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ALSの家族を持っても、自分の人生を生きる。いつの日か表情を失う母と暮らして

6/12(水) 17:33配信

BuzzFeed Japan

ある日、Facebookの投稿で知り合いの母親がALS(筋萎縮性側索硬化症)と診断されていたと知った。その難病のことは、テレビやドラマで何となく知っていた。

時間が経てば経つほどに、自分一人の力でできないことが増えていく。今この瞬間できることが、明日も同じようにできるとは限らない。そんな母と生きる日々は一体どんなものなのだろう。

その人はまだ20代、きっと自分の人生を生きることだけでも精一杯なはずなのに。【BuzzFeed Japan / 千葉雄登】

その人、和田果樹さん(28)の母親は2016年の春にALSと診断された。当時、和田さんは大学院を卒業し、教育NPOに就職したばかり。想定外の知らせは、社会人としてのキャリアを歩み出した矢先に飛び込んできた。

ALSを発症すると徐々に身体中の筋肉が動かなくなっていく。発症後の進行スピードには個人差があるが、呼吸筋が麻痺することで自発呼吸が困難になる。そのため患者とその家族は気管を切開し、人工呼吸器を付けるかどうかという決断をどこかで迫られる。

特定疾患医療受給者証所持者数のデータによると、2014年の段階でALSを発症している人の数は全国に9950人。そのうち人工呼吸器を付けるのは3割ほどだ。人工呼吸器を使わない場合、発症から亡くなるまでの期間は2年~5年と言われている。原因は不明、治療法も見つかってはいない。

当初、和田さんの母親も人工呼吸器をつけることを望んではいなかった。だが、人工呼吸器を付けて独居で暮らしている人がいることを知り、もう一度話し合うことを決めた。

「ALSになったら死ぬしかない、生きていたら幸せになれないって言う人もいるけど、それは違うやろって思ったんです。たしかに時間はかかるかもしれへんけど、それを諦めて死を選ぶっていうのはちょっと違う」

この決断をめぐっては兄弟の間でも意見が割れていた。兄は介護職に就いており、施設でALSの患者と出会ったことがあるという。 「身体も表情も動かないし、何を考えているのかもわからなかった。自分の母親もああなってしまうと考えると、怖い」「何より、母親や自分たち家族のこの先のことを考えると、簡単に賛成はできない」 兄は、母の病気が進行していく間も、誰よりも率先して母親の援助を行なっていた。優しい兄の言うことも、決して間違っているとは思わなかった。

「もうちょっと考えるわ。今は付けないと言ったけど、呼吸器を付けたいと言ったらごめんね」。母からはこんな言葉をかけられた。

母親の幸せを考えたとき、どちらが正解か。答えなど出るはずのない問いと向き合う時間が続いた。人工呼吸器を付けることを選んだ場合は介護の負担が重くなることもよくわかる。

現在では人工呼吸器を付けた場合でも、24時間、公的な介護制度を利用することで家族の支えなしに生活することも可能となっている。だが、「人工呼吸器を付けたら、家族が24時間看なくてはいけない」、「独居で暮らすなんて少数事例だし、絶対に無理です」といった医師からの説明を聞くたび、人工呼吸器を付けないという選択に天秤は傾いた。

心拍数が徐々に上昇し、母の呼吸は次第に弱くなっていく。決断の時が迫っていた。その選択は一人の人間の生死を決定的に左右する。

「負けてたまるか」そんな気持ちが湧いて出た。その時、和田さんを突き動かしたのは母が生きることを困難にする社会への怒りだった。

「本当にいいんですか?」
医師たちは気管を切開する直前まで、何度も確認をする。それでも、考えに考え、話し合いを重ね、悩んだ末に出した結論に迷いはなかった。

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最終更新:6/12(水) 17:33
BuzzFeed Japan

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