心をほころばせてくれる。

続いて本間のアレンジに移ろう。あえて優しく柔らかくダイレクトに伝わってくるそのサウンドアレンジが施されている今作。ドラマティックな展開やストリングス等での生命力や溢れる力強い音のダイナミズムさが印象にある従来の彼のアレンジに対して、同曲ではあえてスッと流れる展開、アコースティックギターや鍵盤の音色を主に、ストリングスをはじめフルート類の木管楽器、多彩な楽器群もあえて歌に淡い色を添える感じの、まさに“贅沢な楽器の使い方”のアレンジが光る。

そして忘れてはならないのが、同曲を歌うキョエ本人だ。あの得体の知れなく、かつ何を考えているのかわからないキャラクターが歌うからこそ、その歌内容にも現れている表には出さない本心が歌われているようで、さらに信憑性や親近感を沸かせてくれるから不思議だ。聴き終えるとほっこりとした気持ちになり、素直で優しい気持ちになるとともに、いつもは少し憎らしく映る、あの黒い鳥が何となく愛しくなってくる。

「ボーっと生きてんじゃねーよ!」や「バカー!」とついつい言いたくなることが蔓延している今日この頃。そんなとき、この歌を聴き、見方を変えてみると、これらの言葉からも、どことなくの優しさや愛情、叱咤や鼓舞とも思えなくもない。この歌のような気の持ちようなら、きっと世の中をもっと住みやすく、過ごしやすいに違いない…と、昨今過剰になっている言論のマウントの取り合いをちょっと嘆いてしまった。

■キョエ=プロフィール
『チコちゃんに叱られる!』で番組宛ての手紙を届ける「江戸川の黒い鳥」、たぶんカラス。

文/池田スカオ和宏

ikeda

最終更新:5/17(金) 20:45
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