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【2000万円報告書】現実から目をそらすな(6月17日)

6/17(月) 9:51配信

福島民報

 金融庁の金融審議会が人生百年時代に向け、老後を支える資産形成への取り組みを促した報告書が各方面からの批判を浴びて、実質撤回に追い込まれた。「夫婦で九十五歳まで生きると二千万円不足する」という試算が、野党には「年金百年安心はウソだった」という批判の口実を与え、参院選への影響を心配する政府、与党からは誤解を招く表現だと突き放された。しかし、こうした流れで不幸になるのは結局、国民ではないか。目をそらしていては直面する現実に対処できない。

 「高齢社会における資産形成・管理」と題された報告書は、まだ金融庁のホームページに掲載されている。目を通せば、昨今よく唱えられる老後の備えの必要性について、ごく当たり前の背景を前提に年代ごとの心構えなどを丁寧に説明していると感じる。

 現役世代から少額でも長期に積み立てれば、リスクを低減しながら資産形成できる-として、遠い将来ではなく現在の「自分ごと」として行動するよう助言している。委員会には大学や金融関連企業の専門家が多く、貯蓄よりも投資に誘導するPR色さえ感じられる。実質賃金が上がらず毎月精いっぱいの世代や非正規雇用者など貯蓄も難しい人からは、報告書が自分たちを見ないかけ離れた提言と受け取られたのではないか。

 麻生太郎金融担当相は報告書自体を受け取らず、自民党の森山裕国会対策委員長は報告書はないのだから予算委員会の議論にもなじまないとした。今年は五年に一度行われる年金の財政検証の年だが、公表は参院選後らしい。

 政府は年金制度を「百年安心」と説明してきたが、多くの国民は既に信じておらず、年金だけで暮らせるとも思っていないだろう。唐突感はあったとしても今回の報告書は国民に一定の現実を示した。それを見て見ぬふりするのは政治の責任の放棄ではないか。いずれ同じような数字で説明せざるを得ない時が来るはずだ。そして政治にとっても、国民にとっても問題への着手は遅くなる。

 年金制度そのものの安定は確保しなければならない。さらに国民に資産形成による自助を求め、高齢者の安定した雇用や住宅政策、医療・介護など暮らしを支える総合的な政策がなければ、これからの超高齢社会での安心はない。

 政治が安心を見せられなければ、個人は防衛を優先することになる。資産が消費ではなく貯蓄に向かえば、景気は誰も望まない負の回転を招くだろう。それはやはり国民の不幸だ。 (佐久間順)

最終更新:6/18(火) 17:05
福島民報

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