ここから本文です

「祭りの場」林京子 「犬死にしたくない」被爆体験を次代に【あの名作その時代シリーズ】

6/6(木) 12:30配信 有料

西日本新聞

学生たちが行き交う長崎大のキャンパスを覆う大きな影。61年前、ここで踊っていた若者たちはみんな消えた=長崎市文教町

 「あの名作その時代」は、九州を舞台とした作品、または九州人が書いた著作で、次代に残すべき100冊を選び、著者像や時代背景、今日的な意味を考えながら紹介するシリーズです。西日本新聞で「九州の100冊」(2006~08年)として連載したもので、この記事は06年8月6日付のものです。

**********

 日差しが痛い。真夏の太陽は、足元にくっきりと映し出された影を射抜き、地中に眠る人々に光を当てているようにさえ思える。七月下旬、長崎市の長崎大文教キャンパス。暑さのためか、学生たちの姿は広大な敷地に散在する木々よりも少ない。かつて同年代の青年たち、もっと若い少女たちが日々、汗と油にまみれながら刹那(せつな)的な青春を送り、そして一瞬にして消え去ったことを思い起こさせるものはない。

 キャンパスの北側に隣接する一角に「三菱」をかたどった石碑がひっそりと立つ。「原爆殉難者芳名碑」。兵器工場の建物の中で、あるいは出陣学徒を送り出す儀式の最中だった広場で、三〇〇〇-四〇〇〇度の熱線を浴び、秒速三百メートルの爆風で吹き飛ばされた人々の名が刻まれている。

 被爆六十年の昨年、林京子さんは同級生と初めて碑を訪ねた。「ごめんねぇ。ここにおったとね。寂しかったでしょう。今までごめんねぇ」。級友の名をなぞって泣いた。そして今年もこの碑の前に立った。「ごめんねぇ」。生き残った者が亡き者に掛ける言葉はほかに見当たらなかった。

 一九四五年八月九日。「被爆者林京子」の戦いはこの日から始まった。 本文:2,596文字 写真:1枚

続きをお読みいただくには、記事の購入が必要です。

すでに購入済みの方はログインしてください。

  • 税込216
    使えます

サービスの概要を必ずお読みいただき、同意の上ご購入ください。 購入後に記事が表示されない場合はページを再度読み込んでください。 購入した記事は購読一覧で確認できます。

西日本新聞

最終更新:6/6(木) 12:30
西日本新聞

おすすめの有料記事

使えます

もっと見る