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ハンセン病〝隔離〟が蝕む人間の心 「奇妙な国」島比呂志【あの名作その時代シリーズ】

6/1(土) 12:30配信 有料

西日本新聞

ハンセン病国賠訴訟提訴を前にしたためられた「ハンセン病訴訟・告訴宣言」の原稿。不自由な手で書き上げた

 「あの名作その時代」は、九州を舞台とした作品、または九州人が書いた著作で、次代に残すべき100冊を選び、著者像や時代背景、今日的な意味を考えながら紹介するシリーズです。西日本新聞で「九州の100冊」(2006~08年)として連載したもので、この記事は06年7月16日付のものです。

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 たとえば、園内の地図を開いてみる。集合住宅、スーパー、理髪店、さらには教会、火葬場そして、納骨堂まである。そこが一つの町と言ってもおかしくないことが分かるだろう。

 鹿児島県鹿屋市郊外。人里離れたサツマイモ畑の台地に国立ハンセン病療養所「星塚敬愛園」はある。五十年の人生をここで費やした島比呂志(本名・岸上薫)は「奇妙な国」と呼び、皮肉を込めこう書き出す。

 「あなたがたは面積が四十ヘクタールで人口が千余人という、まったく玩具のような小国が、日本列島の中に存在していることをご存じだろうか」

 その国の住民は、日本との「安全条約」によって衣食住を保障されている。幾つかの条件がある。癩(らい)菌という「滅亡の虫」をばらまかないよう日本に浸入しないこと、子孫をつくらないよう精管を切除すること。そして「滅亡こそが国家唯一の大理想」と解く。

 作中、納骨堂が象徴的に登場する。そのモチーフだろうか。園の外れの薄暗い杉林の奥に旧納骨堂がある。苔(こけ)むし黒ずんではいるが、古代ローマの建築を思わせる威容は、まだ朽ちてはいない。「滅亡の国のシンボル」。島はそう呼んだ。

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 「ハンセン病患者の壮絶な姿を描いた北條民雄とは対極の作品。患者の生活を恬淡(てんたん)と描いているが、それだけに余計、不気味な感じがします」。島が立ち上げた同人誌「火山地帯」を引き継いだ作家の立石富男さん(57)は鹿屋市の自宅で語った。 本文:2,495文字 写真:2枚

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西日本新聞

最終更新:6/1(土) 12:30
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