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一気飲みして死亡…泥酔を介抱するのは誰の責任? 近大の飲酒問題から浮かぶ境界線

6/12(水) 7:00配信

産経新聞

 酔いつぶれた人を介抱するのは誰の責任か。多くの人が直面したことがあるだろう事態に、一つの判断が下された。平成29年12月に近畿大2年の男性がテニスサークルの飲み会で多量の酒を一気飲みして死亡した問題。大阪府警は5月、保護責任者遺棄致死容疑で飲み会に参加せず介抱していた学生全員を書類送検した一方、飲み会に参加していた上級生の一部は書類送検を見送った。一見、不公平に思える刑事責任の有無。判断の分かれ目はどこにあったのか。

【表で見る】「アルハラ」の定義

 ■ウオッカを一気に…

 飲み会の開始から30分が過ぎたころだった。29年12月11日午後7時半ごろ、近大キャンパスに近い大阪府東大阪市内の居酒屋2階の宴会場に、ウオッカが入った大量のショットグラスが運ばれてきた。

 この日はテニスサークルの役員交代名目の飲み会で、3年生8人と2年生3人の計11人が参加。飲み会では下級生が大量の酒を飲み盛り上げるのが慣例だ。すでにビールを数杯飲んでいた2年生は、ショットグラスのウオッカを次々とビールグラスに移していった。

 2年生の登森(ともり)勇斗(はやと)さん=当時(20)=はそれを2回、一気に飲み干した。まもなく長いすで横になり、呼びかけにも反応しなくなった。

 飲み会が終わったのは午後9時ごろ。それに合わせるように、2年生8人が会場に現れた。「はけさし」。意味は不明だが、サークル内でこう呼ばれる介抱役の学生たちだ。

 登森さんの様子を見ると、スマートフォンで急性アルコール中毒について検索。体温の低下など当てはまる症状があり、残っていた3年生4人に相談した。

 ■「就職に影響が…」

 「急性アル中かもしれない」。3年生らはこう思ったが、救急車を呼ぶことはしなかった。登森さんの年齢を知らず、「もし未成年だったら自分たちが処分されるかもしれない」「先輩の就職にも影響が出るかも…」と心配したためだ。

 結局、学生らは自分たちで登森さんを2年生の自宅へ搬送。翌朝、登森さんは呼吸が止まり、救急搬送されたが、嘔吐(おうと)物をのどに詰まらせて死亡した。

 大阪府警に書類送検されたのは、相談を受けた3年生4人と介抱役の8人。先に帰った3年生と当初から飲み会に参加していた登森さん以外の2年生2人は立件を見送られた。

 判断を分けたのは、登森さんの状態に対する認識の差だった。

 書類送検された学生らは登森さんの様子を把握し、ほとんどが急性アル中を疑っていた。これに対し、2年生2人は登森さんと同様、下級生として大量に飲酒しており、正常な状態ではなかったという。

 一方、帰った3年生は登森さんが酔いつぶれていること自体は知っていた。だが、保護責任者遺棄致死罪の成立には、生命・身体への危険性を認識していることが必要となる。府警は介抱役がいたことに注目。3年生らは登森さんが危険な状態になれば介抱役らが救急搬送すると考えられる立場にあり、自分たちの帰宅が登森さんの死につながると認識していたとはいえない、と判断した。

 ■悲劇繰り返さぬために

 今回の判断を、専門家はどうみるか。甲南大法科大学院の園田寿教授(刑法)は、介抱役について「先輩に相談はしているが、軍隊などのように上の命令が絶対の組織ではなく、救急要請をしようと思えばできる立場」と指摘。「(立件された)上級生と同じ罪というのはかわいそうな部分もあるが、保護責任を果たしておらず、立件は当然といえる」としている。

 立件されなかった上級生については「今回は立件されていないが、介抱役に任せて帰ることが許されるとはかぎらない」とも。注意義務を怠ったとして過失致死罪に問われたり民事上の賠償責任が生じたりする可能性もあるという。

 近大によると、このサークルでは28年にも合宿でメンバーが急性アル中で搬送されていたが、大学側が把握したのは、今回の飲酒死亡問題が起きた後のこと。非公認団体のサークルだったが、若者を抱える大学の指導のあり方にも課題を残した格好だ。

 後を絶たない若者の飲酒死亡事案。悲劇を繰り返さないためには、一人一人が自身の責任と向き合うことが求められる。

最終更新:6/12(水) 14:32
産経新聞

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