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文化財200点、無断で切り取り 岩手県立博物館の学芸員

6/5(水) 3:00配信

毎日新聞

 東日本の遺跡から出土した文化財を保存処理・分析している岩手県立博物館(盛岡市)の学芸員が、所有者に無断で金属製の文化財の一部を切り取る行為を繰り返していたことが判明した。毎日新聞の取材に「これまでに200点くらいやっていた」と認めた。専門家は「所有者の了承なく文化財を傷付けることは研究者のモラルに反する」と批判している。【小鍜冶孝志、藤井朋子】

【小刀のX線写真には、切り取られたW形の跡が…】

 無断切り取りは2014年に同館で発覚し、当時課長だった学芸員が同県野田村の平清水(ひらしみず)など2遺跡から出土した約30点の切り取りを認めていたことも今回の取材で判明した。学芸員は当初隠蔽(いんぺい)しようとしたことなども含めて文書訓告処分を受けたが、同館は調査対象を広げず、問題を公表しなかった。同館の対応が問われそうだ。

 この学芸員は60代で鉄の専門家として知られている。学芸員は4日、高橋広至・同館長らとともに取材に応じ「保存処理のために分析する必要があった。了承を取っていたと思っていたが、取れていなかった。反省している」と説明。詳しい経緯を調べた上で謝罪する方針を示した。200点を切り取った時期は明言しなかった。

 同館は東日本各地の自治体などから金属製の文化財を長く保存するための特殊な処理を依頼されている。対応できる施設は東北でも限られるという。また、材質や作られた年代などの分析も引き受けていた。文化財を破壊しないで分析することが基本だが、やむを得ない場合は特殊な工具などで一部を切り取る「サンプリング」という手法がある。だが、その場合は「所有者の了承が大前提」(複数の自治体担当者)という。

 毎日新聞が入手した同館の内部資料によると、預かった文化財を整理した写真付きの個票の中に、切り取り箇所を示したと推測できる「サンプル」という手書きの記述や矢印があった。

 白鳥舘(しろとりたて)遺跡から出土した文化財30~40点の保存処理を同館に依頼した同県奥州市は切り取りを含めた分析は頼んでいないが、同遺跡から出土した小刀などの個票に「サンプル」という記載があった。一方、毎日新聞が入手した別の資料には、奥州市に返却された文化財をX線で撮影した写真があり、切り取られた跡がはっきり浮き上がっていた。

 同市の担当者とともに資料を突き合わせたところ、写真の切り取られた跡は個票の「サンプル」と書かれた場所と一致した。担当者は「相当目立つ切られ方。衝撃を受けた」と話す。

 同じく県埋蔵文化財センターが管理する県内10以上の遺跡の文化財の個票にも「サンプル」という記載があったが、同センターには切り取りを了承した記録はないという。同県紫波町(比爪館=ひづめだて=遺跡)と軽米町(袖の平遺跡など)の担当者も了承を否定した。軽米町の担当者は「事実なら文化財の破壊行為」と批判している。

 同館は1980年開館。東日本大震災で被災した文化財を修復する「文化財レスキュー」の活動でも知られる。5年前の切り取り発覚を受けて金属製文化財の受け入れを一時中断したが、17年に再開している。無断切り取りは器物損壊などに当たり、重要文化財の場合は文化財保護法違反に該当する可能性もある。

 ◇社会の信用失う

 文化財の保存や修復に詳しい九州国立博物館の三輪嘉六・前館長の話 文化財の一部を切り取って分析するサンプリングを行う際は所有者の了承を得るのが基本で、そのやり取りを怠ることは社会全体の信用を失う行為だ。科学者なら分析結果を社会に示して還元すべきで、それをしていないことも理屈が通らない。

最終更新:6/5(水) 8:18
毎日新聞

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