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【尊厳ある介護(74)】 「ちょっと待ってください」は禁止して

5/22(水) 12:09配信

ニュースソクラ

「〇分待ってください」で利用者を思いやって

 知り合いのお母さんの小笠清子さん(仮名91歳)が施設に入所されたと聞いてお見舞いに行きました。

 すると、「こんな状態でお目にかかるのは恥ずかしいです。長生きをして損をしました」と、目を伏せて話されました。

 小笠さんは随分前にご主人を亡くされましたが、息子さんや娘さんのご家族に囲まれ、最近までお元気で自立して生活をされていました。

 ところが、骨折して体調を崩され入院することになりました。

 退院はできましたが、歩行、排泄、入浴など全てに介護が必要になったのです。

 小笠さんは自宅で生活することに拘ったので、ご家族はその希望を叶えるよう慣れない介護を一生懸命されました。

 けれども、体調が悪化しご家族の努力の甲斐なく再入院となりました。

 そして、退院が決まった日、小笠さん自身が在宅での介護生活に限界を感じたので、施設入所を希望されたのです。

 ちょうど私がお見舞いに行った時は食事時でした。小笠さんは手も足も不自由なので、車いすに座って介護スタッフの介助を受けて食事をしていました。

 飲み込みに問題があるらしくミキサー食でした。食欲があまりないようすでしたが、努力して召し上がっているのが、私にも伝わってきました。

 しかし、食事が始まって少しすると、介護スタッフが「ちょっと待ってくださいね」と、言って席を離れたのです。

 側にいたお嫁さんが「食事時にはなるべく母に付いています。スタッフさんは忙しそうなので」と、慣れた手付きで食事介助をされました。

 周りを見回すと、首に介助エプロンをつけたまま食事を中断されている利用者もいます。

 しばらくして、介護スタッフが小笠さんの席に戻ってお嫁さんと交代をしました。

 食事が終わり小笠さんはお部屋に戻りました。そして、時計を見ながら「ちょっと待ってくださいとスタッフの方はよく言いますが、ちょっとという時間は何分なのでしょうか。人によって違うように思うのです」と、私に問われたのです。

 そこで、「いつも待たされるのは嫌ですよね」と答えると、「私は人を待たすのも嫌なのです」とおっしゃったのです。

 見当違いな返答をした私は何か大きな宿題をもらった気がして退室しました。お嫁さんが玄関まで見送ってくださり、「母はちょっとと言って待たされると、おざなりにされたと感じるみたいです」と、ぽつりと言われました。

 私は職場に帰ってスタッフの皆さんに「ちょっとはどのくらいの時間をさすのでしょうか」と聞いてみました。ほとんどのスタッフが2、3分以内と答えました。

 しかし、実際は「ちょっと待ってください」と言っても、7、8分かかることがざらにあるそうです。それだけでなくその言葉は頻繁に使われていることも分かりました。

 私は自分が小笠さんのように一人では動けなくなった状態を想像してみました。すると、待たされる時間がどうしようもなく長く不安なことに気付いたのです。

 だから、「〇分待ってください」と言って、その不安を取り除く対応が必要だと思いました。

 ですが、実際には具体的な時間を示しても、急用が入って時間を守れない時もあります。

 状況が許せば「あと、〇分待ってください」と途中で伝え、それでも遅れる場合は事情を説明してお詫びするしかありません。

 もちろん、時間の感覚がなくて待たせても何も言われない認知症の利用者はいます。できれば、そのような人にも「ちょっと」と言わず「〇分待ってください」とお願いして欲しいのです。

 時間を伝えることで、私たち自身が待たせる利用者の気持ちを意識するためです。

 そして、もしかして私たちは忙しさを理由に「ちょっと待って」が、口癖になっているかもしれませんから。

(注)事例は個人が特定されないよう倫理的配慮をしています。この連載は原則として隔週で掲載しています。

 この連載が岩波書店から2019年5月16日に単行本『尊厳ある介護、「根拠あるケア」が認知症介護を変える』(1944円税込み)として出版されました。

■里村 佳子( 社会福祉法人呉ハレルヤ会呉ベタニアホーム統括施設長 )
法政大学大学院イノベーションマネジメント(MBA)卒業、広島国際大学臨床教授、前法政大学大学院客員教授、広島県認知症介護指導者、広島県精神医療審査会委員、呉市介護認定審査会委員。ケアハウス、デイサービス、サービス付高齢者住宅、小規模多機能ホーム、グループホーム、居宅介護事業所などの複数施設の担当理事。2017年10月に東京都杉並区の荻窪で訪問看護ステーション「ユアネーム」を開設。

最終更新:5/22(水) 12:09
ニュースソクラ

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