ここから本文です

[大弦小弦]「産婦人科の父」が抱えた闇

6/12(水) 5:10配信

沖縄タイムス

 19世紀の米国に、ジェームズ・マリオン・シムズという医師がいた。出産に伴う合併症の治療法などを確立し「産婦人科の父」と呼ばれる。だが、偉人には闇があった。奴隷の黒人女性に人体実験を繰り返していたのだ

▼問題視した住民が2016年、ニューヨーク市にシムズ像の撤去を要請した。委員会の議論を経て、市が撤去したと朝日新聞が報じた。注目したいのは「シムズは多くの女性を救ったのだから、現在の規範で判断されるべきではない」との意見を押し切ったことだ

▼「現在の価値観で歴史を評価するな」という論法は、日本国内でも散見される。満州事変に始まる戦前・戦中の膨張政策は、西欧列強による植民地政策という、当時の価値観を正当化の理由にする

▼沖縄戦を含む太平洋戦争の開戦も、連合国側からの経済制裁を理由に「当時の国際情勢ではやむを得なかった」との主張がある

▼シムズが実験を始めた19世紀前半は、南北戦争より前。黒人奴隷は白人の「所有物」と認識されていた。住民と市は当時の価値観より、反人種差別と人権尊重を優先した。米国の底力を見た思いだ

▼シムズを巡る論争から、学んだ教訓がある。歴史的な事実を検証するとき、議論が分かれたら人権重視の原則に立ち返る。その姿勢こそ、近代社会で人類が到達した普遍性なのだと。(吉田央)

最終更新:6/12(水) 5:10
沖縄タイムス

こんな記事も読まれています

あなたにおすすめの記事

Yahoo!ニュースからのお知らせ