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レイフ・ファインズ監督作『ホワイト・クロウ 伝説のダンサー』を彩る3つの師弟関係

5/21(火) 6:42配信

CINEMORE

亡命を決意するまでの心の移ろいを克明に描く

 これは一人のバレエダンサーが人生を変える決断をくだす物語だ。もちろん、バレエそのもの、または主人公ルドルフ・ヌレエフについて知っておくに越したことはないが、たとえ私のようにそれらの知識が皆無の人間でも、本作に感銘を受けて今こうして原稿を書こうと突き動かされているくらいだから、それはつまりバレエ云々を超えた本作の「映画の力」なのだろう。

 これが監督3作目となるレイフ・ファインズも、初めからバレエに関心を持っていたわけではなかった。すべてのきっかけは、ジュリー・カヴァナが著したヌレエフの伝記を読んだこと。この時ファインズは、長年にわたりロシアの芸術や文化に惹かれてきたことも手伝って、一人の青年がたどる激動の半生に釘付けになったという。

 だが、ファインズは伝記をそのまま映画化することはしなかった。まずは脚本家のデヴィッド・ヘアー(『めぐりあう時間たち』(02)『愛を読むひと』(08))と相談しながら、主人公が亡命までのカウントダウンを過ごすパリでの日々と、そこに至るまでの幼少期、青年期といった3つの時間軸がせめぎ合う構成にしようと決意。そうすることで、一人の青年が社会や国家という枠組みを超え、ただひたすら「踊りたい」「表現したい」という欲求のもとに自我を膨らませる姿を活写しようとしたのである。

これまでになく溢れた「ファインズらしさ」

 ファインズの監督作を振り返ると、1作目の『英雄の証明』(11)はシェイクスピア劇の現代版への翻案で、2作目の『エレン・ターナン~ディケンズに愛された女~』(13)は誰もが知る文豪の知られざる逸話を情感豊かに描いたものだった。いずれもイギリス人のファインズにとって身近な題材と言えよう。

 それに比べると『ホワイト・クロウ』は未知なる挑戦だ。なにしろフランスやロシアで撮影を敢行し、作品内では3つの言語が乱れ飛ぶ。その上、ファインズには国際色豊かなスタッフやキャストを束ねて芸術性の高みを目指す責任もつきまとう。超えなければならないハードルは桁違いに多かった。

 だが、そうやって破格の情熱と執念を注いで完成した本作は、まるで世界をぐるりと旋回しながら実は自分自身の内面世界を探求していたかのような「レイフ・ファインズらしさ」に満ちたものとなった。それほどこの一本から、彼が大切にしている芸術や表現に対する考え方が濃厚なまでに伝わってくるのだ。

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最終更新:5/21(火) 6:42
CINEMORE

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