ここから本文です

あの、妙ちきりんなヒーロー集団にまつわるトリビアを網羅!―マーク・スメラク『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー/コンプリート・ヒストリー』柳下 毅一郎による書評

5/19(日) 12:00配信

ALL REVIEWS

◆あの、妙ちきりんなヒーロー集団にまつわるトリビアを網羅!

◇いかにジェームズ・ガンが原作の知られざるエピソードを拾いあげて物語を作ってきたのかがわかる

アメコミの歴史は長く複雑だ。『バットマン』や『スーパーマン』になると80年の歴史を持つ。といっても、もちろんバットマンが80歳なのではない。アメリカ人のなにやら不思議なこだわりのせいで、漫画のなかで時間は経過するが時はたたないという不思議な現象が起こるアメコミ世界は、そのつじつま合わせのために何度も時空間を変更して、いちから物語をやりなおすことをくりかえしている。DCコミックスの場合、1961年にMultiverse (多元宇宙)の導入で矛盾する時代とキャラクターを整理する試みがおこなわれたが、1985年にはCrisisシリーズですべての多重世界が統一され、ひとつだけの世界、ひとつだけの歴史が残される。これで完結と思いきや、またぞろ多重世界設定がもちこまれはじめ、面倒になったのか2011年にFlashpointが起こってすべてがご破算になり、2011年からはNew 52という新シリーズがはじまる。ところが、わずか5年後の2016年にはRebirthでまた世界を巻き戻していちからやりなおすことになった。わずか5年での巻き戻しということで、前の(New 52の)世界と新しい(Rebirthの)世界が同時に存在して交流していたりして、いちいち面倒くさいことおびただしい。単純にしようとすればするほど面倒くさくなっていく、まさに泥沼の様相。

さてそんな具合にいろいろ複雑な歴史があるので、アメコミキャラクターの歴史を語るのはいろいろ面倒なのである。バットマンほどの長寿キャラクターじゃなくとも、いろいろ面倒なことはある。DCコミックスよりも比較的単純で整理されているマーベルでもやっぱりそうなのである。だからこそ、映画化などでキャラクターに注目が集まるたびに出版される『コンプリート・ヒストリー』ものは、そういう意味で大いに重要なのである。

『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー:リミックス』の公開に合わせて出版されたのがそうした本のひとつ『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー/コンプリート・ヒストリー』である。これは1969年の初登場から2016年の最新情報まで、「ガーディアンズ~」にまつわるすべての情報をまとめた、いわば“ガーディアンズ大辞典”である。これを読めば、この妙ちきりんなヒーロー集団にまつわるすべてのトリヴィアが頭に入るというわけだ。

そもそものはじめ「ガーディアンズ~」は「ガーディアンズ~」ではなかった。それはもともと遠未来、宇宙の独裁者によって自分の星を破壊され、種族最後の生き残りとなった4人が復讐のために結成したヒーロー・チームだったのである。そこから現メンバーになり、さらにそこからメンバーを変え……。

「ガーディアンズ~」の歴史は忘却との戦いの歴史だ。派手なメンバーを求めて四苦八苦し、お笑いとシリアスのバランスを求めて苦悩する。過去にはあっと驚くメンバーもいた。アンジェラが「ガーディアンズ~」だったことがあるとは知らなかった。かつて『スポーン』に出てきた殺戮の天使である。

『スポーン』をめぐる著作権的ないざこざの結果としてイメージ・コミックを離れてマーベル宇宙に属することになったキャラクターが、なぜかガモーラと肩を並べて戦うことになっていたのを知る人は少ないだろう。あるいは『X-MEN』きっての人気メンバーだったシャドウキャット(キティ・プライド)が、いつの間にかテコ入れのためにメンバーに加入していたり。なおキティはいつしかスター・ロード(ピーター・クイル)と婚約して、映画のヒットの勢いは恐ろしいものだと思わせてくれたりもしたものだった(どうなったのかと思っていたのだが、結局結婚しないまま別れてしまったらしい)。

メンバーの変遷っぷりを見ていると、いかにジェームズ・ガンが原作の知られざるエピソードをひろいあげて物語を作ってきたのかがわかってしみじみ感心させられる。ヨンドゥがオリジナルの、31世紀の「ガーディアンズ~」のひとりだったことを知れば、そのキャラクターを自分の最愛の俳優に演じさせる意味もわかろうと言うものだ。

[書き手] 柳下 毅一郎
映画評論家、英米文学評論家。1963年生まれ。訳書にR・A・ラファティ『第四の館』(国書刊行会)、キャサリン・ダン『異形の愛』(河出書房新社)、〈J・G・バラード短編全集〉(共訳 東京創元新社)など。著書に『新世紀書評大全 書評1990-2010』(洋泉社)、『皆殺し映画通信』(カンゼン)など。編書に『女優 林由美香』(洋泉社)など。

映画秘宝 2017年6月号掲載

柳下 毅一郎

最終更新:5/19(日) 12:00
ALL REVIEWS

こんな記事も読まれています

あなたにおすすめの記事