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作詞家・富野由悠季が語る“アニソン”の価値基準の変化

5/18(土) 8:40配信

オリコン

■高いハードルを突破しなければ「作詞した」とか「曲を作った」と言えない

――当時のアニメ楽曲は、必殺技とタイトル名コールというお決まりが多い中で、富野監督は主人公の内面描写、楽曲に作品の意図を込めるということを作詞でやられたかと思います。

【富野由悠季】それも大事なんだけど、実はそれだけでは井上大輔のようなポジションにいる人は、曲を書くというところまでいかなかったのではないかと思います。つまり、アニメという枠を外してヒットする曲を作りたかったんです。それがプロの仕事というものですから。

――『ガンダム』という“人気アニメの枠”がなくても、単体でヒットする楽曲をおふたりは目指していたわけですね。

【富野由悠季】ただ、結局は『ガンダム』という名前に閉じ込められてしまうあたり、僕の方の詞の出し方に問題がありました。劇伴としてはいいんだけど、アニメ好き以外の、いわゆる一般的に大ヒットする曲にならなかったので、「ごめんなさい」と言うしかないんです。

――とはいえ、「哀戦士」「めぐりあい」は当時のヒットチャートで上位にランクインするヒット作となりました。

【富野由悠季】そうではなくて、ヒットというのは「昭和のヒット曲100選」に入ってなければいけないんです。確かに、キャリアが長かったから作詞家としてもそれなりに見えます。けれど、『エヴァンゲリオン』や『宇宙戦艦ヤマト』のような楽曲のヒットに比べて、『ガンダム』はその規模のヒットが出ていない、と言われれば「御説ごもっとも」だとなるわけです。職業人である以上、高いハードルを突破しなければ、作詞したとか曲を作ったとか言えません。

――おっしゃる通り、『エヴァ』のOP曲「残酷な天使のテーゼ」をはじめ、アニメソングには一般層にも認知されたヒット曲が数多くあります。しかし、劇場版ガンダムにおける「哀戦士」「めぐりあい」「ビギニング」、そして『ターンエーガンダム』の「月の繭」など、“シーンを見れば誰もが頭に思い浮かべる楽曲”を生み出した点において、井荻麟作詞による楽曲のインパクトは絶大です。

【富野由悠季】その価値論を評価していただけるの嬉しいし、まず基本はそこを目指して仕事をしているからいいんです。いいんですけど、曲として単独でヒットさせるべきだと思っています。「ユーミンに負けているよね」では基準にならない。だから、「作詞をやってました」とは言いづらい。「いやいや、そこと比べたってしょうがないでしょ」という声もあると思います。でもそうじゃないんです。自分が求めるアベレージを高くしておかないと、「結局半分もいきませんでした」となった時に全然ダメなわけですからね。

――これまで富野監督と言えば、時代時代のヒット作に対して勝負を挑むような発言をされてきました。時にはそれが宮崎駿監督作品であったり、『エヴァンゲリオン』だったり。それはつまり、時代のヒット作を「仮想敵」とし、その上を狙うことで自身の作品のアベレージを上げようとしていたのでしょうか。

【富野由悠季】はじめから「この程度でいいだろう」という目標では、その上に行くことなんて到底無理だということなんです。だから、いまだにヒット曲を出せなかったとか、作詞家として阿久悠さんに負けたというのは、分かりやすい基準だと思います。そうした意識を持っていないと、周りに「売れましたね」と言われて悦に入るだけなんです。つまり「俺、井荻麟なんだよね、何で知らないの」っていう話になってしまう。僕は、それだけは口が曲がっても言いたくないですね。

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最終更新:5/20(月) 18:25
オリコン

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