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【F1チームの戦い方:小松礼雄コラム第6回】モナコの勝負を決めたピットストップ。“遅すぎた”ライバルと判断ミスに泣く

6/5(水) 12:39配信

オートスポーツweb

 今シーズンで4年目を迎えるハースF1チームと小松礼雄チーフエンジニア。予選では善戦し予想を上回るグリッドを手にしたハースだが、決勝レースでは大きく順位を落とす結果に。モニターの順位表だけではわからなかったレースの裏側を、小松エンジニアがお届けします。

【写真】第6戦モナコGPで10位に入賞したロマン・グロージャン

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 厳しい戦いになると予想していた第6戦モナコGPですが、思っていたよりもクルマの速さを発揮できました。予選ではQ3に進むのも大変だろうと考えていましたが、走り始めからタイヤをうまく使えて、週末を通して確実に中団チームのトップにいることができたのはよかったですね。

 モナコは公道サーキットなので、路面状況は刻々と変わっていきます。その路面と切り離して考えられないのが、『ドライバーがどれだけ速く走れるか』という要素です。モナコでは走れば走るほど、ドライバーはコースに慣れて速く走れますし、フリー走行でもガレージでセットアップを変更しているより、とにかくドライバーを走らせる方がタイムに繋がります。

 今回は走り出しからクルマが良くて、ほとんどセットアップの変更点はありませんでした。クルマをあまり変えないということは、ドライバーがモナコの公道に慣れることに集中できるということです。ですから路面状況の変化も捉えながらどんどん攻められるようになります。これが週末、速さを引き出せた一番大きな要因だと思います。走り出しのクルマが良くないというのはよく出るウチの課題のひとつなのですが、今回そのあたりが上手くいったと思います。

 ただロマン(グロージャン)はフリー走行2回目以降、クルマの不満を訴えていましたが、データを見てもそれほど悪くなさそうだったので、彼の意見を聞きながらも振り回されすぎないようにしていました。その辺りは、現場のレースエンジニアの経験が活きてくるところです。

 このように良い状態で予選を迎えることができました。モナコの予選では特に黄旗や赤旗、そしてトラフィックが心配です。ですので、とにかく早めに出せるときにタイムを出すというのが僕の基本的な考え方です。路面状態が安定しないウエットコンディションの予選の場合と考え方は似ていますね。

 その予選ではケビン(マグヌッセン)がルノーを0.1秒差で上回り、見事中団争いを制して6番グリッドを獲得しました(ピエール・ガスリーのペナルティにより、スタートは5番グリッドから)。中団チームとの差は予想通りでしたが、ひとつよかったなと思えたのは、Q3でのフェラーリとの差が約0.15秒だったことです(4番手のセバスチャン・ベッテルが1分10秒947、マグヌッセンは1分11秒109)。セクターごとのタイムを見ると、わずかではありますが、セクター2と3ではフェラーリよりもウチの方が速かったことはうれしかったです。

 一方で、ロマンはガスリーに引っかかってQ2でノックアウトになってしまいましたが、実際には確実にQ3に進めるパフォーマンスがありました。Q2の2回目のアタックでは『ファスト・スロー・ファスト』という戦略で合計3周走り、ケビンの1回目のタイムが1分11秒795で、ロマンは1分12秒027でした。

 実はこのとき、ロマンはストレートでトラブルを抱えていたので、0.3秒のロスがありました。もしトラブルがなければ、ロマンはこの時点で1分11秒7というタイムが出せていたはずです。それにコーナーではケビンより0.1秒速かったので、もしガスリーに妨害されずに2回目の計測ができていれば、1分11秒3か11秒4を出せていたと思います。

■ピットストップ敢行は判断ミス「キャンセルすべきでした」

 さて決勝レースですが、ケビンに関してはセーフティカー(SC)出動中のピットストップで、今回のレースの勝負が決まってしまいました。その詳細を説明したいと思います。

 11周目にSCが出動したとき、ケビンの前にはダニエル・リカルド(ルノー)がいたのですが、なぜかリカルドはものすごくゆっくり走っていたんです。ここでリカルドに詰まったせいで、ピットストップを終えた段階のケビンは、SC出動中の基準となるラップタイムから5秒という大きな遅れをとってしまいました。つまり、基準タイムで走っている他のクルマに対して5秒ロスをしたということです。

 コースに戻った時の位置も、ランド・ノリス(マクラーレン)をはじめとするミディアムタイヤを履いているドライバー3台、さらにはキミ・ライコネン(アルファロメオ)とリカルドの後ろという、まさに最悪の位置でした。

 なぜなら、ノリスは前を走るチームメイトのカルロス・サインツJr.にギャップを築かせるために、レースが再開してからは1周1.5秒くらいペースを落として後続を抑えて走っていたんです(これはどれだけ遅く走ればよいかという明確な指示を、マクラーレンがピットウォールから出していました)。そのおかげでサインツJr.は、SCが解除されてから10周ほどでピットストップ1回分のマージンを稼ぐことが出来ました。

 結果論ですが、リカルドに詰まってピットストップをしたらノリスの後ろになると確実にわかった時点で、ケビンのピットストップをキャンセルするべきでした。SCが出た瞬間の計算では、ケビンはピットストップを行ってもノリスの前でコースに復帰することは可能でしたが、このときケビンは既にピットストレートを走っていたので、ピットインのタイミングを少しの差で逃していました。

 もしあと5秒くらい早くSCが出ていて、ケビンがターン18辺りを走っていたら、すぐにピットに入れて、ノリスの前でコースに戻れていたはずです。それができていれば、5位に入賞出来ていたと思います。

 結局は判断ミスということですが、あの時点では、ノリスがあれほどまでにペースを落として走るとは想定していませんでした。サインツJr.はソフトタイヤでスタートしましたが、ノリスはミディアムタイヤだったので、当然マクラーレンは戦略の違いを活かしてサインツJr.をサポートすることができます。これを見逃してしまったり、ケビンのピットストップについては反省点が多かったので、ファクトリーに戻ってこれからのために見直しました。

 タイヤに関しては、上位勢がハードタイヤに交換するなかでケビンはミディアムタイヤを選択しましたが、これは正しい判断でした。というのも木曜日のフリー走行を走った段階で、ハードタイヤの感触が良くなかったので、なるべくレースでも使いたくなかったんです。レース序盤の11周目というのはまだトラフィックも処理しきれていない状況ですし、ここから最後までミディアムタイヤが保つかどうかというのは、木曜日のデータを見てもギリギリでしたが、最終的には走りきることができたので、僕らにとってはミディアムタイヤで正解でした。

 逆にロマンの方は、戦略の判断は簡単でした。ロマンは13番手からのスタートだったので、前のドライバーと同じことをやっていたら絶対にポイントを獲れません。それに、もしロマンがSC出動中にピットに入っていたら、隊列の最後尾まで順位を落としていたと思います。ロマンがポイントを獲るためには、とにかくできるだけピットストップを遅らせるしかなかったんです。ですから彼の戦略は他のドライバーには左右されませんでしたし、ソフトタイヤで50周も走ってくれて、よくやってくれました。

 結果には繋がりませんでしたが、速さはありましたし、これまで課題の多かった低速サーキットのモナコでここまでやれたという大きな自信を持って次のカナダに向かえると思います。予選ではうまくタイヤを使えましたし、レースでもロマンがあれだけのことをやってくれましたからね。

 ですが、カナダはモナコ以上に厳しいのではないかと予想しています。ハードタイヤは硬すぎるので、モナコ同様にみんながあまり選択していないですし、またミディアムタイヤとソフトタイヤがメインになると思います。モナコでうまく機能させることができたタイヤではありますが、カナダはモナコと違って長い直線のあるトラックで、ダウンフォースを削らなければならないので、この状況でモナコと同じようにタイヤを使うことができるかどうかがキーポイントになりそうです。

[オートスポーツweb ]

最終更新:6/5(水) 12:46
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