ここから本文です

医療が目指すのは延命だけ? 「子どもとの時間を奪われるなら治療なんて受けません」(前編)

5/29(水) 15:01配信

BuzzFeed Japan

かつて、「診断されれば死」というイメージが強かった「がん」。

しかし、近年では、治療の進歩によって完治することも増え、また全身に転移した状態でも10年や20年、がんと共存することも可能となってきています。

「がんを抱えて、自分らしく生きる」ということを、患者さんそれぞれが考える必要が出てきていますし、また「がんがあってもなくても、関係なく生きられる社会」を作っていくことがひとりひとりに求められているといえます。

その一方で、いまだ抗がん治療や医療制度に合わせて生きることが当然とされるような場面が多いことも事実です。

がんを抱えて、自分らしく生きるために、医療とどのように付き合っていけばいいのか、タムラさんの事例を通じて考えてみましょう。

※5月28日に『がんを抱えて、自分らしく生きたい』(PHP研究所)を出版しました。「がんを抱えて自分らしく生きるためには、医師に頼るべきではない」の一文から始まる本書から、特にお伝えしたいエピソードをご紹介します。
【寄稿:西智弘・腫瘍内科医、緩和ケア医 / BuzzFeed Japan Medical】

幼い子どもを抱え、治らないすい臓がんと診断

タムラさんはあるとき、自分の尿の色がかなり濃くなってきていることに気づきました。出産してから2年。ほとんど病院に行けていなかったタムラさんは、

「膀胱炎にでもなったのかしら」

と思い、かかりつけ医に診てもらうことにしました。その医師は、タムラさんの尿検査の結果と、皮膚の状態をじーっと見て、

「黄疸が出ていますよ」

と告げたのです。

そして、紹介された大学病院での精密検査で、膵臓がんの診断。担当した医師は、いきなりのがん告知で固まっているタムラさんに対し、畳みかけるように話をつづけました。

「まあ、転移もあるんでね......。手術は残念ながらできないですな。すぐに入院して抗がん剤をやりましょう。抗がん剤をしても治すことは難しいので、まあ数か月延命できるだけですけどね。来週入院で、4週間」

「そんなに入院はできません。息子をそんなに長く預けられるところがないんです」

タムラさんは、腕の中で眠る息子の顔を見ながら言いました。

「でも、うちでは4週間は入院してもらうことになっているんです」

医師は、「困りましたね」という表情で深く椅子に座り直しました。タムラさんは下を向いてしばらく考えこんでいましたが、意を決してこう告げました。

「私のがんは治らない、と先生はおっしゃいましたよね。抗がん剤は単なる延命にすぎないと。それなら、貴重な時間を、体力を、入院生活と抗がん剤で使ってしまうよりも、私はこの子と一緒に過ごす時間を大切にしたいと思います。抗がん剤治療は受けません」

すると医師は、ちょっと口元を引きつらせ、電子カルテに向き合い、キーボードをたたきながら言いました。

「そうですか。では、緩和ケアを選択するってことですね。もう、うちの病院にはかかれませんけどいいですね。うちでは緩和ケアは受けられませんのでね。近くの、緩和ケアがある病院をご紹介します」

1/5ページ

最終更新:5/29(水) 21:10
BuzzFeed Japan

こんな記事も読まれています

あなたにおすすめの記事