ここから本文です

引きこもり経験者が語る生きづらさ 空白の履歴書、親も引きこもりに

6/14(金) 16:57配信

福井新聞ONLINE

 川崎殺傷事件や元農林水産事務次官が44歳の長男を刺殺した事件などによって、引きこもりに世間の注目が集まっている。現実社会から隔絶した存在として危険視して語られることが多いが、引きこもった人たちにも、向き合い続けている現実がある。今回のゆるパブ・コラムでは、引きこもりに近い状態を経験した福井県内の30代男性に、その生きづらさや望みを語ってもらった。

■その人は引きこもりじゃない

殺人事件の余波で、引きこもりが厳しい視線にさらされている。

引きこもりの定義って何なんだろう。
厚生労働省は「仕事や学校に行かず、家族以外の人との交流をほとんどせず」、筑波大学の先生は「社会参加をしない状態が持続すること」と書いている。「パソコン通信や電話で外の人との接触がある人は該当しない」と書いてあるページもある。
それなら、元農水次官の長男はオンラインゲームの有名人なので該当しなくなるし、在宅で仕事をしている人も該当しないことになる。

僕も厳密には引きこもりではない。
インターネットで外の人と接触があれば、引きこもりには該当しないらしいから。
ネットには引きこもりが集まって雑談が出来るような場所がある。
そこでは自分たちのことを「ヒッキー」と呼んでいる。
僕もヒッキーの一人として、そこに参加していたことがある。

ヒッキーには色んな人がいる。いじめにあった人、過労で心を病んだ人、株とかを売買している人、貯金で細々と暮らす人。
親と同居している人も、一人で暮らしている人もいる。

■親は「採用が難しい」ことを理解してくれない

親の機嫌が悪くなる理由は、子供が働かないからだ。
僕の母親も「働くのが当たり前」「仕事なんて探せば見つかる」という考えの人だ。
実際にいろんな仕事が出来る人なので、挫折を知らない。
だから、「母さんが特別で、誰でも出来るわけじゃないんだよ」と説明しても伝わらない。

不登校気味だった高校の頃、学校の紹介で面接を受けに行った企業で、「君のことは元々採用する気は無かった」と言われた。欠席が多いのが理由だった。
それで、プログラミングのアルバイトをしながら業務請負と就職活動を並行した。
親しくしていたヒッキー仲間は、女性の絵を練習して、ネットで売る商売を始めていた。
スタート地点に立つには、最初に「履歴書の空白」を埋めないといけなかったのだ。

■自殺が身近にあった

僕は会社を辞めて実家に帰った。上司が自殺した後で、うまく眠れなくなったからだ。

ネットでは「働かないのは甘え」「言い訳をするな」「死ね」と、ヒッキーを見下したい人も沢山いた。
社会や政治にもおかしな所はあると思うけれど、同情よりも罵倒の方が多かった。
「親が責任を持って子供を始末するべきだ」とか「国が殺処分しろ」だとかは、今に始まったことじゃなくて、もうずっと前から言われ続けてきたことだ。

そのせいか、「国営の安楽死施設があればいいのにね」という発言もよく見かけた。
そんなものを作ってしまったら、働いてる人も沢山死んでしまうのではないかと思ったし、財政をはじめ、政府にとって都合の悪い人は自殺を勧められてしまうのではないかと思った。

■親が引きこもりになった

ヒッキーの恋人が出来たり、再就職を果たしたりして落ち着いた後、父親がうつ状態になり、仕事を辞めてしまった。

母は案の定、父に「働け」と何度も迫り、そのたびに父は会話を止めて沈黙した。
精神科に通院してもらうだけでも大変だったけど、仕事を探すのはもっと大変だった。
派遣会社に登録すれば、かわりに仕事を探してもらえるので良いという話だったけど、紹介された仕事を、父は初日で「申し訳ないが出来そうに無いです」と断って帰ってきた。

■少しずつ歩み寄って欲しい

僕は父を責めるつもりは無いし、「働け」と言ったこともない。
僕が父に「働け」と言われたことは一度も無かったからだ。
人生が思い通りに行ってないことなんて、本人が一番よくわかっているのだ。

このご時世、仕事なんていつ無くなるかわからないし、安定して長く働ける会社がすぐに見つかるなんて望みこそ、甘い考えだと思う。
いきなり自立を求めても出来ないのに、出来ないことを要求すると、人は壊れる。
だから、少しずつ働けるように、家族も少しずつ歩み寄って欲しい。

福井新聞社

最終更新:6/14(金) 16:57
福井新聞ONLINE

こんな記事も読まれています

あなたにおすすめの記事

Yahoo!ニュースからのお知らせ