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「私を置いて 世界が感動している――」高校最後の運動会 「選ばれなかった」私が、抱えてきた劣等感

5/23(木) 7:00配信

withnews

素直に感情を出せない、不器用な自分

 漫画の中盤、運動会が近づくある日、チアガールのひとりが練習中に足を骨折してしまいます。「チアができない」と泣きじゃくる姿を見て、主人公は自分がこれまで素直に感情を出せなかったことを自覚します。漫画では「私も泣きたい」と、今にもあふれ出しそうな気持ちが描かれています。

 結局、1人が参加できなくなっても、チアはそのままのチームで続行することになりました。それくらい、チームにとって骨折した生徒は代えがたい存在になっていたのです。

 「選ばれなかったって こういうことなんだ…」と、寂しさや悔しさをかみしめる主人公。やりきれない思いを抱えたまま、運動会当日を迎えます。

 そこにあったのは、いつか見た、まぶしいほどのチアガールたちの輝き。何も知らない生徒たちは、彼女らに大きな声援を送ります。

 「私を置いて 世界が感動しているーー」

 同じ気持ちになれない自分を責めながら、主人公の高校最後の運動会は終わったのでした。

 その後、大学生になった主人公は、偶然チアリーディングのサークルに誘われます。もう高校の人間関係にしばられる必要はないけれど、「興味、ないから」と断ってしまいます。帰り道、チアの練習風景を眺めながら、漫画はこんな言葉でしめくくられています。

 「もっと大泣きするくらい素直に傷ついていたら 少しは前に進めたのかな」

弱み見せれず、やっと得た安心感

 小柳さんは、チアリーディングを避けるようにしていた当時を、「人間関係でつまずきたくないという思いが強すぎて、やりたいことがあっても自分で気持ちに蓋をしてしまっていた」と振り返ります。

 「試合放棄ですよね。負けるのが怖いから、最初から試合をしないということを選んだ。結局、高校のときも、傷つきたくないから素直に感情を出せなかったんです」

 ずっと人と関わることが億劫で、大学時代も他人に弱みを見せられないまま、社会人になったという小柳さん。何でも「ひとりでいい」と思っていましたが、会社ではチームで仕事をするのが日常。徐々に心境に変化が起こり始めます。

 そんなとき、小柳さんは病気で休職を経験。その後、制限のある状態で、仕事に復帰することになりました。

 初めて実感する「人と同じように仕事ができない自分」。それでも、チームの人は小柳さんができる範囲の役割を用意してくれていました。小柳さんは「とてもありがたかった」とかみしめるように話します。

 「それ以来、チームの中で自分の役割を果たせることに、安心感を感じました。これまでは人と比べてばかりでしたが、自分にできないことは、誰かができればいい。弱みを見せてもいいんだな、ということを思えました。それからは、自分のできることも見えるようになって、すごく楽になりました」

 高校のチアガールの出来事も、ずっと誰にも話せなかったといいます。「家族にも言えなかったんです。でも、漫画に描いたことで、消化することができました」

 それに、改めて当時の自分と向き合ってみると、小柳さんにとって、失うものばかりではありませんでした。

 「あの頃は周囲の目を気にして、いわゆる『陽キャラ』のグループに入っていました。でも、チアのグループを離れて、仲良くするようになった別の友だちは、今でも連絡を取り合う親友です。自分らしくいられない環境であれば、他の居場所に脱出することが私にとっては良かったんです」

  ◇

 小柳さんは、ツイッターなどで漫画を発信しています。心の機微を丁寧に描いた作品たちは、もやもやとした感情を優しいタッチで可視化してくれます。時には胸をきゅっとつまみ、またある時にはそっと背中を押してくれる、小柳さんの作品をのぞいてみませんか。

 小柳さんのTwitter:@kaokaokaoriri

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最終更新:5/23(木) 7:00
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