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「訓練再開早いのでは、と意見あった」 特集・JAL進俊則氏に聞く破綻後のパイロット自社養成

6/18(火) 19:47配信

Aviation Wire

 パイロット不足が叫ばれる中、航空会社ではさまざまな方法で難局を乗り切ろうと、対策に取り組んでいる。訓練生や副操縦士、機長とキャリアを重ねるには10年以上の時間を要し、一人前のパイロットをすぐに育てるのは困難だ。

 こうした中、JALは訓練期間を短縮した新方式「MPL(マルチクルー・パイロット・ライセンス)」を、2014年4月から導入。2017年2月には、MPLで合格した副操縦士が巣立っている。

 MPLは、訓練の初期段階から機長と副操縦士の2人乗務(マルチクルー)を前提に訓練を実施。航空会社のパイロットとして求められる、チームで運航する能力を訓練の初期段階から身につけられ、訓練期間も従来より約半年短縮できるといった特徴がある。ICAO(国際民間航空機関)は2006年に規定しており、海外の航空会社も採用している訓練方式だ。

 一方、日常の訓練をしながら、新人パイロットの訓練方式を大きく変えることは、安全に直結する問題でもあり、航空会社にとって難しい判断を迫られる課題だ。

 JALでは2010年1月19日の破綻を機に、資格維持以外の訓練ができなくなった。新人パイロットの養成は全面停止。訓練生として入社した人も、地上勤務に移らざるを得なくなった。

 しかし、訓練が停止したことで、新制度に大きく舵を切ることができた。JALはMPLのほか、2017年4月に施行された国の新たなパイロット訓練・審査制度「CBTA(Competency-Based Training and Assessment)プログラム」を適用し、エビデンス(証拠)に基づいて構築した訓練・審査制度「EBT(Evidence-based Training)」を導入。教官たちがやりたくてもできなかったことを、実現する機会を得た。

 当紙では、JALのパイロット訓練生が、米フェニックスやグアムで訓練を重ねる姿を取材した。現地の様子に入る前に、2010年12月から今年3月まで運航本部長を務め、6月18日で取締役を退任した進俊則氏に、パイロット訓練改革の裏側や今後の課題を聞いた。

 進氏は2012年から常務、2016年からは専務として、パイロットの視点を経営に生かしてきた。2013年に、社長時代の植木義晴会長がエアバスA350導入を決断した際、進氏も植木会長と同じく、A350に可能性を感じていた点も影響したようだ。そのA350は6月13日に、エアバスの最終組立工場があるトゥールーズを出発し、翌14日に羽田空港へ舞い降りた。

◆自社養成再開、懐疑的な声も

 「MPLは破綻前からやろうと思っていたのですが、切り替えるのが難しいよね、という話に社内ではなっていました。破綻がきっかけになったのは事実です」と、進氏は語る。

 国の法整備も同じころに進み、「タイミングがバッチリ合った」(進氏)という。当然JALとしても、国がMPLを認める方向に進んでいたことは把握していた。しかし、破綻した直後のJALにとって、パイロットの自社養成そのものが、道を閉ざされる可能性があったという。

 社内では自社養成による訓練再開に対し、懐疑的な声も聞かれたという。「訓練再開は早いのでは、という意見はありました。継続企業として、当時は将来を考える余裕がなかったですね。今後の事業規模が決まっていない中で、(必要になるパイロット数を)少し盛るくらいでと考えても、当時はバッファーを持つことがダメだった。事業規模にあったものにせよ、とね」。

 JALが再生後、事業拡大ができる段階が訪れても、今度はパイロット不足が会社の成長を止めてしまうおそれがあった。

◆「あうんの呼吸で理解してくれた」

 では、なぜJALはMPL導入を決断したのか。破綻から間もないこともあり、訓練コストの低減に目が行きがちな状況だった。しかし、進氏はそうした見方を否定する。訓練の早い段階から、実際の乗務に近い状況を体験させ、機長と副操縦士がしっかりとコミュニケーションを取り、双方の意見を取り入れて操縦できる環境の実現が重要だった。

 「MPLはこれまでの半分くらいの訓練期間で仕上がります。しかし、そこは目的でなかった。お金が安くなるからというものではなかったけど、ほかの部署には経済効果が説明しやすいという事情がありました」と、当時を振り返る。

 進氏の前任の運航本部長は、パイロット出身の植木会長だった。「MPLの話が出た時、植木が社長になっていました。社長が元パイロットというのはやりやすかった。運航本部には厳しかったですが、あうんの呼吸で理解してくれます」と、破綻からさほど時間がたたない中、自社養成の新しい形としてMPL導入にこぎつけた。

◆A350訓練「これはすごい」

 MPLとともに、破綻後のJALがパイロット訓練を劇的に変えた部分が、証拠に基づいて構築した訓練・審査制度であるEBTだ。これまでのパイロットの関係は、機長が上司、副操縦士が部下という絶対的な上下関係ができてしまい、副操縦士が問題に感じたことがあっても、機長に進言しにくい雰囲気が、自然と出来上がってしまっていた。

 「私の若いころとは違い、副操縦士も意志を表明する必要があります。機長も言いやすい雰囲気を作らないとダメで、聞き耳を持たないといけない」(進氏)と、コックピットのパイロットが力を合わせ、緊急事態にも対処できるように日ごろからチームで取り組めるようにすることが、運航の安全性を高める上で不可欠だからだ。

 「破綻前から土壌はあって、CRM(Crew Resource Management)ができ始めたころに目が出てきてはいました。原点は安全をいかに守るかで、どうやって全員の力を合わせ、チームとして機能させることができるかでした」と、進氏は話す。

 新しい訓練体系を整備していく中で、A350を導入する中で発見することもあったという。

 「米国と欧州では訓練体系が異なります。JALは過去ずっとボーイングで、JAS(統合前の日本エアシステム)のA300以外にエアバス機の経験がありませんでした。A350導入で知識を得る中で、これはすごいと感じるものがありました。教育理論などにこだわりがある。米国と欧州双方の良いところを取り入れたいですね」と、エアバスによるA350のパイロット訓練を目にしたことで、これまでとは違った視点で、訓練体系を模索できるようになったという。

◆複数機種の同時乗務解禁が課題

 パイロット不足が日本の航空業界で課題として取り上げられる際、大量の退職者が発生する「2030年問題」がクローズアップされることが多い。

 「コンスタントに採用できるのが一番良く、採用の山と谷があると、この先同じことが起きます。2030年問題を解決するためにいま山を作ってしまうと、30年後に同じことが起きる。じゃあどうするの? というところでもがいています」と、採用する人数のバランスに難しさが伴う。

 こうしたパイロット養成だけではなく、一度に1機種しか操縦できない現状も見直す時期が来ているという。すでに欧州では操縦方法がある程度統一されたエアバス機に対し、類似性が高い機種同士など一定の条件で、複数機種の乗務を認めている。

 「例えばA330とA350は同型機として扱われています。後は国により、同じ日ではダメな国とそうでない国もあります。今は機種移行のために半年休ませる必要があります」と進氏は説明する。ボーイング機でも、777と787は共通化が進められており、JALも今後777の退役が進んだ場合、2機種のライセンスを持つ人が短時間で787へ移行できれば、かなり負担が減るという。

◆「強い使命感持って」

 訓練体系の見直しや、複数機種への同時乗務解禁に向けた働きかけと、パイロット不足解消に向け、さまざまな取り組みが進んでいる。

 「最終面接では、女性の方が増えていますね。どんどん増えている。一方で、まだ女性の中でパイロットという職業が認知されていない。パイロット採用の説明会を女子大でも開いているのですが、認知されればもっと応募が増えるのでは」と、進氏は話す。女性の志望者が増えることが、パイロット不足を解消する上で重要な要素だという。

 最後に、パイロットを目指す人にどのような期待を抱いているのかを聞いた。

 「強い使命感を持って欲しい。かっこいいから、というのはきっかけはそれでもいい。お金を稼げるという動機だと、挫折する人が多いように思います」。憧れだけでは続かない仕事に対する姿勢を説いた。

Tadayuki YOSHIKAWA

最終更新:6/19(水) 13:28
Aviation Wire

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