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アップルApp Storeビジネスに暗雲か

5/21(火) 9:00配信

アスキー

App Storeの独占性をめぐる裁判でアップルの訴えが退けられた。アップルのビジネスに暗雲が立ちこめたといえそうだ。

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写真はイメージ 撮影:Nick Collins
 
 2週続けてApp Storeの話題です。先週はApple Watch向けApp Storeの登場が、あるいはApple Watchの独り立ちを意味するのではないかという見立てについて触れましたが、今度は本家iPhoneのApp Storeに立ちこめる暗雲についてです。
 
 米国最高裁判所は先週、アップルを相手取って起こされた「アップルが独占的な立場でアプリ価格を高くしている」とする集団訴訟が「審理可能」であるとして裁判として継続することを決定しました。ちょっと不思議な決定と思われるかも知れませんが、理由はアップルが裁判の審理継続に対して異を唱えていたからです。
 
 アップルは、アプリの価格決定権が自分たちにないと主張し、過去の判例である「商品やサービスを間接的に購入する人々は、企業を訴えられない」を根拠に裁判の棄却を求めていました。しかしBrett Kavanaugh判事は、アップルの理論が消費者の反トラスト主張を回避し、実質的な適用を阻止しつつ、独占的小売業者がメーカーやサプライヤーとの取引を構造化するロードマップになるとの意見書を提出しました。
 
 こうして、App Storeの反トラスト法の裁判は継続することになりました。もちろん裁判や判決はこれからで、App Storeに対してすぐに変更を加える必要はありません。ただし、アップルの次なる収益の柱ともいえるApp Storeビジネスにケチがついたこと、そして連日に及ぶ米中貿易戦争激化の報道から、せっかく200ドルを回復したアップルの株価は再び180ドル台へと沈んでいます(原稿執筆時)。
 
●App Storeのビジネスの現状
 アップルのApp Storeは、iPhone向けのアプリ配信プラットホームとして2008年のiPhone 3Gとともに登場し、無料、有料、有料購読、アプリ内課金など、様々なアプリのビジネスモデルを実現しています。iPhoneの他にも、iPad(iPhoneと共通化)、Mac、Apple TVで利用できます。
 
 アップルはデバイスやOS、開発者キットを用意し、開発者に対して示唆を与え、開発者はこれを自分たちのアイデアやビジネスと合わせてアプリ化しビジネスを展開します。新しい活用方法が生み出されており、アップルとしても、自社デバイスでありながら、未来像を開発者と一緒に作っているような場になっています。
 
 App Storeだけの売上高は公開されていませんが、App Storeを原動力とするサービス部門の売上高は2019年第2四半期(1~3月)は114億5000万ドル。前年同期比16%成長を維持しています。
 
 アクティブインストールベースは14億台で、これらのデバイス向けにアプリが無料・有料でダウンロードされていきます。アップルは2016年にサービス部門の売上高を2020年までに倍にする目標を掲げており、順調にその目標に向けて成長しています。
 
 アップルがサービス部門で新たに設定した指標にサブスクリプションユーザーがあります。これにはアップルが提供するiCloudやApple Music、そして開発者が提供するアプリの定期購読が含まれ、現在は3億9000万件に増加しています。昨年に比べて1億2000万件、前四半期に比べて3000万件増加しています。こちらも2020年までに5億件のサブスクリプションを獲得するという目標が新たに示されました。
 
●App Storeは独占的か?
 アップルは裁判棄却の理由として、顧客を相手にビジネスをしているのはアプリ開発者であって、価格決定権を持っていないアップルを訴えるのは無効であるとの主張を展開しました。しかし原告は、アップルの独占的な立場と30%という手数料設定を問題視しており、これが価格の上昇を招いていると主張しています。
 
 たしかに、iPhone向けに「アプリ」を提供しようとすれば、App Storeを経由しない手段は用意されていません。開発者は一般向けにiPhoneアプリを配布あるいは販売しようする場合、必ずアップルに申請を出して審査を受けなければなりません。またApp Storeの課金システムを使う場合、売り切りのアプリは30%、サブスクリプションモデルの場合、初年度30%、2年目以降の継続は15%の手数料も免れません。
 
 例外として、企業が内部向けに活用するアプリは、アップルの審査を経由せずに配布することができます。GoogleやFacebookは市場調査を目的に、社内向け配布のアプリを一般ユーザーに配布したことで、アップルから是正を求める制裁を受けたこともありました。
 
 iPhone向けアプリ配布で他に手段がない点は独占的とみる1つの大きな要因となります。ただしアップルは無料アプリを認めており、また無料アプリ内でApp Storeを介さないサブスクリプション課金や広告に対して、アップルが手数料を要求することはありません。
 
 またモバイルSafariを通じてWebアプリを配布する場合、アップルの審査や手数料を回避できる手段を用意している点が評価されれば、App Storeのビジネスを現在の形で維持することは可能ではないか、と考えることもできます。
 
●競争としての「iPhoneファースト」の実現
 筆者は開発者にインタビューする機会も多いのですが、彼らに話を聞く度に耳にするのが「iPhoneファースト」というフレーズです。アプリ開発のスタートアップほど、このフレーズが当たり前となっていて、iPhoneアプリを先に開発することを意味しています。
 
 例えば、先日話を聞いた教育アプリを展開するスマートエデュケーションは、3つの理由を挙げてiPad向けのアプリ開発を優先しているそうです。
 
1.古いデバイスであっても、処理性能が比較的高い。
2.OSや開発者キットの動作の安定性高い。
3.最新機能活用がしやすく、デバッグが現実的。
 
 裏を返せば、Androidタブレットではこれらの要素から実現不可能だったり、時間的なコストの負担が大きくなりすぎることが問題になると指摘していました。もちろん日本や米国といった先進国以外、たとえばアジアを狙う場合は、Android向けのアプリを広告モデルで展開するなど、戦略を変える必要がありますが、ARなどの新しい体験に取り組もうとすると、iOSを優先することになると言います。
 
 またアップルの審査は、正常かつ安全に動作するかどうかに加えて、機能やアップグレードの正当性、インターフェイスの提案、ビジネスモデルの調整などにまでコメントが及びます。
 
 たとえば物書堂のように「似たアプリを大量にリリースせず、統合アプリへ移行せよ」という大方針転換を告げられる事例もありますが、議論していくと、ユーザー体験の視点からの指摘で在り、結果としてアプリが分かりやすくなったり、ビジネス上有利になることもあります。
 
●米国外の動きにも注目
 以前、SpotifyがApp Storeの独占的な立場についてEU委員会に訴えた件にも触れましたが、アプリ開発者からも、アップルがApp Storeを支配していることに対して反発する声もあります。
 
 アップルは既に自社サイトで、Spotifyへの反論を掲載しており、Spotifyがフリーライダーになろうとしていること、そして他の法的な行動から、音楽ビジネスの進行に逆行していると批判を展開しました。
 
 この件はアップル対Spotify、プラットフォーマー対アプリ開発者という構図に加えて、米国企業対欧州企業という要素も加わっており、過去の事例からアップルが完勝することは難しそうに感じますが、米国内の訴訟とともに、アップルのサービス部門の成長を左右する案件として注視しておく必要があるでしょう。
 
筆者紹介――松村太郎
 
 1980年生まれ。ジャーナリスト・著者。慶應義塾大学SFC研究所上席所員(訪問)。またビジネス・ブレークスルー大学で教鞭を執る。米国カリフォルニア州バークレーに拠点を移し、モバイル・ソーシャルのテクノロジーとライフスタイルについて取材活動をする傍ら、キャスタリア株式会社で、「ソーシャルラーニング」のプラットフォーム開発を行なっている。
 
公式ブログ TAROSITE.NET
Twitterアカウント @taromatsumura
 
文● 松村太郎 @taromatsumura

最終更新:5/21(火) 9:00
アスキー

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