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日本で正しく著作権が理解される最後のチャンス

5/28(火) 9:00配信

アスキー

山口大学、日本行政書士会連合会、一般社団法人コンピュータソフトウェア著作権協会が著作権に関する普及、啓発活動を共同で進めることで協定を結んだ。狙いは一体なにか。

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今回のことば
 
「日本で唯一の教育関係共同利用拠点(知的財産教育)に認定された山口大学は、小学校から大学、社会人の知財教育まで、実務部門の実践例を、迅速に教材化できる点に特色がある」(国立大学法人山口大学の岡正朗学長)
 
著作権教育に先進的な山口大学
 国立大学法人山口大学は、行政書士の全国組織である日本行政書士会連合会(日行連)と、パソコンソフトメーカーなど約130社が参加する一般社団法人コンピュータソフトウェア著作権協会(ACCS)と、著作権に関する普及、啓発活動を共同で進めることで協定を結んだ。
 
 具体的な活動については現時点では決定していないが、6月以降に話し合いを進め、「著作権に関する正しい知識を持ってもらう活動を進めていく」(ACCSの久保田裕専務理事)という。
 
 ACCSは1985年に、パソコン用ソフトウェア開発会社を中心に設立。デジタル著作物の著作権者の権利保護および著作権の普及活動をする団体だ。著作権の権利保護のために、会員企業による刑事摘発を支援するほか、啓蒙活動の一環として、学校や企業、団体などにおける著作権講座への講師派遣やセミナーの開催、著作権の学習小冊子の作成などをしてきた。
 
 一方、日行連は約4万8000人の行政書士が加盟。行政書士会および会員の指導、連絡に関する事務、行政書士の登録に関する事務などを担う。行政書士は文化庁への著作権登録、裁定制度申請業務や各種ライセンス契約書作成業務などの著作権業務を担当しており、著作権とも関連が深い。
 
 日行連には、著作権に関する研修を修了した5924人の著作権相談員がおり、著作権教育のために、法律の専門家としての知見を活かした学校への出前授業を実施しているという。
 
 なぜ、その二者と山口大学が著作権の普及、啓蒙活動で協定を結んだのだろうか。実は、山口大学は著作権教育には先進的だ。
 
知財必修科目を開設
 9学部8研究科からなり、学生数1万人を超える総合大学の山口大学は、2013年度から学部初年次教育で全学生対象の知財必修科目を開設し、現在では教養科目として、大学院までの知財カリキュラム体系を確立しているという。
 
 また2015年度には、日本で唯一の教育関係共同利用拠点(知的財産教育)に認定され、2018年末までに、他大学の教職員約3万人を対象に、知的財産教育に関する支援をしてきた実績があるほか、他大学に対する講義ノウハウの共有など、大学間の強いネットワークを生かした活動も展開している。
 
 内閣府知的財産戦略本部が推進する知財創造教育コンソーシアム検討委員会のメンバーとして、小中高等学校の知財創造教育システムや教材開発にも参画している。 
 
 山口大学の岡正朗学長は「山口大学は、事業戦略人材の基本スキルである知的財産教育を重視してきた。2013年度からは学部初年次教育で、全学生を対象に知財必修科目化し、さらにその次年度以降は、特許法、著作権法、標準化とビジネス、知的情報の分析と活用などの科目を整備している。
 
 また山口大学は、知財教育部門に特許行政・審査・活用、コンテンツ系知財教材、ものづくり系知財教材、e-learning著作権処理、美術系著作権処理、ライフ・農学系知財教材といった異なる専門領域の教員を配置している」とする。
 
新時代に対応した知財教育を
 同大学の国際総合科学部は、卒業の要件としてTOEIC730点以上と、1年間の海外大学留学を定めているが、「ここでの取り組みは、国際的に活躍する知財人材や標準化人材の育成モデルと考えており、契約交渉から契約書作成の演習、コーヒーのドリップパックを題材にした特許請求の範囲を考える演習、著作権知識をもとにコンテンツ産業のビジネスモデルを提案する授業など、新時代に対応した知財教育を進めている」という。
 
 そして、「山口大学は、知的財産権の科目を必修科目としており、授業ノウハウや教材など、著作権教育に関する豊富な知見を保有するとともに、小学校から大学、社会人の知財教育まで、実務部門の実践例を、迅速に教材化することに特色がある。今回の協定により、各組織の強みを生かした著作権に関する普及啓蒙活動が促進されることを期待している」と述べる。 
 
教育制度の整備も進む
 今回、三者が協定を結んだ背景には、ここ数年の著作権を取り巻く大きな環境変化が見逃せない。
 
 2017年1月に設立された知財創造教育推進コンソーシアムでは、知的創造教育を推進するための取り組みを開始。
 
 一方で、2017年3月に公示された初等中等教育の新学習指導要領と、2018年3月公示の高等学校の新学習指導要領においては、すべての学校段階において、「情報活用能力が、学習の基盤となる資質・能力」と位置づけ、情報活用に関する教育を促進。ICT機器の整備が進められている。
 
 教育現場における著作物の適切な利用や運用に向けて、2018年の改正著作権法において、教育の情報化に対応した権利制限規定も整備。さらに、新たに無許諾で利用が可能となる公衆送信については、補償金制度が設けられているといった整備も行なわれた。
 
著作権を正しく理解しないと禍根を残す
 ACCSの久保田専務理事は「ICT教育が進展しているなかで、教員が正しい著作権教育を行なうことができるのかといった課題もある。学校現場でも、著作権に関して正しく教育される必要がある」と前置きしながら、
 
 「著作権が取り巻く環境が大きく変わるなかで、著作権が正しく理解されることの意義は大きい。だが、これが日本において、正しく著作権が理解されるための最後のチャンスになるともいえる。著作権が正しく理解されないまま、情報を自由に利用できる世界が訪れれば、必ず禍根を残すことになる」と警笛を鳴らす。
 
 そして「今回の三者による協定は、あらゆるレイヤーで、著作権教育や普及、啓蒙活動が動き出すきっかけになる」と期待を寄せる。
 
著作権理解の基盤づくりが狙い
 また、山口大学の岡学長は「知財に関する知識が低いということは大きな損失になる」と指摘。
 
 「もともとは大学を対象に著作権教材を開発したが、すでに小学校や中学校における著作権教育が重要であるという状況になってきた。これに向けた教材は開発している。山口大学だけの取り組みでは、これを山口県下の小中学校に展開できても、日本全国に広げることはできないだろう。
 
 今回の三者協定によって、それぞれの団体の力を使って、教材を全国に広げたり、教育のノウハウを共有したりといったことが可能になる。こうした取り組みを、PDCAとして回すことでブラッシュアップができる」とこの協定に期待する。
 
 今回の三者協定は、著作権に関する活動において実績を持つ団体、大学が連携することで、日本において、著作権を正しく理解させる基盤づくりが狙いになるといえるだろう。
 
 これから情報やコンテンツの価値が、さらに重要視されることになるのは明らかだ。そうした未来を見据えるのならば、著作権を正しく理解する基盤を日本の社会に作ることは極めて重要である。
 
文● 大河原克行、編集●ASCII

最終更新:5/28(火) 9:00
アスキー

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