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対中戦略練り直すEU、分断狙う中国

6/17(月) 12:15配信

ニュースソクラ

欧州の弱みは米国と一枚板になれぬこと、もはや手遅れなのか

 1989年の天安門事件で最も厳しい対応を見せたのが欧州諸国であった。中国政府の人権侵害に対して、武器の禁輸を含む厳しい制裁措置を取った。しかし、その後、欧州諸国は中国の高度成長、巨大な消費市場に魅入られて、中国との政治・経済関係を強めていった。

 メルケル独首相が就任以来11回も訪中するなど独中関係を重視、英国も習近平国家主席の訪英にあたりバッキンガム宮殿に宿泊させた。中国主導のAIIBの設立とともに逸早く参加表明したのも欧州諸国であったのは記憶に新しい。

 しかし、中国の政治、経済、軍事の各面に亘る影響力の拡大をみて、遅ればせながらもEUでは今年3月21、22日の首脳会議で対中戦略の練り直しについて討議した。いまや中国にとってEUは最大の輸出先となっている。EUからみても中国は米国に次ぐ第2位の輸入相手国である。中国はEU輸出全体の2割を輸入、EUに対して中国全体の10%を輸出している。

 しかし、中国では国営企業に大規模な補助金を出したうえで最先端技術の研究開発に官民一体で取り組む特異な産業政策を取っている。中国での合弁事業では技術公開を要求される。サイバー攻撃を通じて高度技術の機密を盗むなど知的財産の窃盗も当たり前のように行われている。それでなくとも中国への経済依存度はここ数年飛躍的に高まってきた。

 いまや欧州では、中国が経済、外交、軍事面で世界に対して大きな影響力を駆使するようになった姿、つまり一帯一路の進展、AIIBの設立、南シナ海での人工島建設、さらにはスリランカ・パキスタンなどでの港湾権益の確保などに驚愕と恐怖を覚えるようになっている。

 さらに中国のEU向け投資のうち、ハイテク、情報分野などの戦略的部分に対する投資に対する懸念が増大している。こういう情勢の下、欧州委員会は、3月のEU首脳会議に向けて中国に対する新戦略のペーパーを作成するに至った。

 その中で中国について「(自由主義社会とは異なる)企業統治モデルに促進されたシステマティックなライバル」として、欧州にとって手ごわい競合相手であると位置づけた。このため、中国の対欧州投資について,中国が多額の補助金計上や公共部門の調達における差別的取り扱いなどの懸念を払しょくしない限り、必要な分野では制限的にルールを厳しくするように警告している。

 中国の欧州における経済的影響力の急速な拡大とその影響力の行使は欧州諸国を慌てさせて、中国に対するスタンスの変化を生み出した。その対象はフランス、英国、オランダ、デンマーク、スウェーデンにまで広がっている。

 何と言っても焦点は技術力の高いドイツである。アルトマイヤードイツ経済相は「中国の成長を続ける驚嘆すべきテクノロジーは欧州がなぜ欧州のチャンピオン企業を支援するような新しい産業政策が必要かを説明するものである」と対抗意識を露にしている。中国との競争に打ち勝つこと、主として国家から多額の補助金を受けている中国の国営企業に対して大企業の合併などを通じて中国や米国に負けない汎欧州的な大企業の誕生を促している。

 欧州から見ても中国は重要な投資先となっている。フォルクスワーゲンは年産1千万台のうち400万台を中国で売りさばいている。化学大手のBASF、重機のシーメンスも中国でのプレゼンスは大きい。しかし、いまや中国は欧州の優秀な製品を購入することだけなく、欧州企業に対するM&Aを通じた企業獲得に興味を示すに至っている。ちなみに中国の対EU直接投資は過去5年間で急拡大している。

 欧州のインフラ基盤に中国が浸透しているのも事実だ。欧州全域におけるファーウェイによる新通信規格5Gを組み入れた携帯電話ネットワークの構築には米国を中心にデータがすべて中国当局に筒抜けになるのではないか、との大きな懸念が生まれている。中国当局は、こうした懸念は不公正で全く根拠がないと否定している。いまのところ、ファーウェイを追い出すといった動きは欧州にはないものの、12月にはドイツ政府は非欧州企業によるドイツ企業の出資に対して介入の度を強めるように法制を強化した。

 しかし、今後、欧州が一体となって中国に対して厳しくあたっていけるかは疑問である。

 第一にはドイツ、フランス、オランダ、デンマークなどの欧州北部諸国は確かに対中警戒感を強めてきた。中国の金融支援など必要ない豊かな国ばかりである。しかし、中国の圧倒的な金融、経済力の前にイタリア、ギリシャ、ポルトガルなどの南欧諸国やハンガリー、ポーランドなどの中東欧諸国は中国の支援を期待してひれ伏す状況となっている。

 中国の習近平国家主席は3月のちょうど同じ時期にイタリア、モナコ、フランスを歴訪した。ブラッセルが中国を「システマティックなライバル」として警戒してあたるようにと勧告した、まさにその時にイタリアは、G7諸国の中で初めて一帯一路に関する覚書を調印する模様だ。イタリアのポピュリズム連合政権は、財政ポジションの改善を執拗に求めるEUを横目に、中国の資金拠出でインフラ整備などを図っていく方針だ。

 さらに4月9日には李克強首相がクロアチアを訪問して中東欧16か国と中国との会合、いわゆる16+1(中国)会合に出席した。これには同会議に強く参加を希望したギリシャも加わった。「16+1」は中国との一帯一路の推進やイノベーション、エネルギーの分野でも中国との協力を進めることで一致した。開催国クロアチアのプレンコビッチ首相は「東欧の中国への輸出額はこの数年で5倍近く拡大した。今後も双方の交易を拡大していく」と高い意欲を示した。

 来年はギリシャも加えた「17+1」として北京で開催する予定だ。この「16+1」は中国が欧州を分断させるために利用されるとして西欧の外交筋が長年懸念を示していた代物だ。しかし、中国はEUを個別に切り崩し、南欧、中東欧などに対する圧倒的な資金力を背景とした資金供与を実施した場合、ドイツ、フランスや欧州委員会がこれを制止することはできないことを前々から見抜いていた。

 さらに南欧でも、ポルトガルのコスタ首相は中国などの外国からの投資を審査強化することに疑義を呈している。なぜならただでさえ保守的な欧州大陸を益々保護主義的な方向に持っていきかねないからだと説明している。

 第二には、対中警戒論が欧州で高まってきた背景には、移民・難民問題、既成政治勢力に対する反対派政党の台頭などEU自身の内部分裂の大きさも関係している。EU内の大国である独、仏、オランダなどの真の懸念は、欧州自身が不安定な政治経済状況に置かれている間に、中国が欧州に対する影響力を年々強めてきたことにある。

 ブレクジット、イタリアなどでのポピュリズム政権の台頭、ポーランド、ハンガリーなど東欧諸国のEUへの反感などの陥穽をつく形で中国が入り込んできた訳だ。近い将来に欧州が自由と民主化を重視した政治的な統合に向かっていける可能性はゼロに等しい。経済的要因のみならず、政治的にも中国の影響力増大を防ぐ手立ては乏しい。

 第三には中国に対する凝集性の高い政策を推し進めるにあたっての困難性は米国との関係にもある。外見の上では、欧州は米国のタカ派的な対中政策に近付きつつあるようにみえる。米国の対中圧力の強化で欧州は利益を享受もしている。中国が米国のプレッシャーで中国に対する外資への投資規制を緩和したことが好例だ。これは長年欧州が要望してきたことでもある。

 しかし、欧州が、米国と一緒になって対中警戒政策をとっていくことは難しい。EUは外交面を中心に、中国と協調していくことが必要であり続けるのだ。すなわち、トランプ政権が拒絶してきた多角的な合意を救うには欧州と中国が力を合わせなくてはならないことが多い。代表的な例はイランとの核交渉、気候変動に関するパリ協定である。

 米国は貿易面に関しては中国のみならず欧州も敵視している。欧州に対しても鉄鋼、アルミに始まり、最近では自動車にいたるまで高関税適用で脅してきた。欧州は米国と一緒になって反中の声を上げるような単純なポジションにはない。

 第四には、EUの外交官たちは欧州サミットにおける中国の議題は他の内政面の危機によりずっと後方に押しやられてきた。中国問題を取り上げた3月21、22日の欧州サミットでも、主題は言うまでもなくブレクジットであった。EU首脳が北京に対して従来に比べて強硬な姿勢を強めようとしても、すでにその時期を大きく逸している。

 上記で見てきたように、中国の欧州進出が相当に浸透してしまった段階では防衛的な手段は限られていると言えよう。しかし、そうは言っても中国との中長期的な政治、経済面での付き合い方を考えていくというのは重要な問題である。EUがブレクジットを巡る英国政治の末期的なダッチロールに巻き込まれて、これ以上手遅れにならないように望むものである。

俵 一郎 (国際金融専門家)

最終更新:6/17(月) 12:15
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