ここから本文です

家事多すぎ、時間足りなすぎ。最低限の家事を考える実験「ミングル」

5/24(金) 9:00配信

アスキー

時間がないなら最低限のことだけやればいい。スープ作家の有賀薫さんが「最低限の家事」を考える実験をはじめました。

【もっと写真を見る】

 共働きが当たり前になり、家事の時間が減り、家庭料理が簡略化されていく中でも食の豊かさを保つにはどうすればいいか。
 
 「スープ・レッスン」「帰り遅いけどこんなスープなら作れそう」などの著書があるスープ作家の有賀薫さんが、とてもミニマルな料理設備を開発しました。食卓を兼ねた超小型アイランドキッチン「ミングル」です。
 
 IHコンロ、上下水道、食洗機を備え、基本的な調理道具や箸・スプーンなども収納可能。その場で食材を洗い、料理して、食洗機から食器を取り出して料理をよそい、食べ終わったら食器をまた食洗機に入れる。これまで「手抜き」「ズボラ」などと言われてきたキッチンでの行動を促すような設計の設備です。
 
 キッチン周辺への動線もよく考えられています。すぐ後ろに冷蔵庫や調理器具ラックなどがあり、「ビールあったかな」「マヨネーズがほしいな」「木べらがなかった」と思ったときはちょっと手を伸ばすだけ。
 
 ただしミングルはこれまでのキッチンと同じようには料理ができません。簡単な換気設備しかなく、揚げものは苦手。洗い場が小さいので大きな洗いものはできません。コンロも一口しかなく、鍋やフライパンはひとつしか置けません。できることはごく基本的なことに限られます。
 
 あえてそういう設計にしたのは、これまでキッチンにはできることが多すぎて、逆に家事をつらくしていた部分があったから。そして有賀さんがミングルを開発したのはメーカーのように量販するためではなく、よけいなものをそぎ落とした「最低限の家事」を探るためといいます。
 
 どういうことか有賀さんに聞きました。
 

●スープという「最低限の食」
 有賀さんはもともとスープを通じて「最低限の食」を提案してきました。
 
 受験生の息子さんが朝に食べやすいようにと作ったスープをSNSにアップしたのが始まりですが、スープを作りつづけるうちにフォロワーたちから『本当に家事が大変で、このスープに救われました』という声が届くようになったといいます。
 
 「スープってラクチンだな、と。わたし自身、みそ汁とかは習慣としてあるものだと思ってたから、『ラクチン』なんて考えたこともなくて。スープは具を変えてやっていたけど、何の苦労もなかった。けど、朝にたっぷり作っておけば昼夜と自分を助けてくれるし、一日の食事がうまく回る。スープがあると生活はラクになるよねというというのは、お伝えする価値があるのかなと」
 
 有賀さんの世代では、スープは味噌汁のようにあくまで添え物。食卓でメインディッシュとみなすことはありませんでした。しかし最近若い世代のあいだで食の価値観が変わりはじめていると感じ、生活を支える最低限の食としてのスープを提案するようになったといいます。
 
 「うちの夫なんかすごくて、ビーフシチューも『汁物』なんです。ボリュームの問題ではなく『(白ごはんを食べるための)おかずは?』と聞かれます。佃煮や漬物でもいいんです。ごはん、汁物、おかずという一汁一菜、二菜の食べ方が身についてしまっているんですね。けど、最近スープストックトーキョーなんかに行くと、若い親子が普通にごはんとしてスープを食べていますよね。これがありなんだ、変わってきているんだなとふんわり感じて、それを意識したスープを作っていたんですね」
 
 スープのような汁物料理を食の中心と考えると、料理自体も変わってきます。共働き家庭の場合、帰ったらすぐ料理という忙しなさが心理的負担になりますが、たとえば鍋物のようなスープが中心にあれば負担が軽くなります。
 
 「鍋の時間割って、普通に家に帰ってきてごはんを作る時間割と違うなあと。煮るところ、よそうところも普通のごはんと違うし、調味も自分でやっちゃう。料理って調味という意思決定もすごく大変なんですよ。その部分をゆるめられる鍋は楽ですね。それならもう年がら年中鍋をやればいいじゃんと」
 
 毎日みんなで鍋を煮立てて食べれば楽だし、料理も一緒にできる。そのためにはどんなところでスープを作るのがいいのだろう──そんなことを考えるうち、家事そのものへと視野が広がり、考えられたのがミングルだったわけです。
 
●家事がつらい2つの理由
 家事がつらいのはなぜなのか。有賀さんが生活史研究家の阿古真理さんなどとともに「新しいカテイカ」プロジェクトとして考えた結果、ひとつの理由としてあげられたのは「やるべきことが肥大化していること」でした。
 
 「昭和時代に専業主婦という存在が出てきて『プロ主婦』になりました。ぬか漬けもお菓子も世界の料理もどんどん作る。そうしてふくらんだのが今のキッチンです。立っているだけで『やれ』という無言の圧力がある。料理道具も調味料も、作れる料理の数も多すぎる」
 
 ネットの情報もやるべきことを肥大化させていました。
 
 「たとえばインスタで素敵なごはんを見て『こんな素敵にはできない』と思ったりしますよね。そこには経済的にも違う環境の人が同居しているのに。これまでは違う世界の人が見えていなかった。雑誌だって自分と違うクラスの人たちは見えなかった。ところがネットの場合は全部が見える。比べちゃって、きょろきょろしちゃう。情報量が多すぎるんです」
 
 さらに、いつも決まった人だけ家事をしていることも、家事をつらくしているもうひとつの理由としてあげられました。
 
 「いまのキッチンは自分だけが料理をしていると孤独感がある。一人が担ってしまって、他の人を寄せつけないんですよね。カウンターキッチンはコミュニケーションができるけど、家事を分担できないのは変わらなかった。アイランドキッチンだけは参加性があるからいいなと思ったんですが、今までのものはちょっと大きすぎたんですよね」
 
 ミングルは部屋のすみにあるキッチンと違い、部屋の中心にあり、誰もが入っていきやすいスペースです。そうした理由は、これまで家族でうまくできていなかった家事分担(シェア)をしやすくするためでした。
 
 「ミングルってどこかで見たことがある形だと思うんですが、それはイベントスペースとかキャンプ場と同じだから。そういう場所では(シェアが)できている。家の中ではできないけど外ではできている、あの文化を家に持ち込もうと。なぜ他人同士でできていることが家族になるとできないか。それは、家族の関係がタテだから。お父さんは仕事、お母さんは家事とか役割においてタテ。シェアハウスとかは、役割が対等なのでヨコなんです」
 
●家事を楽にする「ミングル的生活」
 有賀さんはいまミングルを使って「最低限の家事」を実践中。ミングルで足りないところはレンジやトースターなどの調理家電と組み合わせながら、ポトフやスープパスタを作って食事にしています。いまはまだ試行中ですが、そのうち調理器具や食器などの「最低限」も定まってきそうです。
 
 話を聞きながら、頭に浮かんだのは「家事の時短」のことでした。
 
 子どもが生まれてからというもの、さまざまな場面で本当にたくさん時短というフレーズを目にするようになりました。家事をすばやく終わらせることでプライベートの時間がとれるという理屈はわかるのですが、「時間がないのにこれまでどおり家事をする必要があるだろうか」と疑問に思うこともありました。
 
 一方ミングルは「時間がないならこれまでどおりの家事なんてしなくていいでしょ」という真逆の発想。むしろ「やらない」ことで新しい豊かさを生み出すという考えで、目からウロコが落ちました。ミングルはあくまでも考え方の提案。自分なら何ができるかと考えると、それだけで楽しくなる部分がありました。
 
 「『ミングル的生活』じゃないけど、硬直化していたキッチンと人の関係をこういう形で組み替えていくと新しくなるというのが、キッチン以外にもあるんじゃないかと思うんですよね。スープもそのひとつ。スープは昔からあったけど、こうして食べたらもっと楽になるよねと。同じように、キッチンがこうだったら楽になるとか、食器が変わったら楽になるとか、会話が変わったら楽になるとか、他方向に展開されていくのが重要なんじゃないかと。それをわたしだけじゃなく、ミングルを見てくれた人が、それぞれの『ミングル的生活』を考えてくれたら、もっと早く簡単に世の中が変わると思うんですよ」
 
 
文● 盛田 諒(Ryo Morita)

最終更新:5/24(金) 9:00
アスキー

こんな記事も読まれています

あなたにおすすめの記事