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「月28日勤務」「危険な環境」 東京五輪の建設現場に根付く“恐怖の文化”

5/24(金) 8:00配信

ITmedia ビジネスオンライン

時間外労働は月200時間超

 男性は、16年3月に大学を卒業し、地盤改良工事などを得意とする建設会社に入社。約10件の現場で経験を積み、16年12月から、東京五輪などに向けて建設中の新国立競技場の現場に配属となりました。

 男性が自殺する直前1カ月の時間外労働は200時間超。しかしながら、当初、会社側は「男性の時間外労働は80時間以内」と説明。遺族側が再調査を要求したところ、男性の時間外労働は1月が116時間、2月には193時間まで達していたと訂正したのです。

 男性が使用していたPCの電源の記録などから遺族らが割り出した労働時間はこれをさらに上回り、深夜までの労働が常態化しており、17年2月中に3回の徹夜勤務があったことも明らかになっています。

 男性は亡くなるひと月前の17年3月、「今日は欠勤する」と会社に連絡した後、突然失踪。4月に長野県内で遺体が発見されたときには、「突然このような形をとってしまい、もうしわけございません。身も心も限界の私はこのような結果しか思い浮かびませんでした」と記されたメモも見つかりました。

 いったいなぜ、心も体も悲鳴をあげ、生きる力がなえるまで働き続けてしまったのか。

 とてもとても悲しいことではあるけど、男性が“culture of fear(恐怖の文化)”に蝕まれ、悪いのは非人間的な働き方を“当たり前”にした企業なのに、自分を責めた。そう思えてなりません。

労働コストが下がり続けるのは日本だけ

 かつての日本の企業には、「働く人を大切にする」という経営哲学が存在し、人の摂理に合ったさまざまな制度が存在していました。特に1970年代後半に、政府が「日本型福祉社会」にかじを切ってからは、日本の企業は「社会福祉の担い手」とし、新卒一括採用、入社後の教育、年功賃金、福利厚生を充実させ、会社員を家族のように大切にしました。

 心理学者のマズローが提唱した「ユーサイキアン・マネジメント(働く人々が精神的に健康であり得るためのマネジメント)」が実践されていたのです。

 しかしながら「会社組織」は、平成30年間で大きく変わりました。会社員は「人」ではなく、「コスト」になり、会社を守るために人がリストラされ、賃金カットの目的で成果主義が取り入れられ、業績の上がらない部署は切り捨てられ、非正規という「低賃金でいつでも切れる社員」を増やし、過労死や過労自殺、うつ病を生む“恐怖の文化”がまん延しています。

 その変貌ぶりは、データからも明確です。1999年を基準にした、2012年までの労働コストの推移(OECD調べ)を見ると、日本は右肩下がりになっています。世界の国々の労働コストが一貫して上昇傾向にあるのに対して、唯一、日本だけ労働コストが下がり続けているのです。

 企業側が「人」ではなく、「カネ」だけを見た結果、何人もの命が奪われ、危険な環境で「今」も働かされている人たちがいる。「恐怖の文化」を断ち切る努力を企業にしていただきたい。

 そして、どうかご安全に、これ以上誰も傷つくことがないよう、組織委員会には現状に真摯(しんし)に向き合い、早急に改善に努めてほしいです。

(河合薫)

ITmedia ビジネスオンライン

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最終更新:5/24(金) 8:00
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